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好きな人を友人に紹介しました  作者: 天満月 六花


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―消えたものと決意―


「……ブライトって……あの子に対して真っ直ぐなんだな……」


 諦観を含んだその言葉に、溜め息を吐いた。


 フューリーの情けなく諦めたような様子に少しだけ同情心が湧いてしまって、お節介な言葉をかける。


「お前はまずキャリーに喧嘩腰で話しかけるのやめろよ。見てて痛々しいぞ」


「うぐっ……痛々しい……」


 痛い所を突かれたのだろう、苦い顔をして呟く。

 ガキみたいなことをしてるフューリーに配慮してやるつもりはないので、更に言い募る。


「事実だ。少しは素直に話しかけろよ。無視はされてねぇんだから大丈夫だろ」


「無視されたら俺だって話しかけることも無理に決まってんだろ……今はもう嫌われてるかもしんねぇけど……」


 フューリーは俺の言葉に落ち込みながら言う。


 落ち込む面倒なフューリーに、言葉をかけたのは失敗だったかと思いながらも続ける。キャリーには悪いが言っていたことを言ってしまおう。キャリーも今のフューリーにはかなり迷惑を被っているっぽいから構わないだろう。


「知らねぇよ……。……はあ……俺がキャリーに嫌われてた時は完璧に避けられてたんだから、お前が避けられてねぇってことはキャリーだって嫌いな訳ではないんだろ。昔はお前のこと可愛かったって言ってたしな」


「嫌いじゃない……。って、可愛い!?は!?い、いつそんな話を!?」


 俺の言葉に少しだけ希望を持った顔をした後、聞き慣れない言葉に気づいたのか大げさに驚く。

 顔が赤いのは恥ずかしいのか嬉しいのかどっちだ。


「ローリーがキャリーと仲が良いからな。メーベルさんとユーヴェンも含めて5人で遊んだ時だよ」


「遊んだ……う、羨ましい……」


 妬むような目で言ってくるフューリーを半眼で見る。


「お前も遊びに誘えばいいだろ」


「軽く言うなよ!」


 少し涙目で睨んでくるが、それぐらいできないと関係修復してキャリーを振り向かせるなんて無理だろう。


「知らねーよ。やるしかねぇだろ」


「簡単そうに言いやがって……!……ってかよくスカーレットがメーベルさんと男が会うの許したよな……。お前はどう見たって亜麻色の髪の子しか見てなさそうだとしても……ユーヴェンって確かお前と仲良い騎士団事務のグランドのことだよな……って、あ」


 ちゃんと話したことなどなかったが、フューリーは話の飛びが多いと思う。必要以上に詰められないのは都合がいいが。


「一言多いんだよ、お前。それでなんだよ?バカみてぇな顔してこっち見て」


 わざわざ俺がローリーしか見てないと突っ込んでおいて、少し気まずそうな顔で見てくるフューリーに苛つきながら問う。


「ブライトお前、口悪いな!」


「お前に気を遣う必要なんて感じねーからな」


 そう言うと自分が悪いという自覚でもあるのか、ぐっと黙ってから視線を逸らした。


「突っかかってた俺が悪いけどな……はあ……。あー、ちょっと思い出したんだよ。グランドとあの子の噂を聞いたことあったなって」


「は?」


 フューリーの話に自分でも信じられないくらい低い声が出た。


 ――ローリーと、ユーヴェンの、噂?


