あれから三年……
「ん~、気持ちいいっ!」
湯船の中で手足を伸ばす少女……アスカ。
「今度、センパイを連れてこようかな?でも、開放的な気分になって、センパイのケダモノも解放されたら……きゃっ!」
自身の妄想に恥しくなったアスカは、湯船に身体を鎮め気持ちを落ち着かせる。
センパイ……カスガ・レイとは、すでに何度か肌を重ね合った仲であり、今更恥ずかしがるというのもおかしなものではあるが、それはそれ、これはこれ、と言うモノである。
それに、この三年間と言うもの、アスカも、レイもお互いに本音を見せ合っていないため、何処かぎくしゃくしている部分があることも否めない。
「センパイもねぇ、私の前で弱音を吐いてもいいんだよぉ。どんな汚い事や浅ましい事を考えていたって、私は全部受け止めてあげるんだから……私を頼ってよ……センパイ……。」
アスカがボソッと呟く。
自分は本音を話していないのに……ズルい女だ……という自覚はある。
それでも、レイの全てを受け止めたい、レイに頼られたい、というも間違う事なきアスカの本音であった。
◇
「ジェイ、最後の工程だ……準備はいいか?」
「オゥ、今度こそ成功させるぜ。」
俺はその答えを聞き、一気に魔力を流し込む。
「グゥッ……よしっ!ここでっ!」
ジェイと呼ばれた青年が、手にした道具をグッと引っ繰り返す。
途端に、二人の間にあったものが光を放ち、唐突に消える。
「……やった……のか?」
俺がそう呟くと、ジェイが光を放っていたモノに近づく。
「……よしっ!成功だぁッ!」
しばらく、そのモノを弄っていたジェイが大声を上げた。
「そうかっ、そうかぁっ!」
俺も喜びの声を上げる。
長い道のりだった……ここに至るまでに1年かかったが、ようやく次の段階へ進むことが出来る。
「これで「扇風機」が作れるっ!もうあの暑い夜を過ごさなくてもよくなるっ!間に合ってよかったっ!」
俺がそう叫ぶと、ジェイは複雑な表情を見せる。
「あ、いや、その「扇風機」とやらもいいんだけどな……「風車」の方は……。」
「あぁ、設計は渡しただろ?それにこの「魔法陣」を付与すれば動くんじゃないか?」
「そんないい加減な……。最後まで面倒見てくれよぉ。」
ジェイが情けない声を出すが、風車よりも今は扇風機の方が大事なのだ。
今俺たちがいるのは、大陸の最南端。
大国アトラスとユーロに挟まれた、小さなサウスと呼ばれる地方の中心街から、徒歩で半日ほど歩いたところにある名もなき村。
海岸に面していて海の幸が採れるほか、近くに小さな山があり、森が茂り、山の幸、森の恵みがあって、さらには平野と草原が広がっているため農作物にも事欠かない恵まれた土地だ。
そんな土地が、近くに大国がありながらも、放置されているのは、「両国に挟まれているから」であった。
一国がこの地方に攻め込んでこれば、それを理由に他国が攻め入る大義名分を得るため、下手に手出しが出来ない。
その事を利用して、この地域の街を治めている街長達は、うまく両大国と連絡を取り合い、街を経由することで両大国の貿易を担いながら、両国から身を護っているのである。
両大国としても、下手に手を出して争いを誘発するより、うまく利用して財を成す方が得策だと考え、相手国が動かない限り静観を決め込むという方針に至る。
かくして街中では両大国の商人、軍人、住民などが入り混じる坩堝の地域が出来上がったのである。
この街では、様々な地域からの人々の流出が多いため、少し変わった身なりの男女を見かけるようになったとしても誰も気にしない。
だから、俺はこの地方を一時的に身を隠す場として選んだのだ。
ここに移動してきた理由のもう一つが魔道具。
両大国に挟まれた地域ということが、この地方にある特産……「魔道具」を産出することになった。
魔道具とは、その名の通り、魔法を使った道具、魔法が使える道具の事である。
例えば、着火の魔道具。
ユーロ地方では、火熾しを簡単にする道具が創られていて、各家庭に設置されている。
この道具が出来るまでは、人々は、木で木をすり合わせて種火を作るしか火を熾す方法がなかった。
その為、各家庭で火種を絶やすことが出来ず、故意に火種を失うようなことを起こせば死刑に処されるほど重要な事であった。
しかし、火種を絶やさないということは、常に火がある状態であるため、乾燥しやすいユーロの北方地方では、火事が頻繁に起き、気温が高い南方地方では、暑さに辟易していたのだ。
だからこそ、常に火がなくても、好きな時に簡単に火を熾せる「着火道具」は、ユーロ各国だけでなく、近隣諸国にまで歓迎された。
