下剋上 その1
「どうだ?」
俺は、飛行訓練を終えて降りてきたルーシーに声をかける。
「うーん、もっとピーキーな機体でも大丈夫かな?」
「マジか……。」
俺は思わず呻いてしまう。
ルーシーが今まで乗っていたのは、俺が使っていたゼクト・リーパー。
スラッシュリッパ-をはじめとした各種特殊兵装が搭載されているため、慣れないとかなり操縦がしにくいはずだ。
それでも、まぁ、飛ばす練習ぐらいならちょうどいいだろう、と思って貸し出してみたのだが、驚くことにルーシーは1~2時間の慣熟飛行で、リーパーの癖を掴んで完全に操縦していた。
「……う~ん、ならこいつはルーシー専用機にするか。技術スタッフと相談して自分が使いやすいように調整してもらえ。」
「いいのっ??」
「あぁ、俺の専用機も、もうすぐロールアウトするからな。出征まであと1週間だから、間に合う範囲で最高の調整をしておけよ。」
「うん、わかった。じゃぁもう少し飛んでくる。」
そう言うが早いか、ルーシーはリーパーに向かって駆け出して行った。
「あと1週間かぁ……。」
ルーシーの事をドランに報告した時、ドランはかなり渋っていた。
そのまま黙っていても、屋敷にいる限りいずれはバレる。だったら先手を打って、「襲撃の混乱の際、こちらで保護した。なぜか懐かれてしまったので、このまま当家預かりにしたい」と申し出たのだ。
せっかく呼んだ勇者だ。しかも二人には逃げられている。そのような状況で手放したくないというのが本音だろう。しかし、本人の意に添わぬまま無理強いして、他勢力に逃げられるよりは、と思い直してもらった。
その代わり出された条件が……。
「城攻めへの参加……か。」
「でも、後詰めなんでしょ?前線に出なくていいからラッキーじゃない。」
俺の呟きを、いつの間にかそばに来ていたアスカが捉えて答えてくる。
「まぁ、な、……余計なトラブルのもとにもなりそうだけどな。」
「そなの?」
キョトンと首をかしげるアスカに、丁度いいと俺は自分の考えを話し出す。
実際、自分の中でもうまくまとまっていないのだ。こういう時は誰かに話すことで、気付かなかったことを気付かされるという事もよくある話なのだ。
「まず、ドランは俺達の戦力を、ラース城にぶつけて、自分の戦力を温存したいと考えている。」
「うんうん」
「一方、ドラン軍の総大将のべラムは、俺達に前に出て欲しくないと思っている。」
「なんで?」
「そりゃあ、俺達が活躍したら、自分の立場がないって思っているからだろうな。一番槍は騎士の誉れとか言ってるしな。」
「……何それ、ちっさい男。」
「そう言ってやるなよ。……黒田ってやつのこと覚えてるか?」
「黒田……サン……?………あぁー、あのイタイ人。」
「イタイって……まぁ、仕方がないけどな。アイツもプロジェクトリーダーを決める時、やけに周りに喧嘩を売っていただろ?」
「うんうん。」
「アイツは自分が出来ると思っていたから、プロジェクトリーダーになりたがっていたんだよなぁ。」
「うんうん、私達の間では、あの人のプロジェクトチームに入りたくないって押し付け合ってた。」
「……初めて聞いたぞ。酷いなぁ。」
「……うぅ、仕方がないじゃない。どう見ても向いてないのに、自己主張が強くて、誰が見ても失敗案件じゃない。」
「……そうなんだけどな。の割にはアスにゃんの参加率高かったよな。アイツ、気があるって勘違いしてたぞ?」
「アスにゃんいうなしっ!……アレは……センパイがチームに参加してたから……って言わせるなぁ!」
「あはは……。話を戻すけど、べラムの場合、いままでの実績はあるんだけど、新しい戦い方に慣れてないんだよなぁ。」
「新しい戦い方?」
