いきなり異世界に呼ばれて……
「……異世界……だよな?」
俺は周りの様子を見て、そう呟く。
祭壇のような石造りの広間に、床には魔法陣らしき輝き、そして周りを取り囲む人々……。
その人々の多くは、ファンタジー世界でよく出てくる神官のような格好をしており、残りは、中世の鎧のようなものを身に纏っている。
どう見ても、典型的な「異世界勇者召喚」の風景だ。
つまり、俺はこの世界に、この人たちによって、呼び出されたという事で……。
「なんだぁ?」
「どうなってやがる?」
近くで声がする。
見回してみると、男が二人、俺と同じ様に床に座り込んでいた。
見た感じ欧米人……白人系のようだけど………。
一人は金髪で碧眼、一目でアーリア系とわかる欧米人で、もう一人はやや明るめの黒髪……いや、クロに近いグレーか?に蒼い瞳。抜けるような肌の白さから、ロシア系だと思う。
この二人も、俺と同じ様に召喚されたんだろうか?
そんな事を考えていると、周りにいた騎士っぽい装備の男達が俺達に近寄ってくる。
どうやら、俺達を拘束しようとしているみたいだ。
「何しやがるっ!」
召喚されたと思しき欧米人のうち、金髪のほうが、騎士の腕を躱しながら蹴りを入れる。
その動きは、素人のそれではなく、実践経験のある格闘家そのものだったのだが、しかし、相手は金属製のプレートメールで装備しているため、特に効いた風もなく、あっさりと抑え込まれてしまう。
それを見た、もうひとりの召喚者が、手を上げて抗戦の意思はないと主張し、大人しく捕まっている。
異世界でも、ホールドアップが通じるというのは驚きだったが、さて俺はどうするべきか?
見ると、既に二人は捕まっており、手と足に枷が付けられている。
騎士たちは、俺を取り囲み、その動きを見守っている。
出口は……。
周りを見ても出口らしき場所は分からない。
……あ~、ダメだ、こりゃ。
俺は大人しく手を上げるのだった。
◇ ◇ ◇
「くそっ、一体、何なんだよっ!」
馬車に揺られながら、ぼーっと窓の外を眺めていると、もう何度目になるかわからない文句が、金髪の口から漏れる。
っていうか、いい加減現状を受け入れて、今後のことについて、話し合いをしたほうがいいと思うんだけどなぁ。
俺はそう思うのだが、金髪がずっとこの調子なのでなにも言えずにいる。
「おい、ジャップ!お前だってそう思うだろ?」
……矛先がこっちへ来ちゃったよ。
「言いたいことは分かるが、そろそろ建設的な話をしないか?」
俺がそう言うと、金髪は「フンッ!」と鼻を鳴らしてそっぽを向く。
国は違えど、一応"同郷"なんだから、仲良くしておきたいんだけどなぁ。
「なぁ、ゼロ、なんでお前はそんな落ち着いていられるんだ?」
今まで黙っていた黒髪がそう聞いてくる。
彼はザコビッチ・イワノフ。ロシア人だそうだ。
お互いに自己紹介は済ませてあるが、俺の名前を言った時「レイ」というのは数字のゼロの事だ、というと、「ならそれでいいじゃんか」と、なぜか「ゼロ」と呼ばれることになってしまった……まぁいいけど。
ちなみに、金髪はマイケル・ジョンソン。どこかで聞いたことのあるような名前のアメリカ人だ。
「そうだぜ。異世界召喚?ハリウッドじゃあるまいし、そんな馬鹿げたこと信じられるかよっ。」
マイケルが話に加わってくる。
「まぁ、ラノベのお約束だからなぁ。」
俺はとりあえずザコビッチにそう答えておく。
「らのべ?……まぁ、いいか。しかし、ここは本当に異世界なのか?マイケルじゃねぇけど、シネマのドッキリっていう方が余程現実味があるぜ。」
「じゃぁ聞くが、お前たちは、今どんな言語で話してる?そして、アイツラの言葉はどんな言語に聞こえた?」
俺がそう聞くと二人は同時に答える。
「そんなの英語に決まってるだろ?」
「ロシア語だ。」
言ってから、二人は顔を見合わせる。
「ちなみに、俺は日本語だ。自慢じゃないが、日本語以外は聞くことも話すこともできねぇ。」
「「どういうことだ?」」
「だから、自動翻訳機能みたいな能力が備わったんだろ。俺が口にした日本語は、マイケルの耳には英語に、ザコビッチの耳にはロシア語になって聞こえるんだろ。多分アイツラも母国語を喋ってるはずだけど、それが俺達の耳には、自分の母国語に変換されているんだと思う。そして、こんなこと、地球では有り得ないだろ?」
俺がそう言うと、二人は納得したのか、なるほどー、とウンウン頷く。
「成程なぁ。しかしよくわかるなぁ?」
