下剋上 その6
「……哀れだな。」
俺はラース城の上層と中層の間にある森の中で、そんな事を呟く。
目の前には、グラン王の首が無造作に放置され、離れたところでは、グラン王の身体と思しき肉塊が転がっていた。
レイがこの場に降り立ったのは、狼たちが群がっていたのを上空から見つけたからだ。
こんなに周りが騒がしい中で、珍しい、と思っておりてみたら、狼たちが逃げ去った後には肉塊が、そして、その近くでは、まだ無事だったグラン国王の首が転がっていたのだ。
「まぁ、これでとりあえず終了か。」
べラムのラース城攻城戦から始まったこの戦は、ラース城防衛軍の想定以上の抵抗により、消耗戦になりつつあった。
上層の本丸以下は、すでにドラン軍の手により抑えられていたが、グラン国王は、残った兵力を本丸に集中し徹底抗戦に入った。
防衛軍の兵達も、ここが落とされたら終わりというのは分かっている。
グラン国王が好き放題していたことは兵士たちも知っている。知っていながら諫めなかったという事で自分たちも同罪にされる。そう思えば、簡単には降伏することは出来なかった。
結果として、死兵と化した兵士たちの死に物狂いの抵抗により、本丸の攻略は遅々として進まなかった。
加えて、リーン公国の増援の存在。
ドラン軍に負けていない性能の最新型マギアグレイヴを駆るリーン公国の騎団の存在に、ラース城防衛軍の兵士たちは微かな希望の光を見出していた。
ドランがやっていることは、いわばクーデターであり、他国から見ても利は我らにあり、というお墨付きがもらえたようなものだからだ。
「いざとなればリーン王国に亡命することが出来る」というような考えも兵士たちの胸の中によぎったことであろう。
しかし、それも、この場を凌いでからの事だった。
ドラン軍の最新鋭マギアグレイヴを、リーン公国軍が抑える。
その合間を縫って襲い掛かるドラン軍をラース城防衛隊が抑える。
一進一退を繰り返す争いの中、グラン国王が討たれた、という情報が飛び交う。
最初は惑わすための偽報と捉えていたラース城防衛軍とリーン公国軍だったが、ドラン直々の声明と、大空に浮かび上がるスクリーンに大々的に映し出されたグラン国王の生首を見せられては、この戦の敗北を認めないわけにはいかなかった。
敗北を悟ったリーン公国軍の行動は素早かった。
トール公子の指揮のもと、現在の持てる火力を全弾ぶっぱなし、その混乱の隙をついて撤退していった。その後に、ドランの統治を認めない一部の兵士たちが機乗したマギアグレイヴ共々ついていったため、リース公国としては、今回の戦の結果は、負けはしたが戦力を増強させることが出来たため、トントンといったところだろう。
俺は、そんな様子を上空から眺めながら、自分たちも撤退しようとアスカに連絡を取ろうとしたところに、当のアスカから無線が入る。
『センパイっ、逃げてっ!』
「どうした、アスカっ!戦は終わ……。」
『嵌められたのよっ!ドラン軍は反逆罪でセンパイを捕らえようと……』
俺の言葉に被せるようにアスカが現状を伝えようとするが、最後まで聞くことが出来なかった。
近くにいたギブルフライヤーたちが、砲口を俺に向けて取り囲んでいたからだった。
「無駄な抵抗はよすんだな。カスガ・レイ。貴様を国家反逆の罪により処刑させてもらう。」
ギブルフライヤーの背後からアルダムラーが姿を現す。
「何のことだ?」
「今更とぼけるつもりか、カスガ・レイ!貴様がグランと内通し、秘かに逃亡を手伝ったことは分かっているのだよ。」
「何をバカな事を……べラム、貴様の差し金か?」
「ふっ、貴様のせいで、いろいろ狂わされてきたが、それも今日で終わりだ。……構えっ!」
べラムの号令で、ギブルフライヤーの方向の照準がアーテルに合わされる。
「撃てっ!」
ドォォォーンっ!
アーテルに向けられた20を超す砲口から、一斉にフレイボムが放たれる。
辺り一面に爆炎が広がり、数瞬の間、視界が塞がれる。
「ふっはっはっはっはっ!これで邪魔ものはいなく……んッ?」
爆炎が晴れて視界が良好になったが、その場にボロボロになっているはずのアーテルの姿がない事に気付くべラム。
「いくら何でも、跡形もなく飛び散ることはないはずだが……堕ちたか?」
下方を見るために頭を下げるべラム。
そのつもりはなかったが、操作が不慣れなために、アルダムラーごと下を見る仕草になってしまったが、それがべラムの命を救った。
ガキィィンッ!
