プロローグ
ここは…
俺はどうしたんだ…
深い闇の中で意識だけが浮かび上がるような感覚の中で自分の言葉を聴いている感じだ。
そこに一筋の光が現れると徐々に自分のことを思い出していく。
俺の名前は上杉蒼弥
年齢は今年で38歳のしがないおっさんだ。
普通の大学を出て就職をしてそこで出会った女性と恋に落ち25歳で結婚。
翌年に子供が産まれたが、嫁との関係はそこから冷え切ってただ会社と家を往復するだけの日々…
そんな中で嫁との関係も修復出来ずにとうとう離婚。
離婚が成立して全て手続きが終わった日に何も無くなった家で…
たしか火事にあって…
そこから「どうなったんだ?」
「あなたは死にました」
「誰だ?」
「おや、まだ視力は完全には戻ってないようですね」
「これならどうだ?」
それまで見えていた光の筋が急に広がったと思うと視界には七つの光が浮いていた。
「なんだこれは?」
俺は1番近くにあった青く光っている球体に触ろうと手を伸ばしたその時、青く光っていた球体から声がした。
「おい、何勝手に触ろうとしてんだよ!」
その声を聞いた瞬間、自分が触ろうとしていた球体が声を発した。
よく見ると声を発した青い球体以外も全て声発しているようだった。
蒼弥は若干恐怖しながらさっき触れようとした青い球体に向かって話しかけた。
「人…なのか?いったいここはどこなんだ?」
すると青い球体はスっと離れていき変わりに別の光が近づいてきた。
「クスクス…人なのか?だって~」
「ちょっと笑ったら失礼でしょ♡」
「彼だって混乱してるのよ♡」
光を放つ球体の何かが俺の周りを旋回しながら何か色々と話している状態で俺が困惑していると今度は赤く光る球体が近づいてきてこう言った。
「…良く来た。人間よ!」
「ここは世界の狭間にある異空間だ。私達の力と適合出来る人間を捜してた時に貴方が見つかりここに呼び寄せた。」
「呼び寄せた?おま……あなた達が死んだ俺を呼び寄せたというならあなた達は神様なの……ですか?」
すると今度は緑に輝く球体が喋りかけてきた。
「物分りが良くて助かるよ。何度も説明するのはめんどくさいしね。」
「そりゃ昨今の定番の設定だか…ですから。」
夫婦関係が冷えきっていた蒼弥は良く漫画喫茶や公園でのWeb小説で時間を潰していたので最近のライトノベル系の漫画はほぼ網羅しているし自分が異世界に行った時の妄想も完璧だ。
蒼弥はこれが現実か夢なのか全く理解出来ない状態だったがここが何処であの光が何者か分からない以上下手に機嫌を損ねない方がいいと考え困惑した形だが敬語での話を意識した。
緑の球体は多少喋り方を気にしたようだったが続けて話をしてくれた。
「まぁ異世界転生などの物語が流行ってすぐに受け入れてくれそうな人種を選んだしね。」
「今回は転生では無く転移に近いけど肉体を1度創り変えるので転生と言ってもいいのかもね。」
蒼弥はその言葉を聞いて自分の身体を見たが特に変化はない。
顔はどうなっているかは分からないが手や足はちゃんと着いてるし顔に手を当てても目や鼻の位置に違和感もない。
安堵の呼吸を吐いてまた前を見て質問を行った。
「えっと異世界転移か転生をする見たいなんですが貴方達は神様なのでしょうか?」
蒼弥は緊張して声が出ずらい状態だったが真っ直ぐ球体の方を向いて質問した。
すると今度は白く輝く球体が話かけてくる。
「私達は神様じゃないわ♡」
「人間さんの世界の言葉だと魔物と呼ばれる存在かしら♡」
魔物という言葉で蒼弥の身体は一瞬強ばったがそれを悟られないように蒼弥は言葉を切り出した。
「では魔族とかなんですか?」
すると今度は黒い球体が近づいてきて声を発する。
「魔族でもない……種族を表すのであれば龍族が妥当…」
蒼弥は龍族と聞いて光の球体を良くみると淡い光を放っている球体の中に人に良く似た女の子達が居るのが見えた。
しかも現実ではあまりお目にかかれない程の美少女達だ。
肌も鱗なども見えずに人間と変化ないようにしか見えない。
蒼弥は更にその少女達を見ようとしたが徐々に球体に戻っていった。
少女達が球体に戻り静けさに包むれた時、蒼弥はこの後の展開を考えた。
(ここでこの光る少女達の言うことが本当であれば自分はこの後ファンタジー世界に飛ばされる可能性が高い……
昨今の異世界漫画だとチート的な能力やアイテムを貰い異世界無双する話が多いが何も貰えずにいきなり放り出される話も少なくない。)
