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下剋上 その5

「そこっ!」


敵のマギアグレイヴ、ゴブロンが、その手にした剣を振り上げたその瞬間、無防備にさらけ出された脇の付け根と背中の間……コンバーターの接合部を遠隔操作された刃……スラッシュリッパーが切り裂く。


マギアグレイヴが空を飛べるのは、イメージの力だからと言っても、そのイメージを魔力路に伝え、エネルギーに変換するためのコンバーターが破壊されてしまえば、いかなマギアグレイヴと言えども、ただの金属と革の塊となり果てる。

そのため、コンバーターを覆う外壁は特に厚くしてあるのだが、それでも、腕を稼働させるためには瞬間的に脆い部分が曝け出すのだ。


分かってはいても、その一瞬をとらえ、破壊するのは口で言うほどやさしいものではない。たぐいまれなるセンスと集中力、そしてそれに応えるマギアドライヴの性能があってこそだ。


「ルーシー、左手から新手だ。任せたぞ。」

俺がそう言った時には、新手の半分がルーシーによって地上へと墜落していく。

「さすがだな。」

俺はアーテルの右腕の拳をぐっと突き出す。

ルーシーの乗るリーパーもそれに応えるように拳を突き出した後、残った機体へと突っ込んでいく。


「……しかし……予想外に敵の練度がいいな。」

「あ、それなんだけどね……。」

俺の呟きを無線で拾ったアスカから、応答がある。

捕らえた敵兵士の尋問をしたフレアの話によれば、ラース城の兵士の殆どは、毎日のようにマギアグレイヴに乗っていたという。

その理由が、国王の戯れによる「マギアグレイヴを使った遊戯」の為だとか。

何でも、せっかく買ったマギアグレイヴをただ並べておくだけではつまらない、と国王がいい、マギアグレイヴを使った模擬戦を、毎日のようにやらせ、それを観戦していたという。

感覚的には、古代ローマのコロッセオで剣奴達を戦わせて見世物にしていたのと近いだろう。

兵士たちも、上手く動かさないと王の不興を買って首が飛ぶ、また、王がご機嫌になれば褒美ももらえるという飴と鞭により、兵士たちは必死だったという。

その結果が、ドラン兵たちより練度が高くなったというのだから皮肉なものである。


「しかし、そうなると……少し不味いか?」

ドランは、今ならば勝てるという確信に基づいて、ラース城攻めを決めた。


その根拠には、

「ラース城より自軍の方がマギアグレイヴの質・数ともに勝っている。」

「自軍よりマギアグレイヴをうまく扱える軍はない」

というものだった。


確かに、領内の生産力の大半をつぎ込み、常に最新の研究がされているドラン領には、数多くのマギアグレイヴが、しかも最新鋭の機体が存在することは間違いない。

そして、早くから質、量を兼ね、訓練をしてきたドラン軍に勝る練度の兵士はいないだろうと思われた。


しかしながら、最新鋭の機体とはいえ、難度の高いマギアグレイヴの操縦に四苦八苦している兵士と比べて、旧型とはいえ、コモン人に扱いやすく調整されたゴブロンシリーズで毎日のように実戦さながらの訓練?をしてきた兵達の方が、マギアグレイヴの練度が高くなるのは当然の結果であった。


「不味いって、何が?」

無線機からアスカの声が流れる。

「あぁ、現状で互角だとしたら、別のファクターが戦場に投入された時点でバランスが崩れる。」


ラース城防衛隊のマギアグレイヴの数は約300に対し、ドラン軍のマギアグレイヴは500を超える。

倍近い戦力差があっても、押し切れないのは単に兵士たちの練度の差であろう。

それでも、ドラン軍が優勢を保っているのは、マイケルやザコビッチ、そしてカスガ領の面々の操るマギアグレイヴの性能差によるところが大きいといえるのだが……。


「くっ、やっぱり来たか!」

上空、最前線を攻めていたドラン軍のマギアグレイヴの戦線が崩れるのが見える。

中央を突破してくるのは、その機体を紅く染めた新型のマギアグレイヴ。

「アレは、……『ソルズ』か。」

俺はアーテルを上昇させながら呟く。

「ソルズ」……ウェルズが開発していた新型マギアグレイヴだ。

先程、ドランがお披露目をしたアルダムラーシリーズの後継予定だった「ソル・シリーズ」の試作機だというのは、計画段階でウェルズから聞いていた。

というより、ソルシリーズのための試作がアルダムラーシリーズだった。

格闘戦多目的対応用人型の「アル・ダムラー」

高速空中戦闘用の「ツヴァイ」

汎用陸戦型の「トライ」

これらを、単機で変形対応出来るようにするというのが、ソルシリーズの設計コンセプトであった。


「変形機構が難しいって言ってたんだがな……。」

しばらくソルズの動きを観察していると、その問題は解決しているわけではなく、大型スラスターを部分的に推進力増加に利用しているだけで、変形は出来ないみたいだと結論付ける。


ガッキーーーンッッ!


