下剋上 その4
「くそがっ!」
「ヒィッ、お許しをっ!」
べラムが侍女に向かってグラスを投げつける。
グラスの中身が侍女の身体を濡らし、床に落ちて粉々に砕ける。
「ふむ……。」
侍女の、濡れて透けた肌を見て、べラムの中の獣がむくむくと首をもたげる。
「こいっ!」
べラムは侍女の腕を掴み、無理やりにベッドへを押し倒すと、そのブラウスを力任せに引き裂く。
「あっ、イヤぁぁぁ……。」
侍女は、露わになった胸を、その腕で必死に隠そうとするが、べラムはその腕を拘束し、さらに衣服を引き裂いていく。
「ゆ、許してください……、」
身を纏うものが無くなった侍女は震えながらか細い声で、許しを請う。
そうだ、みんなこのように俺にひれ伏すべきなのだ。
侍女の態度に少しだけ気をよくしたべラムは、侍女の足首を掴み、大きく広げ、猛り狂う獣を侍女の中へと突き入れる。
「あぁぁぁ……。」
侍女の悲痛な叫びが部屋の中に響き渡る……。
「ふぅ。しかし、どうするべきか。」
犠牲になった侍女は、すでにこの場にはおらず、ベッドの上にはべラムのみが座っている。
侍女の身体を使って、猛り狂う獣を鎮めると、べラムに冷静な思考が戻ってくる。
先のラース城攻略は、失敗した。先鋒を任されたべラムはその失敗を責を問われ、次の攻略戦では後方に下げられることが決まっていた。
なんでも、一時撤退をするという話も出ていたという。
そんな事になれば、べラムの責任はもっと重くなっていたであろう。
今まで築いた人脈と、その弁舌を持って、なんとか撤退を回避するところまではこぎつけたが、代わりに、名誉ある先鋒を、あの召喚者に譲ることになってしまった。
「くそっ、大体、あの男がもっと働けば、こんな目に合わずに済んだのだ。」
今までの攻城のセオリーに沿って軍を動かしたこと、マギアグレイヴに熟練していなくて不覚を取った事……全てはべラム自身の責任なのだが、その高すぎるプライドが認めることを拒否している。
攻城に失敗したのは、レイがサボっていたから、ゴブロンという旧型に不覚を取ったのは、レイがサボっていたから。レイに助けられたのは、レイの計算であり、タイミングを見計らっていたのだ、と本気で思っている。
レイにしてみれば、べラムがレイに手柄を立てさせないように、後詰めにしたから出動が遅れただけであり、決してサボっているわけではない、と声を大にして言いたいことだろう。
……もっとも、べラムを助ける際、タイミングを計っていた、ということに関しては口をつぐむだろうが……。
「今度はアイツが先鋒だと?お館様も何を考えているのだっ!あんな奴に……。あんな奴、何を考えているのか……きっと裏切るに違いない…………裏切る?……そうだ、裏切るんだよ……。」
クックックっと、べラムが昏い嗤いを漏らす。
「そうだよ、レイは裏切り者だ。ククク……アッハッハッ……。」
誰もいないべラムの部屋で、高笑いがいつまでも響いていた。
◇
「なぁ、マイケルさんよぉ。」
トライの整備をしながら、ザコビッチは傍らで居眠りをしているマイケルに声を掛ける。
居眠りをしているふり、だというのは分かっているから声を掛けたのだが、返事がない。
「……なんだ?」
しばらくの間を置いてマイケルが億劫そうに答える。
「レイの誘い、受けなくてよかったのかなぁ?」
「よかったんだよ。アイツの立場は危うい……そう感じたから、お前も頷かなかったんだろ?」
マイケルの言葉に、ザコビッチは黙り込む。
レイは、過日の戦賞としてドランから一歩引いた立場を勝ち得ている。
表立ってはドランの下に付いてはいるが、ドランの干渉を受けない立場でもあり、それを苦々しく思っている重臣も多い。
このまま大人しく、ドランの言いなりになり、さらには戦功を上げなければ問題はないだろうが、戦功が無ければ、今の立場は分不相応だと突き上げられるだろう。
かといって戦功をあげれば、それが嫉妬を呼び、危機感を煽り、挙句の果てにはレイを追い落とそうとする動きが活発になるだろう。
それらを跳ね除けるには、誰もが文句が付けられない戦功をあげる必要が有るのだが、そこまで行くと、今度はドランが危機感を覚えるかもしれない。
その辺りの匙加減を、レイが上手くやるとは思えない、というのがマイケルの考えであり、その点についてはザコビッチも同じ考えだ。
「遅かれ早かれ、ドランとレイは袂を分かつだろうが……。」
その時の戦力や世界情勢次第でどっちにつくか決めても遅くはないだろう、とマイケルは呟く。
「レイとはやりあいたくないな。」
ザコビッチがそう呟くと、マイケルも「そうだな」と同意する。
「とにかくだ、まずは明日のラース城攻略戦だ。ここである程度手柄を立てておかないと、次に干されるのは俺達だぜ。」
「そうだな。……だったらお前も整備しておいた方がいいんじゃないか?」
ザコビッチはそう言いながらツヴァイの方を見る。
正直な話、整備兵の手つきは、何処かおぼつかなく、見ている方がイライラするため、ザコビッチは自ら整備を買って出ている。
自分の命を預ける機体を信用できないやつに任せられない。……それが地球の戦車隊にいた時からの揺るがない信念だった。
「俺は……いいんだよ。正直見ても分からないからな。」
対して、マイケルは今まで整備などしたこともなく、出来るのは拳銃の分解清掃位のものだった。
だからマギアグレイヴを見ても何がなんやらわからず、素人が下手に手出しするより、専門家に任せた方がいい、という考えであり、そんな面でも対照的な二人だった。
◇
「首尾はどうか?」
「はっ!予定通り進んでおります。」
「であるか。」
伝令兵の言葉にドランは再び思考の海へと沈み込む。
このタイミングでのラース城への侵攻、それが間違っていたとは思わない。
ウェルズの言うがままに、旧型のマギアグレイヴを兄に売りつけた事も間違っていたとは思わない。
あの時は、とにかく金が必要であり、また、マギアグレイヴを大量に売ることで、自領だけが突出しているのではないと印象付けることが必要だった。
お陰で、グランから余計な目を付けられることもなく、領土を大きくすることが出来たのだ。
隣国のメルト王国を併合したことで、ゲブル領とイスタン領を黙らせ、支配下に置くことも出来たのも、マギアグレイヴという力を得たためだ。
そして、召喚されし勇者もいる……我が覇を唱えるのに、時が満ちたという事だろう。
もっとも、マギアグレイヴを他国にも売り過ぎた結果、各国で新型のマギアグレイヴが開発されていると聞く。
我が領に一日の長があるとはいえ、あまり優雅に構えてはいられないだろう。
いくら支配領を大きくしても、一国の生産力には敵わない。
だからこそ、いまのうちに国の実権を握る必要が有る。
そう考えての下剋上ではあったのだが……。
「そう簡単にはいかぬか。……なれど、我が野望、こんな所で躓くわけには行かぬっ!」
ドランは立ち上がり、新たな指示を伝えるために、伝令兵を呼びつけるのだった。
閑話……になりますかね?
次回こそラース城攻略になります。
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