ここは更に慎重に話をしていかなくてはと思った瞬間、蒼弥の身体は1m程後ろに弾かれた。
「うわ、何だ!急に身体に衝撃が……」
「さっきからゴチャゴチャうるさい…変な勘ぐりはしなくていい…」
五月蝿いと言われて蒼弥はハッとした。
(そうだよ、異世界へ召喚とかする存在であれば人の心を読んだり出来るかも知れないと考えるのが当然だろ)
蒼弥がその考えをまた頭の中でしているとまた衝撃がきた。
「本当にうるさい………それから変な敬語もいらない…」
そう言うと黒く輝く球体は蒼弥から少し離れた所に飛んでいった。
蒼弥は一旦落ち着こうと思い深呼吸をしてから頭の中で少し考えた。
どうせ考えてることが分かると言われているが人間そんな簡単に今までの習慣を変えたりは出来ない。
(心は読まれると考えて良いがそれが全ての女の子達ができるとは限らない。そもそも能力だとしても常時発動と意識して発動の可能性もある。光は青、赤、緑、白、黒は会話ができる。まぁ青い子には怒られただけだが…残りの光は紫と金色まずはその子達とも意思疎通が出来るかだな。)
蒼弥はある程度考えを整理してから今度は紫の子の方を向き話かけた。
「そうな…のか?最初は神様かと思ったから敬語にしていたが悪魔や魔族でも言葉使いでいきなり襲われたくはなかったからな。」
「不快にさせたなら謝るよ。申し訳ない。」
そういって光る球体達に向かって頭を下げた。
すると今度は紫の球体が話してくれた。
紫髪を三つ編みにして眼鏡をかけた女の子。
「礼節は大切なの。だけど謝罪は不要なの。あなたもこっちに来て混乱してるのだから落ち着いてなの。」
「ちょっと、ちょっと話が長いよー!私も人間君と喋りたいよ~」
「今は私が話をしている最中なの。」
「でもでも私も喋りたいよ~」
「仕方ないの。後の説明は任せるの」
そういって変わって飛び出してきたのは金色に輝く球体だ。
「ハロハロ、人間君~!調子はどう?」
蒼弥は自分の身体を見渡して異常が無いことを確認してから応えた。
「特に異常はないかな?頭はまだ混乱しているが身体の方は正常みたいだ」
「そかそか、それは良かったよ~!私達も異世界からの召喚は初めてだったからもしかしたら失敗の可能性もあったからね~」
「異世界……本当に俺は異世界にいくのか?何か使命とかを背負うのか?」
「そうそう、異世界転移?転生どっちだっけ?まぁどっちでも良いか~!それでそれで使命があるかだっけ、使命は有るような無いような~」
そう言いながら金色の球体は蒼弥から離れていき嫌そうにしている赤い球体を押し出してきた。
「ではでは、難しい話しは任せるよ~」
押し出された赤い球体は一瞬困惑した様子を見せたがすぐさまその雰囲気は消え喋り始めた。
「…さ、さき程も1度言ったが転移か転生で言えば転移に近い。たがお主の身体は1度創り変える必要があるので転生と呼べなくもない。ここまでは大丈夫か?」
「創り変えるってことは人間では無くなるのか?魔物見たいになるのか?」
「創り変えるといってもベースはその肉体だ。」
「創り変えるなら俺じゃなくてもいいんじゃないのか?もっと若くて運動神経の良かったり頭が良かったりした方が…?」
「肉体年齢や頭の善し悪し等その変はあまり関係ない。大事なのは我らの魔核に適合できるか否かなのだ。」
「ま…魔核……?それは何だ」
魔核が何か分からない蒼弥だが魔の核なんだから大層物騒な代物と感じ尋ねた蒼弥だが予想通りのヤバい代物だった。
「魔核とは我らの魔力を注ぎ込んだ核だ。
我らは生まれた時よりその核に力を注ぎ込んで核と共に成長していく。」
「俺達の世界でよく龍が持っている宝珠のことか?そんな凄い核なら俺に使わない方がいいんじゃないのか?」
「うむ。確かにお主の世界の龍達も玉のようなモノを持っているがそれとは別じゃ…しかも我らは特別でな。」
そう言って語りだした赤い球体の話を要約すると以下のような話だった。
球体の世界には人間や魔族に獣人など色々な種族が存在するが全ての種族に少なからず魔力が宿っている。
各種族には魔力があり、大抵は弱い魔法が使える程度だか稀に強力な魔力をもった個体や長い修練で魔力を磨いたモノにはその魔力に見合った核が出来る。
魔核は魔力の塊なので魔法の補助に使えたり魔道具の動力源に必要だったりと様々な用途に使えるモノらしい。