鈍い金属音が響き、アルダムラーのコンバーターが切裂かれる。
推進力を失ったアルダムラーは、そのまま地面へと墜落していった。
「ちッ、運のいい奴め。」
後を追うようにギブルフライヤーたちが降りていくのを見ながら俺は呟く。
あそこでアルダムラーが動かなければ、アーテルのデスサイズが、マギアドライヴを貫いていたはずであり、ドライヴの暴発に巻き込まれて、べラムの命はなかったはずだ。
そして、墜落したといっても、あの様子では、地面に激突する前に、ギブルフライヤーが助けるだろう。
このままとどめを刺すことも出来たが、俺はそれよりも、とアスカたちが待機した場所へと急いだ。
べラムの奴の事だ、俺の側近たちも狙っていたに違いない。
アーテルの推進力を最大にし、中層の鉱山付近まで行くと、アスカの乗るスラッシャーが多数のギブロン相手に立ち回っていた。
ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ!
アスカの背後から狙っていたギブルフライヤーとギブロン2体を、リフレクタービットのレーザで撃ち落とすと、アスカへ回線を開く。
「逃げるぞっ!」
『センパイっ……ウンっ!』
アスカは、目の前のギブロンを切り捨て、その反動を利用して上空へと飛び上がる。
後を追ってこようとしたドラン軍のマギアグレイヴ達に、リフレクタービットの集中砲火を浴びせ、俺はアスカのスラッシャーの手を取り、上空へと飛び上がっていく。
推進力はスラッシャーよりアーテルの方が高いため、あっという間に追っ手を置き去りにし、高度5千メートルまで上がったところで、ようやく一息つくことが出来たのだった。
「センパイ、ありがとうっ!」
アスカがギュッと抱きつく。
「く、苦しぃ……離れろ。」
「えー、ここ狭いんだから、離れられないよぉ?」
悪戯っぽい光を湛えた瞳で見上げながら言うアスカ。
ここはアーテルのコックピット内。
追っ手がもう来ないと判断したところで、アスカが飛び移ってきたのだ。足を滑らせたら真っ逆さまに堕ちるという状況で、よくやるよ、と思う。
「だからといって……。」
そう言う状況じゃないと思ってはいても、アスカに密着されたら、ついつい体の一部が反応してしまう。
「うふっ!感じちゃう?」
アスカはそう言いながらさらに身体を密着させてくる。
「あのなぁ……今はそれどころじゃ……。」
言いかけて、アスカの身体が震えているのに気付く。
「……もぅ会えないかと……ぐすん……怖かった……。」
胸の中で、そんな事を小さな声でつぶやく少女……。
俺は、彼女の背中に手を回し、優しく、力強く抱きしめるのだった。
「落ち着いたか?」
「ウン……ごめんね。」
「謝る必要はないさ。それより……。」
「うん……マール姉とルーシーは上手く逃げ延びたと思うけど……」
アスカの話では、中層で異変を感じた時、マールはフレアの様子を見に行くと言って飛び出していったらしい。
ルーシーは、その援護をする為に、後を追っていったのだが、その後すぐにドラン兵達の様子が変わり、取り囲まれたために、アスカはその後の事は分からないという。
「どちらにしても、カスガ領に戻るか。」
べラムの事だ、ひょっとしたらカスガ領にも手を出しているかもしれない。
いざという時についての指示は出してあるが、間に合ったかどうか……。
俺達は急いでカスガ領へ向かう。
「酷い……。」
アスカが言葉を失う。
眼下では、炎に巻かれ、兵士たちに蹂躙されている領民たちの姿があった。
屋敷のあった場所は……焼けただれて大きなクレーターが出来ている。
「くっ!」
俺は飛び出そうとしたが、それをアスカに止められる。
「センパイ……魔導探知機に反応がある……その数100を超えているわ。」
アスカの言葉に、アーテルの探知機の範囲を拡大する。
「くっ……ギブロンだけじゃなく、アルダムラーシリーズも混じってるのか……。」
アスカのスラッシャーとアーテルが万全の状態であれば、ギブロン100機程度など屠る自信はある。
しかし、2機とも激しい戦いを終えてから碌な整備もしていない現状ではギブロン50機も倒せればいいところだろう。
更にはアルダムラーシリーズが混じっているとなれば、マイケルかザコビッチがいる可能性も高い。
あの二人を相手にするのは、今は分が悪すぎる。
「センパイ……。」
「……分かってる。」
……すべては、自分の判断ミスが招いたことだ。
何とかなると思って先延ばしにしてきた決断。
決めるべきところで決断できなかったツケを、今払わされている。
俺はやるせない思いを抱えつつ、アスカの乗るスラッシャーの手を引き寄せ、そのまま上空へと飛び上がる。
もう一度振り返り、屋敷跡のクレーターを見た後は、振り返る事無く、大陸の端へと飛び去るのだった。
第一部、マギアグレイヴ始動編は、この回で終了となります。
次回から、第二部 ミズガルズ激動編が始まります。
ここから3年後の世界になります。
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