下剋上 その2
「あっはっはっはっ!レイ殿、今日はお主の出番はないからな。そこでゆっくり見てるがいい。」
ベラムは高笑いしながらそう言い捨てて、アルダムラーへ乗り込んでいった。
「なにあれ?」
アスカが気持ち悪い汚物を見るような目で、ベラムを見送る。
「まぁまぁ、あれで、隊長さんも必死なんだよなぁ。」
背後から声がかかる……マイケルだった。
「マイケル、お前も出陣か?」
「あぁ、ザコビッチもな。すでにトライに乗り込んでるぜ。」
「そっか……戦術は話し合ったのか?」
「……あの隊長さんが、俺らの話を聞くと思うか?」
「……なぁ、いざとなったら……。」
「ストップ。それ以上は今は聞かないでおくぜ。」
「………そうだな。無事を祈ってる。」
「相対的にはともかく、個人で負ける気はしねえから、安心してみてなって。じゃぁな。」
そう言って、ベラムの後を追う様にかけていくマイケル。
「……センパイ、あの人が?」
「あぁ、俺と一緒にここに呼ばれた『勇者』だよ。勇者の数だけで言えば、まだ、ドランの勢力が一番なんだけどな。」
「現代から来たあの人がいれば、私達の出番なんて、本当にないのかもね。」
アスカがそういう。
先日、如何にラース城が堅固で、従来の戦術では歯が立たないかということを話したばかりだ。
反面、マギアグレイヴが投入された戦場では、また話が違ってくる。
太古の戦場に最新鋭の兵器を投入すれば、一方的な虐殺となる。
ただ、相手側にも同じ兵器があり、数だけで言えば相手側が上回っているため、勝敗のカギは新たな戦術をどう生かすか?に掛かっているといっていい。
そして、ドラン軍には、マイケルとザコビッチという、現代地球の軍属経験者がいる。
その二人の話を元に立てた戦術であれば、負ける事はないと思うが……。
「それは甘そうですよ、アスにゃんさん。」
「アスにゃん言うなしっ!……で、何かあったの?」
部隊を眺めていたルーシーの声にアスカが反応する。
「えぇ、見たところ、ご主人様のいう「一番無駄な運用」をするみたいですよ。」
ルーシーの言葉に、アスカも俺もラース城の方を見る。
すでに戦闘が始まってはいるが、アルダムラーを先頭に、マギアグレイヴの部隊が城壁を攻略しようと躍起になっている。
普通であれば、マギアグレイヴの前に城壁は脆くも崩れ去るのだが、相手側も、マギアグレイヴを繰り出し、反攻にあたっているため、一進一退の攻防を繰り広げていた。
後方に位置する1万の軍勢は、マギアグレイヴ同士の攻防に手が出せる筈もなく、遠巻きに眺めているだけ……これでは何のための軍勢だか分からない。
「まさか、センパイの言ってた通りの戦いになるとはねぇ。」
「……流石にな。……これではドラン殿も歯がゆく思ってるだろうな。」
俺は遥か頭上のマギアシップ・グルーガーを見上げながらそう呟いた。
一番無駄な運用……それはマギアグレイヴをただの攻城兵器と同じように扱う事だ。
例えば、マギアグレイヴであれば、大岩を持ち上げ、城壁にぶつけることが出来る。
例えば、マギアグレイヴであれば、その身を盾にして兵士たちを護る壁になることが出来る。
そんな感じで、マギアグレイヴを前面に押し立てて、兵士たちを導入していく……下手な攻城兵器を導入するより、使い勝手がよく、また効率もいいだろう。
だけど、それでは単に攻城兵器がマギアグレイヴにとって代わっただけだ。
それ自体は問題はない。
現時点でマギアグレイヴより優れた攻城兵器はないのだから。
しかし、現実にはそんな使い方は、マギアグレイヴの無駄使いでしかない。
歩兵や騎兵の持っている剣や槍では、マギアグレイヴの装甲に傷をつける事すら敵わないだろう。
現時点でマギアグレイヴを倒せる生身の兵士などいないのだから。
だから、その大きさと堅牢さを利用して、城壁など飛び越えて壊せばいいのだ。
それだけで敵の戦意をくじくには十分すぎるほどの効果がある……相手側にマギアグレイヴがなければ、の話だが。
つまり、マギアグレイヴが中心となりつつある戦には、従来の歩兵や騎兵など、何の役にも立たないのだ。それなのに1万の一般兵を引き連れて来ているため、何割かのマギアグレイヴ兵が一般兵を守る様に動かざるを得なくなる。
ということは数の優位を自ら捨てる行為に等しい。
「でも、今のところ上手くいっているようですわ。」
マールが戦場の方を指し示す。
そこでは、ベラムの乗ったアルダムラーが、ギブル隊を指揮し、一斉砲撃を仕掛けることで城壁の破壊を試みている。
その間に、兵士たちが堀を埋める作業をし、ゴブロン隊がそのフォローをしているのが見えた。
「ギブルの一斉砲撃は、多分マイケルやザコビッチの進言だろうな。だけど……。」
……ベラムはマギアグレイヴが戦場でどういう役割を持つかを、本当の意味では理解していない。
人は空を飛べない。だからこそ、城壁や堀が有効な防壁となりえる。そして、険しい山の上に位置するラース城は難攻不落の城となりえるのだ。