その中でもトップクラスの魔力と肉体を持っていた龍族が彼女達の主達であり強い魔力を受け自我をもった核が彼女達らしい。
つまりは彼女達自身が魔核と呼ばれる存在で龍達と生きる長い年月の間にその膨大な魔力を与えられたことで自我が芽生えたとのことだ。
龍の種族は個体数が元々少なくまた気性が荒い性質も多い為、生涯で数回、同族と交流する機会があるだけだが彼女達の主は莫大な魔力により惹かれあったのか度々合うことがあり一緒に過ごすようになったそうだ。
長い年月を過ごす間幾つかの戦争があり通常でも強力な魔核を持つ龍族は次第に狙われるようになり到底返り討ちにしていたが数の暴力の前には次第に龍達の数も減っていった。
また他種族との交配もあり彼女達の主人達程の龍達は産まれなくなった。
また弱まった龍達は竜となり竜の核である竜核でも戦況を変える程の力を発生することから更に竜達が狙われるようになった。
そしていかに桁外れな龍族と呼ばれる種族にも当然寿命があり亡くなる。しかし彼女達は核に宿った魔力が強大だったので下手に使われると世界が滅亡しかねない。
魔核は加工せずに長時間持つとその魔力が徐々に外に漏れ出す性質をもつ。
世界の滅亡は困るので魔力が徐々に無くなるまで隠すように生き残った龍達が保管していたが彼女達の主達の魔核は龍が亡くなり長い年月が過ぎてもなかなか魔力を減らすことが無かった。
溢れ出た魔力がその辺りの魔力濃度を高め魔力耐性の低いモノが強力な魔力を浴びると身体を蝕まれやがて魔物となる。
また強い魔力がある所には強力な魔物が引き寄せられる。
最初の龍が死んだ際はまだ6龍居たので魔力に身体が蝕まれる負担も感じなかったがやがて1頭、また1頭と減るうちに徐々に龍達への負担も強くなった。
そして最後の龍は死ぬ間際に思った本来自我を持たない魔核が自我を持ち、主を失っても魔力を減らさずにいる状態、この魔核は特別なのだと。
このまま我が死んだらいずれ誰かに見つかるか強力な魔物を産み大きな争いの火種になる。
それでは余りに魔核達も我らのこの時間も無意味になる。しかしこの膨大な魔力の核を持ち続けられるモノなど生まれつき魔力を持つこの世界には存在しない。
それなら別の世界ならどうか?例え失敗したとしても異世界への門を開くことで自身の魔核も含め核の力もかなり減らせることが出来るはずだ。そうして自身の生命と魔核の力を使い彼女達が適合者を探せる空間を創り最後の龍は力尽きた。
それから長い時間をかけ彼女達は数々の世界を見渡し適合者となる蒼弥をこの世界に引き寄せたのだ。
「長かったが大体理解できた。つまり俺は君たち魔核の力を取り込む器になるわけだ。」
「そうだ。魔核が適合する際に身体が核に適合する形へ新しく創り変えられるという訳だ。」
「なるほど、それで異世界転移でもあり転生でもあると…」
「意識や肉体の制御はどうなるんだ?俺は意識だけの存在になるのか?貴方たちが身体を制御するのか?」
「貴方が肉体の制御は出来る。ただ貴方が望めば我らに肉体を預けることも出来る。意識は誰の意識も消えたりはしない力を大分使うので休眠する個体が出るかもしれんが徐々に起きるだろう。」
「そうか、誰も居なくならないなら良かった。」
蒼弥はふと家具がなくなりガランとした家を思いだしたが首を横に振って忘れようとした。
赤い球体は一瞬言葉を話すのを止めたがすぐにらまた龍核の適合の際の話を続ける。
「肉体は魔核の力により若返り徐々に成長して魔核にどんどん適合していく。その後成長は止まり肉体のピークを維持する。」
「また我らの声や考えが頭の中である程度読み取れるようになるかも知れんが深いところまで探れん。」
「何か特殊能力とかは使えるようになるのか?自慢じゃないが戦いとかの経験はないから俺は弱いぞ。」
「問題ない。魔核の適合により貴方は強大な魔力を手に入れる。また我らの主の記憶も核と共にある程度が継承されるので我らの主の魔法が使えるようになる。」
「それは何ともありがたいな。そういえば魔核の力を悪用しないって言うのはわかったけど他に使命とかはないのか?」
「ふむ、使命とまで重たいものではないが我ら長い間ここに居た。久しぶりに外の世界を思う存分体験させてくれ。」
蒼弥はその言葉を聞いてこの龍核達が長い年月見るだけしか出来なかったんだと思い可哀想になった。
「わかった。死ぬまで楽しませてやる。」
「感謝する。」
そうして蒼弥の意識はまた消えていった。