レジスタンスとの戦い???
「くそぉっ!なんでだ、何でだよぉっ!覚えていろよっ!」
カイトは周りに呪詛を吐き散らしながら、衛兵に連れて行かれる。
「えっと……あはは……。」
アスカが、スラッシャーのコックピット内で、乾いた笑いをこぼす。
レジスタンスとの戦いは一方的だった。
というか、日の出と共に襲ってくるのは分かっているのに、わざわざ待つ必要を感じなかったので、日の出前に、奴らがいる陣地を襲撃した。
レジスタンスが用意していたマギアグレイヴは、ギブル・ギブルフライヤー、新旧合わせて8機に、ゴブロンTの改良型が6機と、それなりに数を揃えていた。
しかし、いくら数を揃えていても、パイロットが乗り込んでいなければ、ただの置物に過ぎない。
結局、アスカのスラッシャーが、現地に乗り込み、その混乱の只中に、衛兵と義勇兵、総勢100人が混乱するレジスタンスどもを捕らえていった。
因みに、領主に就任したばかりで、兵士というものが俺の元には居なく、精々が屋敷の防衛を担う衛兵20名が俺の全戦力だった。
流石にこれでは、と、夜遅いながらも近隣の住人に声を掛けたところ、あっという間に80名が集まったので、簡単な説明の後そのまま出撃した。
この義勇兵たちが快く参加してくれたのは、税率を下げたことに対する感謝なのか、フレア姫の人望なのか?またまた、混乱を引き起こそうというレジスタンスへの反感なのか、原因はよくわかっていない。
ただ、一声かけただけで、快く集まってくれたことに、俺は領内を治めていくのに微かな自信が持てたことは間違いなかった。
ただ、誤算と言うか、計算外だったことが二つあった。
一つはマール。
当初の予定では、マールは協力しないまでも、大人しくしてるだろうと思っていた。
だけど、実際、作戦が始まると、マールはタウゴブロンに飛び乗り、アスカと共にレジスタンスの陣地にまで跳んで行った。
しかし、そこでマールは、アスカに協力するでもなく、またレジスタンスに与するでもなく、ただ、タウゴブロンをウロウロさせているだけだった。
結果として、その隙をついて逃げだしたマギアグレイヴを捕らえるのに、いささかの時間と少なくない犠牲を出してしまった。
結局、何がしたかったか分からないマールは、戻ってくるなり、部屋に籠ってしまったので、後で話し合う必要が有るだろう。
もう一つの誤算というか計算外だった出来事は、決して悪いことではない……というかむしろ嬉しい誤算というべきだろうか?
レジスタンスの奴らは、一応、色々と考えていたらしく、夜明け前に工作員を屋敷に侵入させ、襲撃の混乱に乗じてフレアを確保する予定だったらしい。
しかも、この工作員はレジスタンスのメンバーではなく、外部から雇った傭兵……その道のプロだった。
正直、護身の心得の無い俺だったら、抵抗する間もなくやられていただろう。
そんな奴らに狙われたら、フレアも簡単に敵の手に落ちていたはずだ。そうなってしまえば、いくら敵の本拠を抑えたとしても、フレアを犠牲にする覚悟がなければ、相手の言いなりになるしかなかったはずだ。
しかし、そんなプロの工作員を相手に、ウチのメイドさんたちは頑張った。
多少傷を負った者もいたが、結果として、12人からなる敵の工作員を、フレアに気付かれることなくすべて捕らえることに成功した。
正直、メイドさんたちの能力に驚きを隠せない。
しかも、そのメンバーの中に、カティナもカチューシャもいたというのだから、尚驚きだ。
これは給与を上げる必要性があるなぁ、と俺は領内の家計簿?を思い出しながらメイドさんたちの給与形態を再計算する羽目になったのだった。
◇
「あー、諸君たちの働きに感謝する。正式な報酬は後日になるが、とりあえず、今日の飲み代を持ってってくれ。」
俺はそう言って近くの並ぶ兵士たちの前に片手が入るほどの穴が開いた箱を置く。
その穴から手を入れて、中の硬貨を握って取り出した分が今日の取りあえずの褒賞となる。
箱の中の硬貨は銀貨が6割、銅貨が3.5割、金貨が0.5割入っている。
事前に何回かやってみたが、平均して銀貨25枚前後になっていたので、とりあえずの褒賞としては十分だろう。運が良ければ、金貨が1~2枚手に入るしな。
ガナル領では一家4人家族が1か月暮らしていくのにかかるのが平均銀貨4枚から5枚だが、この領地では、いままで経済的に押さえつけれれていた為、銀貨1枚も有れば1か月暮らしていくことが出来ていたから、少なくとも、今までどおりの生活であれば1年は暮らせる褒賞が保証されるとなれば、兵達の眼の色が変わるのは仕方がない事だった。
「うぉぉっぉ!金貨だぜっ!!」
運良く、握った硬貨の中に金貨が混じっていた男が雄叫びを上げる。
「マジかぁっ!」
「次は俺の番だっ!……って銅貨ばかりだぁぁぁぁぁ……。」
がっくりと崩れ落ちる男。
握った硬貨を入れる革袋が係の衛兵から渡されるのだが、実は、あまりにも銅貨率の多い者には、こそっと銀貨が数枚忍ばせてある革袋だ。
それを見た男は黙って、衛兵に目礼してその場を離れていく。
ある程度、状況を見届けた後、俺は屋敷へと戻る。
まだ後始末が残っているのだ。
「あ、センパイ、ただいまぁ!」
俺が屋敷に戻ろうとしたとき、丁度、空から白金色とメタリックピンクの色彩のマギアグレイヴが着地する。
そして開いたコックピットから、勢いよくアスカが飛び出してきた。
「ねぇねぇ、あのマギアグレイヴ、凄いよぉ、私の思った通りに動くの。」
嬉しそうにそう報告するアスカ。
外装の素材を少し変更し、操作性をアスカが使いやすい様にアジャストしただけ、とウェルズは言っていたが、そのアジャストがかなり効いているのだろう。
アスカの話では、以前のスラッシャーは、「ロースペックのPCで遠隔操作をしているみたい」な感覚だったそうだが、今は、「Cドライブを最新のSSDにして、メモリを目一杯積んで、ついでに最新のグラボ2枚刺しした感じ」なのだそうだ。
たとえはよくわからないが、とにかく扱いやすいという事だけは伝わった。
ただ、アスカに最適化したため、俺にはやや扱いにくくなったのだろうという事も、同時に理解した。
ウェルズは、最初からこうなることを見越していたのだろうか?
俺は、纏わりつくアスカをあやしながら、屋敷へと戻っていく。
今回の事は、ガナル領へ反抗する不穏分子を処理した、という事になり、ドランへの協力をしたことになるのだろうが、今後、どうするべきかを考える必要が有る。
しかし、いまだ、どのようにするのが一番いいのか、決めきれずにいるのだった。
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