そんな着火道具の唯一の欠点といえば、その大きさであろう。
大人一人分ほどの場所と重量がある着火道具は、据え置きに問題はなくても、持ち運ぶには適していない。
その為、街から街へ移動する商人や冒険者たちは、旅の間中、昔ながらのすりこ木や火打石を使用して苦労しながら火熾しをしているのだった。
それに対し、魔導大国アトラスでは、住人の大半が着火の魔法が使えるため、普段の生活はもちろんのこと、移動中でも火種に困ることはなかった。
着火の魔法が使える、というだけで、冒険者や商人達から引っ張りだこになるぐらい、便利な存在なのである。
ただし、これにも問題があり、魔法は個人の魔法力と適正に由来していて、着火の魔法程度であればそれ程問題はないが、それ以上の魔法の行使となると、個人差が激しすぎた。
着火や水生成といった基本魔法を無制限になんなく使え、さらには火球や風刃といった攻撃魔法を使いこなすような大魔法使いもいれば、着火以外は何もできないというものも存在する。
完全に個人に由来する魔法の存在は、その個人差故に非常に扱いにくいものだった。
西の大国、ユーロは、その国内に、多数のアンコモン人の集落があり、国としてコモン人とアンコモン人の融和政策をとっている為、アンコモン人に対する差別は少なく、また、アンコモン人の中でも、鍛冶や細工に特化した種族が多数いたために、様々な技術が発展した国で「技術大国」とも呼ばれている。
一方、南の大国、アトラスは、やはり国内にアンコモン人の集落が多数あり……というか、国民の大半がアンコモン人という、一風変わった国である。
一口にアンコモン人といっても、多種多様であり、実際には、アンコモンの各種族をまとめている長たちが集まり、合議制で国を治めている連合国家なのである。
そして、アトラスに住むアンコモン人の殆どが魔法を使う魔法大国としても名を馳せているのだった。
そんな両極端な2大国の間に挟まれているサウス地方。最先端の技術と最先端の魔術、両方に触れ合う機会の多い住民の中に、「いいとこどり」をしようと考えるものが出てくるのは自明の理だった。
そして、長い時間をかけて「魔道具」が創られ、それらの理論が系統立てされて広がっていった。
ユーロなどの技術に寄りかかった国にしてみれば、今まで技術的に不可能だったことが、魔法という要素を加えるだけで解決するモノであり、アトラスなどの魔法に寄りかかった者達からすれば、個人差に関係なく、一定の効果が得られ、さらには魔力が必要ない、もしくは魔力消費が少ないモノなのである。
先に出した「着火の魔道具」は、本体に着火の魔法陣を書き込み、定着させることによって、ユーロの技術では難しかった「携帯できるほどの小型化」を可能にした。
着火の魔法陣には、大人の手のひらサイズぐらいの大きさが必要なため、それ以上の小型化は難しかったが、それでも携帯するのに問題はなく、旅人や冒険者たちから大喜びされた。
一方、魔導大国アトラスとしても、この魔道具があれば、わざわざ、着火の魔法を唱える必要もないので無駄な魔力を使う事が無くなった。
また、魔力操作に長けた者なら、魔力をため込む魔石がなくても使えるため、さらなる小型化、軽量化、そしてコストダウンが可能になることも分かり、汎用、専用、という区分で魔道具のさらなる発展に寄与するとともに、魔道具を補助に使う事で、今まで以上の魔法が使えるなど、魔道具に対する期待値がどんどん高まっていったのだ。
現代日本で、便利な道具に囲まれて生きていたのに、急に呼び込まれ不便な生活を強いられてきたレイ達が、その魔道具に目を付けるのは時間の問題だったといえよう。
急激に発展した魔道具の技術だが、どのような道具が必要か?などというのは技術力より発想力の方がモノを言う。
そして、現代日本の様々な便利な道具を知っていても、創り出す技術がないレイとアスカ。
その両者が結び付けば、文化ハザードが起きても仕方がない事だった。
レイとアスカは、自分たちが快適な暮らしを送るためには自重する事が無く、二人が来てから、あっという間に、この村の生活水準が、それこそ、他国から目を付けられるぐらいに代わってしまったのだった。
ご無沙汰してます、約1年ぶりの連載再開です。
文中では3年たっていることから考えても、再開は早い方、という事で(^^;
取りあえず、漂浪者のレイとアスカです。他のメンバーは?とか、ラーの国がどうなっているのか?などは、追々に明らかになっていく……はずです。
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