メルト王国攻防戦 その3
「レイ、なんか一人でやるんだって?大丈夫かぁ?」
マイケルが、俺の姿を見つけるなり、そう言ってきた。
口は悪いが、それなりに人の事を気遣ういい奴ではある。
「あぁ、まともにやったらそれなりに犠牲が出そうだからな。」
「犠牲ねぇ。奴らは喜んで死にに行ってるようなもんだから気にすることは無いだろ?」
マイケルは、少しだけ口籠りながらそんな事を言う。
マイケルだって、本当にそう思っているわけではない。ただそう思わないとやり切れないのだ。
現代地球の戦争と比べて、ここでの戦はあまりにも生々しすぎる。
戦闘機と戦闘機のドックファイト……向こうにも生身の人間が乗っていることは分かっている。
機銃があたり、敵機のエンジンが火を噴き爆散する……パイロットは当然助からない。
そんな事は分かっているが、目の前で槍に突かれ、血を吹き出しながら絶命するその姿に比べると、あまりにもリアルさが足りないのだ。
マイケルが先日こう言っていた……。
「俺も、向こうでは軍人だったんだ。海軍のパイロットだぜ?接敵して、空母から発進し、敵機に向かって機銃を撃つ。当たり前のようにこなしてきたよ。死ぬ恐怖はあったけど、引き金を引くのに躊躇ったことは無い。撃たなきゃやられるからな。だけど……この地で、相手に剣を振り下ろすのは……槍を突き出すのは……怖いよ……。」
マイケルの言いたいことは、戦争を経験したことのない俺でも何となくわかった。
というより、地球でも、俺は引き金を引くのに躊躇う気がする。
そんな世界で育ってきた俺が、まともに戦争なんてできる筈がない。
だからこそ、今まで出来るだけ避けて来たし、これからも避けるために、あんな条件をドランに突き付けた。
今度の作戦をうまくやれば、今後、無理やり戦に出されることは無くなる。
だから、今回だけは、多少の犠牲を出してでもやり遂げなければならない。
それでも、被害は出来るだけだしたくなかった。
「まぁ、今回は人質を捕らえて、降伏を迫るだけだからな。一人の方が小回りが利いていいんだよ。」
俺がそう答えると、マイケルは「分かった」という。
「必要なら声を掛けろよ?俺もザコビッチも手を貸してやるぜ。」
「あぁ、その時は頼むよ。」
俺はそう言って、マイケルを見送った。
「さて、と……。」
俺は工房に向かう。
「ウェルズ、出来てるか?」
俺がそう声を掛けると、奥からスヴェンが出てくる。
「ウェルズ、寝てるから。」
「そうか。で、どうだ、いけそうか?」
俺がそう訊ねると、スヴェンは首を横に振った後頷く……どっちだよっ。
「リーパーは無理。サテライトキャノンがまだ。スラッシャーの副装備は間に合ってる。」
「……そうか。じゃあ、スラッシャーを借りていく。」
俺はスヴェンにそう告げ、スラッシャーに飛び乗る。
コクピットに座ると、上下左右から触手みたいなのが伸びてきて、俺の腕や足に絡みつく。
この触手みたいなのを通して、俺の魔力やイメージなど諸々がマギアドライヴに流れ込んで、俺の意のままにマギアグレイヴが動くという……のだが、この触手には慣れない。
俺は男だからまだいいけど、パイロットが女の子だったら?
コックピットに座る女の子の姿を想像するだけで……、
いかんいかんっ!
俺は邪念を振り払うかのように頭を振る。
「よしっ、……こちら、ゼロ、スラッシャー発進するっ!」
俺はそう告げると、マギアドライブに魔力を流す。……最初一番戸惑ったのが、この動作だったが、いまは慣れたものだ。
マギアドライブが作動し、スラッシャー全体がマナの光に包まれる。
……行けっ!
俺がイメージしたとおりに、スラッシャーは一歩大地を踏みしめ飛び上がる。
そのまま進行方向をメルトの国へと向ける。
スラッシャーは背後のコンバーターからマナの光を噴出しながら、目Rと王国へ向けて飛び立っていくのだった。
◇
ガナンの工房を飛び立って30分もすると、眼下に城が見えてくる。
……アレが「北の塔」か。
俺は塔の存在を確認すると、モニターをズームアップさせる。
当の窓から不安そうに見上げる少女が二人……多分、どちらかがこの国の王女フレアだろう。
北の塔に王女がいるだろうという事は、カティナから聞いた。
メルト国のしきたりで、王都が攻め込まれた時は、女子供は塔へと移動する。それは、最悪飛び降り自殺をする為だとか。
冗談じゃない、そんな事させてたまるかっ!
