双頭狼 討伐②
岩穴を出たソウは大自然に驚愕する。
そこは樹齢何百年というような大木に囲まれた奥深い森に岩穴は存在しておりそこには動物や人の気配なども感じ無い。
空を見上げると更に異世界だと実感する光景が広がっていた。何と太陽が2つも輝いていたのだ。一つは通常の太陽のように黄色く輝き、もう一つは赤みがかった色合いで、異世界の美しい空に2つの太陽が輝いていた。
「はは…本当に異世界に来たんだな」
「信じて無かったの?」
「いや、さっきの出来事で大分信じて居たんだが見た事ない景色で驚いたんだ」
そう言いながらソウはもう一度空を見上げてルビーに尋ねた。
「暗くなる前にまずは水と食料の確保が必要だがどこか無いのか?」
「食料はそうね。ここから100km程離れた場所に川が流れているわ。そこになら水を飲みに何か食料になる魔物もいるかもしれない」
ソウの言葉にルビーが返事をする。
「100kmってそんなに離れてるのか…いったい何日掛かるんだよ。俺はそんなに歩いたこと何て1度もないぞ!」
「今のその身体ならそんなに掛からないわよ…それに食料はともかく水なら魔法で出せばいいじゃない」
ルビーの言葉にソウは驚いた。
「魔法の水って飲めるのか?ってか何やってんだ俺は魔法を試すのを忘れてるじゃないか…」
ソウは異世界に来て自分が如何に舞い上がっていたのかを痛感した。
魔力が操れるようになり魔法みたいに武器を出せるようになって浮かれていたのだ。
魔法を試すということを完全に失念していたのだ。
「ルビー教えてくれてありがとうな」
「ふ…ふん、別にいいわよ」
ルビーは少し照れたように言ったがソウはルビーとのこのような会話を楽しんでいた。
以前の妻との会話は気付けば疎遠となり会話しようと話かけても【うん、そう、へー】等で深い会話が無かったことを思い出し久しぶりの会話のやり取りに嬉しくなったのだった。
「魔法か…たしか…」
ソウはこの世界での知識を思い出す。
魔法には適正があり魔力の波長によって使える適正が変わってくる。
一般的には火,水,風,土,闇,光,特殊の7つが存在しており魔法とは詠唱によって世界に干渉を行い自身のイメージした魔法を発動するというのが一般的だがそれは間違いである。
なぜ詠唱を行うのかと言うと言葉に魔力を混ぜ込みそれを発声することで周囲の魔力と融合させそこから自己の中でのイメージを具現化してるという流れだ。
つまりは自分の魔力と周囲の魔力を融合させることが出来ればあとはイメージさえしっかりしていれば魔法は発動する。
「とはいえ、森でいきなり火の魔法を使うのは怖いな…」
「そうね、初めは指先位の魔力にして水魔法にしときなさい」
ソウはルビーからの助言通り自分の指先の第一関節位の魔力を集め、狙いを比較的細い木の枝に定め指先から弾丸のように水が飛んで行くのをイメージした。
【水弾】そう言うと水は弾丸のように発射され狙っていた木の枝に辺り木の枝を揺らした。
「枝が折れる位の威力を出そうしたのに失敗だな……もっと魔力の量を増やすか?」
今度はさっきより多く手全体を覆うように魔力を集める。
「よし、もう一度水が飛んでいくイメージで…」
するとルビーが焦ったように叫んだ。
「ちょっと待ちなさい、今のソウでもその魔力量を今の細い魔力回路で指先から放とうとしたら魔力回路が傷つくわよ」
「魔力回路…?」
その言葉を聞いて急いで記憶を探る。
魔力回路とは体内を流れる魔力の通り道でありこの回路を通じて魔力を体内に巡らせている。
成長と共に魔力回路に負荷を掛けながら魔力を循環させることで徐々に太く大きくなっていく。
「なるほど…今は身体が出来たばかりで魔力回路も細い状態の訳か」
「そうよ。今の細い回路に大量に魔力を流したら傷つくし下手したら回路自体がダメになるわ」
「ならデカい魔法を放つにはどうすればいいんだ?」
「基本は魔力の循環で徐々に魔力回路を広げていくけどそれ以外だと魔力媒体に魔力を流してそこから放つのが多いわね」
「逆鱗の武器にそういうのがあるのか?」
ルビーは少し黙って考えた後に答えてくれた。
「…主様達の逆鱗が武器に変化したのはソウの身体が龍族に創り変えられた影響によるチカラだからわからないわね」
ソウはルビーの言葉に少し考えてから呟いた。
「まずは地道に魔力回路を広げるようにするのと他の魔法を試すことから始めよう」
そう言ってソウは他の魔法を試すだった。