「そう、いままでは騎馬を主流にした、大勢の人同士がぶつかり合う戦い。これは単純に数が多い方が有利であり、戦術や陣形がモノを言う。」
「うんうん、三国志の世界だね。」
「……ちょっと違うが、まぁそんなもんだ。だけどマギアグレイヴが現れた。これはアスカの言う三国志の世界に戦車や戦闘機を持ち込んだに等しいわけだ。」
「うーん、そう考えると卑怯だよねぇ。で、そのべラムって人は、三国志の戦いで戦闘機に立ち向かってるって事?」
「まぁ、概ねそんな感じで間違ってない。問題なのは、戦闘機に乗って三国志の戦いが出来るって思ってることだな。」
「……それって無茶じゃない?戦闘機でどうやって三国志の戦いをするのよ?普通にミサイル打ってドッカーンで終わりでしょ?」
「まさしくそれ。俺だってどうやって戦えばいいか分からないんだ。もともと無理な事をしようとするから、結果が出せない。結果が出せないから、どんどん不利な立場へ追い込まれる。」
「はぁ、自業自得ってやつよね。」
「そう言う事。で、結果を出せていないのに、今俺達に活躍されたら後がないから、先鋒を任せたくないってわけだ。」
「……やっぱり、ちっちゃい男。」
呆れた様に言う明日香に、俺は苦笑を返す。
「でも、旦那様が先鋒を任されたとして、勝利に導く事は出来るのかしら?」
不意にフレアが話に加わってくる。
「そうね、正直ラース城は難攻不落の天然要塞ですから、堕とせるというイメージが湧きませんわ。」
気になっていたのか、マールも話に加わる。
こうなってしまっては、単なる雑談で済ますわけにもいかないだろう。
カティナやカチューシャ、果てはケイトまで、話に加わりたくてうずうずしているのだ。
「はぁ、作戦会議といこうか。誰か、ルーシーを呼んできてくれ。」
俺はそう声をかけて、話す場所を執務室へ移すことをケイト達に告げる。
お茶の準備が終わったらそのまま会議に加わるように告げると、ケイト達はいそいそと準備のためにサロンを出て行った。
◇
「さて、どこまで話してたんだっけ?」
戦術盤をぐるりと囲む部下たちを見回して、改めて思う。
何で女の子達ばかりなんだろう?と。
スラッシャーのパイロット、アスカと、リーパーのパイロット、ルーシー。
ここまでは分かる。
二人とも召喚者だし、能力的に問題はない。召喚者に男女による差はなく、俺の元にいるのがたまたま女の子だったというだけの事だ。
しかし、ゴヴ・スィーターのパイロット、マールに、プロト・アルファングシリーズのパイロット、フレア、カティナ、カチューシャ……。
うん、適性があったのだから仕方がない……と言うか、女の子に負けているなよ、コモン人。
と言っても、後で知ったことなんだが、カチューシャとカティナには、アンコモンの血が混じっているらしいので、ひょっとしたら、マギアグレイヴの操縦適性は、コモン人よりアンコモン人の方が向いているのかもしれない。
とにかく、この6人に加え、全体のバックアップを務めるリーダーのケイト、そして俺の8人が、カスガ領の騎団という事だ。
少し前までの、ミズガルズでは、騎団と言えば、騎士に率いられる軍勢の事で、ドランの元にも、ベラム率いる第一騎団をはじめ、1騎団当たり3千人からなる4つの騎団があったが、マギアグレイヴが導入された現在では、「機械化部隊」と呼ばれる、マギアグレイヴを中心とした騎団が別に出来ているという。
今度のラース城攻めでは、このベラム率いる機械化部隊が中心となり、ラース城を堕とすことになっているのだが……。
「まず、マギアグレイヴ抜きでの攻城について考えてみようか?」
俺はそう言ってマールに話の主導を投げ渡す。
今までの戦術論なら、マールが一番詳しいからだ。
「そうですね、まず、ラース城が難攻不落と言われているのは、その立地条件にあります。」
