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メルト王国攻防戦 前夜

「はぁ……なんだかなぁ……。」


俺は片手に持ったグラスをくゆらせながら、ホール内を見回す。


……誰もかれもが浮かれてやがる。


俺はそう思いながらグラスの中身を煽る。


高いワインの筈なのに、なぜか苦い。


いや、苦く感じるのは、俺の気持の所為か。


ホールの中でも、一段高くなっている場には、このパーティの主催者であり、領主のドランが二人の少女を侍らせている。


一人はドランの娘であるエイリスだから構わない。


問題なのは、その反対側にいる少女の方だ。


少女の名前は、フレア・ファン・メルト。……このらーの国の隣にあった小国、メルト王国の第一王女だ。


噂では、腹違いの姉がいるとのことだが、定かではない。


フレアを見ていたら、不意に彼女と視線が合う。


彼女は、一瞬俺を睨みつけたが、すぐにその表情は、諦観の微笑みへと変わる。


俺はそれが無性に苛立たしかった。


だけど、その苛立ちをぶつける先はない。


何故なら、彼女にそんな表情をさせる原因になったのが俺だからだ。


俺は、グラスの中身を飲み干し、フレアの視線から逃げるようにバルコニーへと移動した。


バルコニーから見上げる空には、満天の星が輝いている。


少しは星座に詳しい俺だったが、今見えている星空には見知った配列の星は一切ない。


「……やっぱり異世界なんだなぁ。」


俺はそんな事を呟きながら、今日にいたるまでの事を思い出していた……。



俺達がこの世界……ヴァルファーワールドに呼ばれてから1か月が過ぎようとしていた。


俺は、ガナル領が誇る新兵器、マギアグレイヴの中でも、最新試作機である「ゼクトスラッシャー」を駆りながら、各地の()()の平定をしながら情報をかき集めていた。


それで分かったこと……。


まず、この世界は「ヴァルファーワールド」と呼ばれていること。

俺達が世界を「地球」と呼ぶのと同じような感じで、この世界の人々も、自分たちの世界を「ヴァルファー」と呼んでいた。


因みに「ミズガルズ」というのは自分たちの住む大地……大陸を表すらしい。……もっとも、他の大陸があるかどうかは疑わしいが。


そして、この世界の人類は「コモン」、エルフやドワーフなどの亜人は「アンコモン」と呼ばれ、それなりに共存をしてはいるものの、決して仲がいいとは言い切れない関係なんだとか。


エルフは、己たちの持つ魔導技術の高さゆえに、多種族を見下しがちで、特に粗暴なドワーフたちには生理的嫌悪感を抱く者達が多い。


逆にドワーフは、華奢で体力的に弱いエルフを、頭でっかちの口先だけ、と貶す。


そしてそのどちらもが、自分たちより劣る者としてみているのが、コモン人だった。


そのコモン人といえば、エルフの持つ魔導知識と、ドワーフの持つ技術力を、自分たちが取り入れて使用するために、両者の間に立ち、うまく立ち回って、自らの生活環境の向上に努めてきた。


そして、その究極の結果といえるのが、ウェルズの開発した「マギアグレイヴ」なのだ。


エルフの持つ知識を総動員して開発した「マギアドライヴ」を動力源に、ウェルズの「イメージ」を見事に再現した、ドワーフの技術力。


そのどれが欠けても、マギアグレイヴが完成することは無かっただろう。


マギアグレイヴこそ、コモン、アンコモンの垣根をこえた、「究極の共存共栄」の最大の証……の筈だった。


しかし、マギアグレイヴの生みの親であるウェルズ、そして、彼の所属するガナル領の領主ドランは、マギアグレイヴを軍事利用することにした。


馬に乗り、戦場を駆る騎馬隊、剣や槍を持ち、戦場を制圧する歩兵隊。遠距離から仕掛ける弓隊や砲隊などの遠距離支援部隊などを中心として戦うのが、この世界の戦争の在り方だった。