「俺の国じゃぁ、こういうのを元にした小説や漫画、アニメが溢れているからなぁ。」
「そうなのか?さすがジャパン。余裕があるよなぁ。」
マイケルの言葉に、少しだけ違和感を感じるが、続くザコビッチの言葉に、その違和感はすぐに消え去る。
「それで、その、”らのべ”とやらでは、この後どういう展開になるんだ?」
「あぁ、まぁ、ありきたりなパターンでは、俺達を呼び出したのは、この地の国王とか、そんな偉い連中で、この世界の人にはない力を俺達が持ってるって事で、魔王と倒すとか、そんな事をさせられるって言うのがあるけど……。」
俺はそう言いながら手枷を見る。
「この扱いだと、無理やり従わされるってパターンかもなぁ。」
俺はそう言いながら、当初考えていた「今後の相談」が出来そうな雰囲気になってたので、二人に質問を投げかける。
「それで、二人はどうする気だ?」
「どうするって?」
「だからな、今後、俺達の扱いがどうなるかによって多少変わってくるだろうが、俺達は間違いなく人為的にこの世界に呼ばれた……それは何かに利用するためってのは間違いないだろう。それを踏まえて、今後どうするつもりかってのを聞きたいんだ。」
相手の目的が何であれ、俺達の扱いは大きく分けて二パターンだと思う。
まず、一つ目は、この馬車の行先は王宮ないし、それに準じたような偉い人が住む場所。
そこで俺達は詳しい説明を受けて協力を求められる。
今このような扱いを受けているのは、俺達が暴れないようにするためであり、素直に協力すると言えば、少なくともまともな扱いに待遇は変わるだろう。ひょっとしたら賓客扱いになるかもしれない。……その『協力』との引き換えではあるが。
もう一つは、このまま、奴隷同然の扱いで、無理やり協力させられる、というパターンだ。
その場合は、俺達が逃げ出せないように、奴隷の首輪みたいな、何らかの縛りを受けることになるだろう。
そうなってしまえば、元の世界に帰るどころか、この世界でぼろ雑巾の様にこき使われ捨てられることになる。……思う限り最悪のパターンだ。
そんな事を二人に説明する。
しかし、俺がそう説明しても、二人は困惑顔だ。
改めて自分の置かれている状況を理解したものの感情が追い付いていないのだろうか?
因みに、この馬車には、俺達以外には乗っていないので、この話が漏れる心配はない。
しかし、今や日本のサブカルチャーは世界規模にまで発展している。アメリカやロシアでも、異世界転生モノははやっていると聞いたことがあるので、こういうシチュについてそれなりに知識があるだろうと思っていたが、意外と海外のオタは少ないのかもしれない。
……いや、ただこの二人がオタじゃなくて、そう言うモノに免疫がないだけかもしれない。
……う~ん、”同郷”ではあるけど、”仲間”と思わないほうがいいかもしれないな。
出来れば力を合わせたいと思うけど、この先の事を考えると、この二人はいないもの……最悪、敵に回ることも考慮して行動したほうがいいかもしれない。
俺はそう結論付けると、窓から顔を出し、近くの護衛らしき兵士に声を掛ける。
馬に騎乗したその兵士は、馬の速度を馬車に合わせて、俺の傍まで来る。
「何だ?」
「いや、俺達何の説明も受けて無く、こんな扱いだろ?せめてどこに向かってるのか?とか、この後どうなるのか?ぐらいは教えてもらってもいいんじゃないか?と思ってな。」
俺が務めて明るくそう言うと、兵士は少し考えた後口を開く。
「悪いが、その質問に答えることは出来ん。この後詳しい説明を受けることが出来るだろうから、疑問はすべてそこで聞くとよい。ただ、お前たちが”協力”してくれる限り、悪いことにはならないという事だけは保証しよう。」
兵士はそう言い残すと、また馬車から離れてしまった。
その後は何度呼び掛けても誰も近くに来てくれなかったところを見ると、俺達に近寄らないように厳命されたとみるべきだろう。
しかし、あの兵士の言葉で、いきなり奴隷落ちのパターンがないという事が分かっただけでも朗報だと思う。
後は”偉い人”との交渉次第か……。
少しだけ安心すると、急に眠気が襲ってくる。
俺はかなり酷い揺れにもかかわらず、いつしか眠りに落ちていった……。
新作です。一応Web小説大賞参加作品の予定です。
プロット練りながら投稿しているので、連続投降>暫く空き>投稿というように不定期更新になると思います。
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