しかし、マギアグレイヴが投入された今、堀も城壁も険しい山道も、何の障害にもなりえない。
「あのお船で一跳びなのにねぇ?」
アスカが呆れた口調でそう呟く。
俺がメルト城に対してやったように、マギアグレイヴで敵の本丸を強襲すれば、それですべてが終わるのだ……今までであれば。
「まぁな。だけど、今は相手側にもマギアグレイヴがある。そう単純にはいかないだろうな。」
俺の言葉を裏付けるかのように、上空からラース城の防衛隊と思われるマギアグレイブが降ってきて、ベラムのアルダムラーを取り囲む。
それだけで、ベラム攻城の手を止めて、相手をせざるを得なくなった。
「マギアグレイヴは最新鋭の兵器だ。導入された当初は、その圧倒的な力でねじ伏せ戦局を覆すことが出来たが、相手も同じ兵器を手にしたら、結局はマギアグレイヴ同士の戦いになる……歴戦の勇者ベラムでも、人の戦いがマギアグレイヴに代わるだけという事に気づかない……ってことだ。」
本来であれば、旧型のギブルタイプだけでも、戦場は大きく変わったはずだ。
マギアグレイヴを前面に押し出した戦場において、従来の騎兵や歩兵に出来る事はなく、兵士=マギアグレイヴの操縦者となり、ギブルのフレイボムの撃ち合い……如何に相手より多くの遠くから……強力かつ正確な……砲撃を加えた方が勝利を掴む…………それが主流の戦場になっていく……筈だった。
しかし、そんな戦場が主流になる間もなく、ゼクトタイプを始めとする、白兵戦用のマギアグレイヴが出現したことが、戦場を砲戦主体ではなく、マギアグレイヴ同士の白兵戦が主流になりつつあるのだ。
マギアグレイヴの数を揃え、マギアグレイヴを効果的に運用した戦術がモノを言う……そんな時代に変わりつつある今、べラムが率いようとした1万の軍勢は、単なる足手まといであり、無駄に人的資源を損耗するだけに過ぎない。
ドラン軍の規模であれば、その1万の軍勢は、旧式でもいいからマギアグレイヴに乗せるべきだったのだ。
それだけの事ができる、資金とマギアグレイヴを持っているのだから。
ラース城の防衛隊が乗っているのは量産型ゴブロンの初期タイプ。
火力等を犠牲にしてコモン人が操縦しやすいように改良した機体である。
能力的には圧倒的にアルダムラーの方が上なのだが、その潜在能力を引き出せていないベラムは、遥かに格下のゴブロン3機に抑え込まれている。
見ると、次々に上方のラース城より、マギアグレイヴの部隊が降りてきて、ドラン軍を抑え込み始めていた。
「ねぇセンパイ。なんかわらわら出て来たよ?」
「あぁ、ラース城にはマギアグレイヴが数だけは揃っていたからな。」
一番のお客さんだよ、とウェルズは笑いながら言っていた。
旧式ではあるが、コモン人用にカスタマイズされた機体。
マイケルやザコビッチは、流石にその機体の性能差で、相手を寄せ付けないが、それでも、数の暴力には勝てず、苦戦を強いられている。
ベラムに至っては、ゴブロン3機に完全に抑え込まれてしまい、指揮すらまともに執れないでいる。
「ベラムが引き連れてきた攻城部隊1万騎……その1/10でもギブルに乗せていればなぁ……。まぁ、今更だな。……さて、そろそろ仕事するか。」
「出るの?」
「あぁ、アーテルの初陣にはちょうどいいだろ。俺がアイツらを引き付けている間に、アスカとマールは騎士団を撤退させてくれ。ルーシーは上空を警戒、フレアたちは全体を見ながら適宜援護を頼む。」
俺は各自にそう指示を出すと、自分専用の機体に乗り込む。
次世代マギアグレイヴ「アーテル」
漆黒のボディは、強力な認証阻害機能を備えており、俺の魔力に反応して、相対しない限りは非常に察知されにくくなっている、隠密仕様に特化した機体だ。
魔力を流し込んでアーテルを起動させると、リーパーにも装備されているスラッシュリッパーの発展型である、リフレクタービットが周りを取り囲む。
搭載されている反射板を開き、他のビットと干渉障壁を張ることによって、アーテルを護るバリアになるだけでなく、自在に飛び回りながら魔力レーザーを放つオールレンジ攻撃も可能な、攻防一体型の主力兵装だ。
他には、近接兵装として、死神の大鎌を模したデスサイズに、中、近距離用のナパームライフル、そして、今回は間に合わなかったが、長距離用波動ライフルも兵装として扱えるようになっている。
多様化している分、扱いはかなり複雑になっており、この系統のマギアグレイヴは、アスカでも難儀するだろう。もっとも、リーパーをあっさりと乗りこなしたルーシーなら、簡単に乗りこなすかもしれないが。
「アーテル、出るっ!」
俺は操縦桿をグッと手前に引き、アーテルを垂直上昇させる。
一度上空から戦場を見回した後、騎兵を襲っているマギアグレイヴの一団へと突っ込む。
グシャッ! キュイーンッ! バシュッ! ズシャッ! ドォォォンッ!