チャリオットなどの戦車ともいうべき兵装があるにはあったが、あくまでも人対人の直接的な争いであるため、「どれだけの兵力があるか?」が戦いの趨勢を決めていた。

まさしく「戦いは数だよ!」である。


そして、勝敗を決めるのが兵力の数であるのならば、より多くの兵を動員できる大国が勝利を収めるのは当たり前の話であった。


しかし、マギアグレイヴの出現によって、その戦争の在り方は様相を変える。


初期に作られた『ゴブロン』タイプであっても、1機で千人並の働きをするのだ。


その後開発された、ガナン領のギブルは、魔法使いを操縦者に組み込むことによって、その性能を大幅に向上させた。


大国の大領主が、一歩進んだ「兵器」を大量導入すれば、従来の兵力しか持たない地方領主や、小国などが相手になるわけもなかった。


結果として、レイたちが召喚されてから1月も経たないうちに、ドランは、ラーの国の南方諸領主を「国王への謀反の疑いがある」として討伐し、その領地全てを併呑してしまった。


そのすべてに零が関わったわけではなかったが、領都攻めなどの大きな戦には必ずと言っていいほど参加させられた。


零達の駆る「ゼクト」シリーズは、タンカーを除けば「人型」に最も近く「巨人騎士」とも呼ばれ、騎士たちの憧れの的でもあり、目指すべき未来であり、自分たちを護ってくれる象徴でもあったからだ。


対して、マギアグレイヴを持たない国々の人々からは、「悪魔人形」と恐れられ、恐怖と絶望の象徴とされた。


どちらにしても、マギアグレイヴの前には従来の兵士は役に立たず、旧式のゴブロン程度ではゼクトシリーズの前に手も足も出ない。


稀に、どかからともなく、邪魔をするかのようにゴブロンの亜種や、ウェルズの設計とは異なる、新型のマギアグレイヴが現れることもあったが、数多くの『ギブル』の前に、撤退する以外の道がなく、もはやドランの野望の前に敵なし、といった状態だった。


その様な状態では、零としては弱い者いじめをしているようにしか見えず、ドランに対して非協力的にならざるを得なかった。



「レイ、聞いたよ。また、出撃要請を拒否したんだって?」


俺が、スラッシャーの整備をしていると、ウェルズが面白そうな顔で言ってくる。


「仕方がないだろ?「()()()()」だったんだからさ。」


俺は事も無げにそう言っておく。


「そうかもしれないけどねぇ。いつもいつも「整備不良」じゃぁ、俺の管理が疑われるんだよ。」


ウェルズが肩をすくめて見せた。


「疑わせておけばいいだろ?というか、文句があるなら勝手に動かせばいいじゃないか。」


「で、実際に動かせば、そいつは()()()()……か?」


ウェルズは困ったように言うが、その口元は嗤っている。


「整備不良だからな。」


俺はそう言うが、嘘だ。実際に跳べないのは、コモン人のイメージの所為だったりする。


翼のある鳥や羽のある虫が飛ぶのは当たり前だが、羽根も翼もない「人」が飛ぶのは無理だ。それは当たり前の常識であり、コモン人だけじゃなく、地球のリアルの常識にとらわれているマイケルやザコビッチですら、スラッシャーの姿を見て「飛べない」と思い込んでいる。

俺が容易に飛ばすことが出来るのは「空が飛べる設計をされているのなら、翼がなくてもロボットは跳べる」のは常識、だからだ。


実際には、スラッシャーだけでなく、アーマードやガンナーも、スラッシャーと同系統の設計であり、同列のマギアドライブが組み込まれているので、イメージすれば跳べるはずなのだが、先行イメージが強すぎて飛ぶことが出来ない。


もっとも、マイケルは「空は跳べなくてもジャンプは出来る」というイメージがあるため、ガンナーを長時間滑空させることは出来ているのだが……。

俺からしてみれば、そこまでできて何故飛べない、といいたい。


逆に、魔法の無い世界で生きてきた俺にしてみれば、ギブルにも組み込まれている「フレイム」を打ち出すことが出来ない。どうしても「魔法」のイメージがつかめないのだ。


だから、スラッシャーに当初搭載されるはずだった『フレイムシューター』は外され、現在ライフルやバズーカーなどの「砲術兵器」の開発を急いでいる。

「引き金を引けば弾が出る」というイメージであれば、容易いからだったのだが、逆にコモン人にはその概念が難しいらしく、ウェルズやスヴェンが頑張ってくれているのが現状だった。


「まぁ、いいですけどね。ただ、ドラン様は、あなたに不信感を持ってるようですよ。追い出されないためにも、それなりの働きを見せるのは必要だと思いますけどね?」


ウェルズはそれだけを言って、自分の作業に戻っていった。


俺がドランに呼び出されたのは、それから三日後の事だった。




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