振り下ろされた巨大な剣を、アーテルが手にした巨大鎌で受け止める。


『あなた、召喚者ねっ!』


つばぜり合いの体勢を維持したまま、ソルズのパイロットが呼びかけてくる。


「あんたもな……ジェシカって言ったか?」


ドランの元に新たに召喚された5人のうち、女性は3人。

その内のひとり、マルティはドランの元に残り、今は最前線で、その力を見せつけるように戦っている。

もう一人のルーシーは、俺の指揮下の元、遊撃についている。

そして、脱走者とともに消えた設計図に記されていたマギアグレイヴに乗って現れた女性と言えば、消去法でジェシカしかいないだろう。


「知っているなら話は早いわ。お願い、手を引いて。ドランに手を貸すのはやめてっ!」

「それは、聞けないなっ!」

キィンッ!キィンッ!と大鎌で斬りつけながら俺は叫ぶ。

「なぜっ!あなたも召喚者なら、この後の流れが予測できるはずよっ!ドランが力を付ければ、多くの血が流れ、多くの人々が虐げられるわ。あなたはそれでいいのっ!」

「……ここまで来たら流れは止まらない。グラン王が暗愚であり、ドランが力を得た。その時から、こうなることは決まっていたんだよ。流れる血を少なくするには、速やかにドランに統治してもらうしかないんだよっ!」


ジェシカのいう事は分かっている。

世界を手にするため、覇道を歩み始めたドランが行くのは血に塗れた道だというのは分かる。

俺も、最初はそれを止めるべきではないかと考えていたのだが、俺の想定以上にマギアグレイヴの発展、浸透が早すぎた。

召喚された当初ぐらいであれば、ドランに手を貸し、一気に世界を制覇することも可能だったし、逆に、マギアグレイヴという新しい力に慣れていない隙を突いて、ドランの野望を挫くのも可能だった。

だからこそ、どちらにつくかじっくり見定めようとしていたのだが、マギアグレイヴの進化と、世界に対する影響力、そしてそれを受け入れるコモン人たち……完全に予想外だった。


今が歴史の分水嶺だというのは、言われなくてもわかっている。

ドランの野望を挫くのであれば、ここが最後のチャンスだろう。

ラース城を落とし、ラーの国の実権を握れば、ドランはその国力をマギアグレイヴの生産・開発につぎ込み、一気に近隣諸国を蹂躙していくに違いない。


しかし、当初より力を付けたドランを倒すには、かなりの犠牲は覚悟しなければならない。

現状で両軍の戦力は拮抗している……このままいけばどちらが勝つにしても、双方壊滅に近い損害を受けるだろう。

それを避けるためには、グラン国王かドラン、どちらかを早々に討ち取り、この戦いを早期に終わらせなければならない。


しかし、ジェシカを始めとするリーン公国軍が参戦したとはいえ、最新鋭戦艦グルーガーに乗船しているドランを討ち取るのは容易な事ではない。

ドラン軍が、ラース城攻めをやめてドランの乗るマギアシップの守護に回られたら、先ず落とすことは不可能だ。


そう考えると、この戦を早く終わらせるという事を考えるならば、ドランを討ち取るより、グラン国王を討ち取る方が、早く容易である。

戦いを長引かせることなく、圧倒的戦力で速やかにドランに世界を支配してもらう。それが結果として流れる血が少なくなるのでは?

というのが俺が出した結論だったが、目の前のジェシカには納得できなかったらしい。


ソルズが斬りつけてくる瞬間、俺は閃光弾を爆ぜさせる。

「くぅっ!」

ガキーンッ!

目が眩んだジェシカは、それでも背後から襲うアーテルの鎌を受け止めて見せる。

しかし、ジェシカが反撃できたのもそこまでだった。


ソルズの下方に位置したリフレクタービットが死角から、ソルズのコンバーターを打ち抜く。


「あぁぁっ!」

バランスを失ったソルズが、ガクッと力が抜けたかのように墜落していく。

「それだけの力がありながら……あなたは……。」

ジェシカの声が遠くなっていく。

コンバーターを破壊しただけだから、戦闘続行は無理でも、拠点へ戻ることぐらいであれば、彼女の腕なら大丈夫だろうと、思いつつ、俺は本丸を目指す。


リーン公国が出張ってきたのであれば、これ以上泥沼化する前にケリを付けなければならない。

「アスカ、ルーシー、援護を頼むっ!」

俺はそれだけを言って、最前線へとアーテルを投入させたのだった。


◇ 


「な、何故じゃ、何故じゃ、何故じゃぁ!」

ぶつぶつと叫びながら這う這うの体で逃げ出すグラン国王。

それに付き従うのは3名の騎士のみ。

どしゃっ、と足元を這う根に足を引っかけてしまい、頭から土に突っ込むグラン国王。


「何故じゃぁ、ドランっ!我が一番多くの機械を買い取ってやったではないかっ!我が一番目をかけてやったではないかっ!何より、血を分けた我が弟が、何故我を裏切るのじゃっ!」

顔中泥まみれにしながら、泣き言を繰り出すグラン国王ではあったが、それでもよろよろと立ち上がり歩みを止めることはない。


ここで立ち止まってしまえば……追っ手に捕まってしまえば、後はないと本能的に悟っているからだ。


「ここまでですか。」

付き従っていた騎士の一人が、徐にそう呟く。

「だな。」

もう一人の騎士が頷いて剣を抜く。


「どうしたのじゃ?まさか追手がそこまで……。」

それがグランの最後の言葉となった。

最後まで言い終えることなく、その首が宙を舞う。

グラン国王の首を切った騎士が、その剣についた血糊を払い鞘に治めると、三人は無言で頷きあい、それぞれの方向に散っていったのだった。


ご意見、ご感想等お待ちしております。

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