騎兵弾を踏みつぶそうとしたゴブロンの腹を蹴り上げ、その横にいたゴブロンの首を鎌で刈り取る。
背後から狙っているゴブロンに、リフレクタービットのレーザーが集中し、次々と倒れる味方を見て、逃げ出そうとするゴブロンの背に向けて、ナパーム弾を放つ。
戦線に突入してからモノの数分でその場のマギアグレイヴを一掃し、生き延びた騎兵団たちを、アスカとマールが援護しながら、後方へと移動させる。
マイケルやルーシーを連れて、このまま本丸へ突撃すれば、一気に片が付くだろう。
何といっても、主力のマギアグレイヴの部隊の殆どがこの場にいるのだから、本丸の守りは薄くなっている。今なら難なく国王を仕留められる。そして国王を失ったラース城の面々は降伏するしか道は残されていない……のだが。
「ま、俺がそこまで手を貸す必要もないか。」
回りの状況を一望した俺は、再度飛び上がり、ゴブロン5機に組み伏せられているべラムの下へと向かった。
「ヘッヘッヘっ、英雄だか何だか知らんが、こうなってしまえば哀れなものだぜぇ。」
巨大な剣を今にも突き刺そうとしているゴブロンのパイロットが嗤う。
「クッ、貴様ら下賤の者などにっ!」
べラムがアルダムラーを動かそうとするが、一回り大きなゴブロンに羽交い絞めにされた上に他の3機がダムラーの手足をしっかりと抑え込んでいるため、いくら出力を上げてもびくともしなかった。
「さて、べラムさんよぉ、覚悟はいいかぁ?」
男はそう言って騎士剣を大きく振りかぶり、思いっきりアルダムラーへ向けて突き刺す。
ガキーンッ!
剣先がアルダムラーに突き刺さる寸前、横合いから大鎌が差し込まれ、剣を弾き飛ばす。
キュインッ!キュインッ!キュインッ!
同時に、べラムのアルダムラーを押さえつけていたゴブロンがレーザーで撃ち抜かれ行動不応に陥る。
「べラム殿、無事か?」
襲い掛かるゴブロンをライフルで牽制しつつ、アルダムラーを羽交い絞めにしていたゴブロンを蹴り飛ばして、べラムに声を掛ける。
アルダムラーが自由を取り戻したことで形勢不利を悟ったか、残ったゴブロンたちは逃走を始める。
そんな彼らの背中にレーザーを数発お見舞いしてから、俺はべラムに声を掛ける。
「べラム殿。一旦引きましょう。」
「な、何をっ!」
「このまま無策で突っ込むおつもりですか?こちらの被害も大きいですよ。ここは一旦引いて態勢を立て直すべきです。」
俺は心にもない事を、淡々と告げる。
正直な話、どっちでもよかったのだ。
このまま引いてくれれば、俺としては「べラムの窮地を救った」という実績が残るし、このまま突っ込んで戦死でもしてくれれば、「英雄べラムの最後」と美談を作り上げた上で、ムリな侵攻を留めることが出来るかもしれない。
俺としては、この戦争自体は、被害が大きくならないうちにドランに引いてもらえるのがありがたいと思っている。
ドランの勢力は大きくなり過ぎた。このままラーの国の実権を握らせるのは危険が多き過ぎる。
最終的にドランの下剋上が成功することは止められないとしても、そこに辿り着くまでに、ドラン軍の戦力は削っておきたい。
多分ウェルズも同じことを考えているはずで、ジェシカの脱走の際に、さりげなく、マギアシップの設計図がリーン公国に渡る様に画策していると俺は考えている。
そして、そのリーン公国が、この戦いに参戦してくる公算は大きく、このままいけば、近い内にリーン公国の騎団とぶつかるだろうと考えている。
俺としては奴らとの会戦は避けつつ、べラムに任せ、ドランが一旦諦める程度には被害を与えてもらいたいと考えていた。
「……分かった……一旦引こう。」
べラムはそう呟くと信号弾を上げる。
その光を見たドラン兵達は、ゆっくりと戦場から離れていく。
ラース城の兵達も、逃げる敵を追う気はないのか、その場でドラン兵たちが引き上げるのをじっとみているだけだった。
最近、アウトプットの気力がありません。
しばらくは、ゆっくりとインプットに時間を割いて、のんびりとアウトプットしていきます。
※ 一部、変更・加筆しました
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