ラース城の本丸は、平野の中にポツンとそびえる標高300mの小高い山の天辺に存在している。
この山そのものが天然の要塞と化しているがために、本丸迄攻め込むことが厄介なのだ。
「ラース城の山を取り囲むように張り巡らされている城壁、更にその周りを囲む幅10m、深さ8mに渡る堀。まずここの攻略が第一の難関となるのです。」
普段は堀には橋をかけられているが、有事の際には橋はあげられ、攻め込むためには、何とかして幅10mの橋をかけなければならない。
しかし、大軍が渡れるような橋をかけるのを城側が黙ってみている筈もなく、城壁の上から火矢を放つなどの抵抗があるため、橋一つ掛けるのも容易ではない。
それでも何とか橋をかけたとしても、今度は高さ20mを超える城壁をどうにかして乗り越えるか、城門を破壊しなければならない。
この第一の難所を越えるだけでも、何万という兵士の犠牲が予測される。
「……ここまでは、他の城と変わりはないのですが、ラース城の場合、これをクリアして、初めて城攻めに入れるというのですから厄介なのですよ。」
他の城では、城門さえこじ開けてし合えば、後は最奥の本丸を目指すだけなので、城攻めに王手をかけたといっても問題はない。
しかし、ラース城の場合、そこから山の上まで攻め上がらなければならないのだ。
「しかも、心理トラップ迄仕掛けてあるとなれば……この城を設計した奴はかなりえげつないな。」
「え?どういうこと?」
俺の言葉にアスカが首を傾げる。
「ラース城の城壁の中は城下町になってるんだよ。普通に、大規模な街だ。」
「あ、うん、それは知ってる……けど、それが心理トラップとどう関係があるの?」
コテン、と首を傾げるアスカに、俺はこれ以上言っていいものかどうか悩む。
が、どうせ、いずれは知ることだと思い口を開く。
「周りの仲間の多くが死んでいく中、何とか生き延びて城壁の中へ攻め込んだ兵たち。そこには無防備な街並みが広がってるとなったら、次に兵士たちが起こす行動は……わかるだろ?」
「……略奪?」
「そう、食べ物を奪い、戯れに男を殺し、女を犯す……それが許される状況下で、理性を保てる兵士は少ない。そして、それを律する事の出来る士官がどれくらいいるか……。更にはそういう状況を作ることで、その先に攻め入る戦意を削ぐことが出来る。」
「……そういう事かぁ。」
「どういうこと?」
アスカは納得したがルーシーには理解が及ばなかったようだ。
「だからな、命がけで何とか生き延びて、好き放題出来ているのに、また死地に赴けって言われて、どれだけの兵士が動くと思う?」
「あ、なるほど!」
ルーシーが、ポンッと手を打つ。
「それに、住民をあらかじめ、上層の集落へ移動させておいて、街中の井戸や残した食べ物の中に毒を仕込んでおくという手も使えるな。」
ラース城は、城下町以外にも、山中にいくつかの集落が点在しており、そこでの農作業や鉱山採掘などで、普段からの生活を支えている。
また、本丸近くには天然の湧き水の湖があり、森の恵みも豊富なため、籠城に必要な糧食や素材などにもあまり困らず、結果として本丸だけでも長期の籠城が可能という事も、ラース城の難攻不落さに輪をかけているのだ。
「まぁ、街の占拠して略奪に明け暮れていたら、あっという間に上からの攻撃で全滅するだろうけどなぁ。」
「うん、わかる……。聞けば聞くほど大変そうだけど……攻略できるの?」
「まぁ、今までのやり方では攻略できないって事がわかってもらえれば……。」
その後も、マールにより、ラース城の堅固さを伝えられ、その場にいる一同は沈痛な気持ちに押し入るのだった。
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