双頭狼 討伐①
森に囲まれた岩穴の中の大きな石の上で蒼弥は目を覚ました。
「俺は…どうしたんだ」
周囲の状況を確認しながら辺りに視線を送るが自分が寝ていた石以外に特に周囲には何も無い。
「確か龍核に適合して異世界に来ているはず…」
そう言いながら自分の身体を触っていると声が聞こえた。
「目覚めたのね?」
蒼弥は声に驚き辺りをもう一度見回したがそれが頭の中から直接聞こえることで何とも言えない違和感を感じた。
「えっと…魔核なのか?」
「そうよ。無事に身体への適合が済んだようね。」
「そうなのか?余り変わったような気がしないんだが?」
「そんなことないわ。主様達ほどの力はまだ無いけどそれでも今の状態でもこの世界では割と強い力が備わっているわよ」
「1度目を閉じて核の存在を感じてみなさい。」
「そうか。やって見るよ。」
そう言って蒼弥が目を閉じると魔核達の知識が身体に流れ込んできた。
「お前以外の魔核は反応が薄いな。どうしたんだ?」
「思っていたより多くの力が貴方に流れ込んだようね。まぁそれだけ貴方と魔核の相性が良かったんでしょう。少し休眠状態になっているようね。」
「そうか、まぁいきなり7つの声が聞こえたりしたら俺も困惑していたから助かるよ。それより喋り方が少し変わってないか?」
「…う、うるさい。あっちの方が威厳があるように聞こえたでしょ。小さいからって舐められないようにしていたのよ」
そんな雑談をしながらも一通りの知識が流れ込んできた後に蒼弥は自分の右手と左手に魔力を流した。
魔力の流し方はこれも魔核との適合のお陰か自然と行えた。
そして魔力を手に纏い自分が寝ていた岩を持ち上げた。
「うぉ、本当に持ち上がった。」
そう言って持ち上げた岩の下には小さな空洞がありそこには7枚の鱗が置かれていた。
「鱗が7枚…」
「それは主様達の逆鱗よ。逆鱗は龍の鱗で1番硬い部分であり大切な場所だから主様達が最後に私達へ残してくれたの」
輝く7枚の逆鱗に触れようとすると宙に浮かびあがり一際輝くとそれらは蒼弥の腕に巻き付いていた。
一瞬、驚いた蒼弥だが意識を魔核と繋げるように深呼吸するとこの腕輪になったモノを理解する。
「これは凄いな。」
蒼弥が得た知識によると逆鱗にはそれぞれの龍の力が含まれておりそれぞれの逆鱗に魔力を流すことで蒼弥の魔力に応じて武器に変化することが出来るらしい。
これは本来の龍の逆鱗には無い能力だが蒼弥との繋がりに寄って生まれた新たな能力らしい。
「早速試してみるか…」
魔法も試したいが何よりこんな凄い武器があるなら今すぐ試したいのが男心である。
蒼弥は赤の逆鱗に触れ魔力を流した。
一瞬目の前がくらっと来たが次の瞬間には目の前に剣が現れていた。
剣といってもただの剣ではない、柄は太く刃渡り約2メートルほどの大剣だ。
過度な装飾などはされて居ないが刃の周りが赤く覆われており何ともいえない代物だった。
「これを俺が使うのか…」
そう思いながら大剣に触れた瞬間、大剣は瞬く間に小さくなり1メートルほどの剣へと変わった。
「何だ、いったいどうしたんだ?」
「恐らく、今の貴方の魔力回路の出力ではあの大きさが維持出来なくて縮んだのでしょう。」
「そうか、魔力に応じるというのはそこも関係しているのか。」
「よし、気を取り直して他の武器も見てみるか!」
そう言って赤い逆鱗への魔力を止め、今度は青い逆鱗に触れて魔力を流すがいくら魔力を流しても全く反応しない。
他の逆鱗にも魔力を流したがどれも反応しなかった。
「どうやら魔核が休眠状態だと武器にすることは出来ないようね。逆鱗が武器になるのも含めて知らないことを知るのは実に面白いのね。」
そんな言葉を聞きながらそこで蒼弥は気になっていたことを聞いた。
「なぁ、ずっと気になってたんだが魔核には名前とかないのか?」
「主様達は愛し子と呼んでいたが名前などは無かったわ。」
「そうか、なら名前を付けるか!」
「貴方が…つけるの?」
「そうだよ、だって名前がないと不便だろ!赤いのとか色で呼んでも味気ないしな。」
「そう、これもまた初めての経験だわ。お願いするわ!」
「うーん、愛し子…子は宝…宝珠…ルビーはどうだ?」
「貴方の世界の宝石の名前よね?何故その名前を?」
「愛し子って事は子供だろ。俺の世界では子は宝って言われているし宝って聞くと宝石を連想したんだ。…嫌か?」
「嫌じゃないわよ。貴方が考えて付けてくれた名ですからね。私も貴方を名前で呼びましょうか?」
「そうだな!でも俺は前の世界で1度死んだし名前も変えようかな。…そうだなこれからはソウと名乗る。」
そう言ってソウは立ち上がると出口を目指して岩穴を歩き始めた。
「どれくらいで他の魔核が目覚めるかも分からないし、しばらく俺と2人だ!宜しくなルビー!」