「お前との噂にすぐ消されたのか、聞いたのは少しの間だけだったけど。そういえばあの子、グランドとも仲が良かったよな」


「へぇ」


 沸々と湧き上がる、嫌な感情。ぐちゃぐちゃと心の中を掻き乱される。


 少しの間ってどのくらいだ。ローリーに俺との噂じゃなくて、ユーヴェンとの噂も流れていたなんて知らなかった。


 ――なんで、俺とだけじゃなくて、ユーヴェンとまで。


 思わず歯を食いしばる。


「ブライト……」


「何だよ?」


 フューリーを見て問うが、今はまともな対応などできそうにない。


「噂があったの嫌なんだな……」


 フューリーの言葉に苦い顔をして顔を逸らす。


「……別に何にも思ってねぇよ」


「そんな怖い顔してんのに……何も思ってねぇは嘘だろ」


 溜め息を吐きながら言われた言葉に思わず舌打ちする。


「ちっ」


 流石に誤魔化せない程、厳しい顔をしてしまったことは分かっている。


 けど、仕方ないだろう。そんな噂があった事を知って、心穏やかでいられる訳がない。 


「あー……あの子の好きな人ってグランド……ってうわ!」


 フューリーの胸倉を掴んで黙らせて睨みつける。


「フューリー。お前言うんじゃねぇぞ。誰にも、何も」


 低い声で脅す。俺の態度でフューリーに気づかれてしまうなんてとんでもない失態だ。


 ――ローリーは、誰にも知られたくないだろうに。


 自分の情けなさに顔が歪む。


「掴むのやめろ、言わねぇから」


 フューリーは胸倉を掴んでいる俺の手を掴んで言う。その顔は真剣で、嘘を言っているようには思えない。


 掴んでいた手を離す。


 それでも不安は拭えなくてフューリーに言い募る。


「……言ったらキャリーにバラすぞ、お前のこと。他人から言われんの嫌だろ」


 フューリーは溜め息を吐くと、苦く笑う。


「はー……わざわざ脅さなくても言わねぇよ。俺だって嫌な気持ちはわかってる。ブライトのも、あの子の気持ちも誰にも言わねえ」


 そのフューリーの言葉に少し安心して、いつの間にか詰めていた息を吐いた。


「頼むぞ」


 念押しすると、からっとフューリーは笑った。


「ブライトは悪役になりきれねぇ奴だな。わざわざ頼むなんて」


 そう言われると気恥ずかしくなって首を掻く。


「……うるせぇ。……お前の恋愛相談に乗ってたら時間食っちまったじゃねえか」


 思わず悪態をつくと、フューリーは仰け反って驚いた。


「れ!恋愛相談、ってなぁ!?」


「あ?完璧そうだったろ?」


「ち、違う!え?いやそうか?」


 ……フューリーって意外と面白い反応するな。


 そんな事を考えると、ローリーが俺が照れるのを面白がっていたのを思い出す。

 少しローリーの気持ちがわかってしまった気がして笑ってしまう。


 ――まあ、俺はローリーにからかわれても結局許しちまうんだが。


「そうだろ。まずフューリーは普通に素直にキャリーに話しかけることからだけどな」


 フューリーは俺とローリーの気持ちを黙っててくれるようだし、あまりからかい過ぎるのはやめておこう。


「あー……うー……普通に素直に、話し掛ける、なぁ……」


 フューリーは頭を抱えるように唸っている。こいつにも思う所があったらしく、俺の言葉を真面目に考えているようだ。


「せいぜい唸っとけ。……ま、適度に頑張れよ。じゃーな」


 フューリーの様子に余計な事だとは思いつつも応援の言葉をかけて、戻ってローリーの弁当を食べようと歩き出す。


「あ、おう。……悪かったな、今まで突っかかって。あと呼び出して」


「もう突っかかってこねーなら構わねぇよ」


 謝罪に少しだけ振り向いて返す。フューリーは安心したように笑った。


「そうか。ブライト、ありがとう。……ブライトも、頑張れよ」


「……ああ。……俺も、ありがとな」


 俺はそう言って手を振ると、来た道を戻り始めた。


 フューリーには言わないと言ってくれた事にも、そして噂を教えてくれた事にも、感謝している。


 ローリーと、ユーヴェンの、噂。

 俺は、その噂を許せなかった。そんな噂があった事自体が嫌だった。


 ローリーとの噂は、俺とだけがよかった。


 ――……ユーヴェンにローリーを任せるなんて、最初から無理だったんだな。


 俺はローリーとの噂を必死に消しているつもりだった。でもきっと、俺の中ではローリーの噂が俺とでよかったという思いがあって。ユーヴェンとの噂なんて考えたくもなかった。

 ローリーが噂をそのままでいいと言ったのも、心の奥では喜んでいたんだ。俺に好きだと思われてもいいと言ってくれたのが、嬉しくて堪らなかった。

 

 ローリーがユーヴェンの話をした時に浮かべた、はにかんだ笑顔を思い出す。


 あの目が俺に向いていないことが悔しくて堪らない。


 ローリーを振り向かすなんて、途方もないことだと思っていた。

 けれど。


 ――ローリーが俺を見てくれないと、嫌だ。


 あんなに可愛い顔を見せられて、これからもあんなに可愛い顔でユーヴェンを見ると考えたら、無理だ。


 ――あの顔で、俺を見て欲しい。


 思っていたより嫉妬深く、独占欲のある自分に気づいてしまった。


 ***


 思い出して眉を寄せた。ユーヴェンとローリーの噂があったなんて事を思い出すと、今は消えているとはいっても背筋が冷える。


 昼間フューリーに言った事に嘘はなかったはずだが、ローリーを笑顔にするためならなんでもするってのは結局嘘だった。


 ――俺はユーヴェンに撫でられるローリーは、もう見たくない。


 それがあいつが喜ぶことだとしても、許容できそうにない。


 俺が撫でた時の優しく笑っているローリーを思い出す。あれはあれで可愛かった、が。


 ――完璧に意識されてねぇんだよな。


 最後に撫でた時は思わず声を出してしまったみたいで恥ずかしがっていたが……。

 頬を染めて照れていたローリーを思い出す。


 ――思わず出た可愛い声に恥ずかしがるローリー……すげぇ可愛かった……。


 バンと勘違いしそうな自分の頬を思いっきり叩く。

 あれは思わず出した声に恥ずかしがっただけだとわかっている。


 ユーヴェンに撫でられそうになったローリーの恥ずかしくて堪らないというような頬を染めた顔を思い出して、唇を噛み締める。


 ローリーに想われているユーヴェンが羨ましくて妬ましくて堪らない。


 わかってる。ユーヴェンはいい奴だし、真っ直ぐで素直だ。素直じゃない俺とは違う。だからローリーも好きなんだろうと。


 俺に振り向かせることなんて、本当にできるのか考えてしまう。それでも俺は、ローリーに俺を見て欲しい。俺を見て、あのはにかんだ可愛い顔を見せて欲しい。


 ――まずはローリーの意識を変えないと駄目か。


 ローリーは俺を兄のリックさんと同じように見ている節がある。その意識を変えて、まず一人の男として見てもらわなければいけないだろう。


 ローリーが意識せざるを得ない状況は、なんだろうか。一瞬ローリーにお茶に誘われたことを思い出す。が、頭を振って思い出すのをやめた。


 ――家にふたりっきりの状況でローリーに意識させることって無理だろ!


 そんなもんできるわけがない。俺がその状況に耐えられない。


 ローリーに頭を撫でる許可はもらったんだ。それも使いながら、まずは少しずつ意識させていこう。

 ……本当に意識してくれるのか、不安もあるけれど。


 それでも俺はローリーと、噂じゃなく本当に付き合いたい。


 ――なら、俺が行動するしかない。


 もう、ユーヴェンとローリーが付き合うなら祝福しようなんて思っていた自分は、どこにも存在しなくなっていた。


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