俺は、北の塔よりの中庭にスラッシャーを着地させる。
脅しの為、手にしたライフルで、人のいなさそうな建物を撃ち抜いておく。
『メルト国王に告ぐ!返答はいかに?今すぐ降伏するのであれば、王族への危害は加えないように進言しよう』
そう伝えてみるが、城の中の動きはない。
……仕方がないか。
俺としても、ここでいきなり降伏するとは思ってはいない。
だが、今回はあくまでも様子見と人質を捕らえることだ。下手に刺激して暴走されたら困る。
俺はそっと北の塔を切り崩し、中にいた少女を捕まえる。
『明日の同じ時間に、もう一度返事をもらいに来る。それまで、王女さんは預かっておくからな。』
俺はそう告げてから、スラッシャーの手の中にいる少女たちが零れ落ちないように気を付けながら、メルト城を後にするのだった。
◇
「えー、あー、悪いとは思うけど……な。……とりあえず、何か食べないか?」
俺は、警戒心バリバリにむき出しにした少女二人にそう声を掛けるが、二人は一言もしゃべらず、俺から出来るだけ距離をとるようにしている。
「あーと、一応言っておくけど、ここから逃げようなんて考えない事だ。ここは巨獣の森の中だ。マギアグレイヴの結界のおかげでこの周りに巨獣は寄ってこないが、結界から一歩でも外に出ると、あっという間に巨獣の餌食だからな。」
俺がそう告げると、少女たちの身体がビクッと震える。
「……でだ、俺が言っても、まったく説得力もないと思うけど……もう少し気楽に接してもらえないかなぁ?流石にそんなビクビクされると、ちょっと傷つくんだけどなぁ。」
「で、出来るわけ……ないですっ!」
絞り出すように言うメイド服の女の子。
「だよなぁ。」
俺は諦めたような声で、そう言うと、仕方がなく、食事の準備を始めることにする。
食事といっても、こんな場所でまともなものが出来るわけもなく、野菜と干し肉をまとめて煮込むスープ程度のものだけど。
「あ~もぅっ!」
俺が四苦八苦しながら野菜の皮をむいていると、突然メイド服の少女が叫びだす。
「何やってんですかっ!そんなに厚く剥いてもったいないっ!大体、そのナイフの持ち方は何なんですかっ!」
「あ、お、おぅ……。」
「もぅ!私がやりますから、縄をほどいてくださいっ!」
「あ、あぁ……。」
俺は、メイド少女の勢いに押されて、彼女の縄をほどく。
すると、彼女は俺からナイフと野菜を取り上げて、ササっと下ごしらえを始める。
俺は彼女の側に食材を積み上げると、姫さんの方へ寄り、縄をほどき始める。
「えーっと、こんなことを言うのもなんですが……いいのですか?」
「いいって、何が?」
「いえ、あの……カチューシャを自由にしてはモノを持たせて、更に私まで自由にしちゃっていいのかなぁって。」
少女は少し困惑したように言う。
「あぁ、まぁ、今更だろ?それに、縛られたままじゃ、食事できないだろ牛…………あーんってしてほしいなら、もう一度縛るけど?」
「いえ、遠慮します。私は一人で食べられますからっ!」
顔を赤く染めながらそう言う少女。
二人して何となく視線をメイド少女の方に向けると、彼女は、ふふーんと鼻歌を歌いながら、手際よく食材を切り刻んで鍋の中にいれていた。
「なぁ……、俺がこんなこと言うのも変だけど……。」
「あ、うん、言いたいことは分かるわ。まぁ、カチューシャだから、としか言えないのよ。」
少女の言葉で、メイド少女の名前が「カチューシャ」だと分かる。
「あ、今更だけど、俺はレイ……レイ・カスガ。レイでもゼロでも好きな風に呼んでくれて構わない。」
「あ、はい、ご丁寧にどうも。私はフレアです。フレア・ファン・メルト……メルト王国第一王女です。」
立ち上がり、見事なカーテシーを披露してくれる。
「そして、あちらが、私の側仕えのカチューシャですわ。」
その声が聞こえたのか、カチューシャが「えっ?」と振り返る。
「あ、カチューシャ。こちらはレイさんです。」
「あ、はい、カチューシャです、よろしく。」
ぺこりと頭を下げるカチューシャ。
それはいいけど……。
「鍋、噴きこぼれそう……。」
「えっ、あっ、わわっ!」
カチューシャは慌てて鍋をかき回し、火加減を調節する。
暫くして、出来上がったスープを三人で食べる。
「うまいっ!……カチューシャ、嫁にこないか?」
「ダメっ、カチューシャは私の嫁なのっ!」
「えっ、あっ……、姫様……。」
ポッと頬を染めるカチューシャ。
これはこれで尊いなぁ……。
そんな事を言い合いながら、いつしか和やかに食事をすすめるのだった。
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