心配性な友人たち
話しながら王宮を出て、そろそろ分かれ道だ。私の家はユーヴェンやアリオンとは違う方向なのでここでお別れだ。
声をかけて帰ろうと思っていると、アリオンがユーヴェンに声をかけた。
「ユーヴェン、俺ローリー送ってくから」
「あ、おお」
ユーヴェンは一瞬驚いたあと頷く。
私もアリオンに驚く。もしかして昨日ナンパされてしまったからだろうか。
「アリオン、別にまだ早い時間だし大丈夫よ?」
そう言うけれど、アリオンは譲る気がなさそうだ。
「昨日の今日だろ。送ってく」
やっぱり昨日ナンパされたから心配しているのだ。全く心配性なんだから。
「なんかあったのか?」
アリオンの様子が気になったのかユーヴェンも聞いてきた。
「ローリー昨日ナンパされてたんだよ」
「あ、なんか昨日二人で飲みに行ったって言ってたな。そん時?」
アリオンが眉を寄せながら言うと、ユーヴェンが私から聞いた情報と繋げる。
「……ああ、そうだよ。俺が待たせちまって……。ユーヴェン、お前も遊ぶ時とかになるべく遅れないようにしろよ。ローリーとメーベルさんの二人を待たせるとかやめろ。危ねえから」
アリオンが頭を抑えながら後悔しているように言って、ユーヴェンにも忠告した。
ここまで責任を感じさせてしまうとはもっと気をつけるべきだったと、私も反省する。
そうは思うけれど、やっぱり過保護だ。
「!ああ、わかった」
ユーヴェンもアリオンの言葉に真面目に頷く。
その二人の様子に溜め息を吐いた。
「もー、心配性ね」
私の呆れて言った言葉にアリオンが真剣な目を向ける。その目に少し気圧されてしまう。
「お前もなるべく一人で早く行くとかやめろよ。俺がいる時は一緒に早く行ってやるけど」
「……なんだかアリオン、過保護に拍車かかってない?」
そんなに心配をかけてしまったのか。アリオンが来てくれたから助かったのに。
……自分で対処できなかったから心配されているのかもしれない。
なんとなくアリオンの気持ちがわかったけれど、それでもかなり過保護だと思う。
「うーん……でもローリーがナンパされてたの見たら仕方ないって」
ユーヴェンがアリオンの言葉を肯定するので驚く。
「ええー……そんなもの?」
信じられない思いで返すが、軽く頷かれた。
「そんなものだなー」
「というかユーヴェンはどうやってちゃんと早く行く気なんだよ。返事はよかったけどな」
確かにそうだ。いつも遅れているのにどうするつもりなんだろう。
「ん?あー……2時間くらい早く出ればなんとかその時間までには辿り着くことが多いから、そうやって?もっと早く出ればいいかなって。それに手助けがいるような場面に合わない日もちゃんとあるんだからな!この前はちょっと時間かかったけど……」
初めて聞く話にアリオンと顔を見合わせて驚く。
「一応努力はしてたのね……」
「ユーヴェン、お前も苦労してたんだな……」
まさか私達との約束もそうしてくれていたのだろうか。少し感動していると、ユーヴェンは気まずげに目を逸らした。
「……すまん、お前らだけと会うときは許してくれるから普通に出てた……」
「えー……」
「感動したのに、お前って……」
ユーヴェンの言葉にガッカリしてアリオンと一緒に不満を漏らすと、ユーヴェンは目を逸らしたまま言い募る。
「俺だって最初はお前らを待たせるの悪いし、ちゃんと早目に出てたけどな?でも早く出る分遭遇する回数が多くなって……辿り着く頃には疲れるし……お前ら俺が遅れても許してくれるし……」
「その何かと引き寄せる体質はどうにかなんねーのか」
アリオンが呆れたように突っ込む。
「どうやってどうにかするんだよ!」
「わかんねー」
ユーヴェンの心からの叫びにアリオンは首を振りながら返す。
その様子に私はくすくす笑ってしまう。流石にそんなに早く出るのは大変だろうから、私達と遊ぶ時はゆっくり来ればいいと思う。
「まあ、別にユーヴェン遅れてても楽しく遊んでるからいいわよね」
だからアリオンにそう話しかける。
「ん、それは確かに」
アリオンも快く頷いてくれた。
「お前らひでーぞ!」
ユーヴェンがショックを受けたように言うので、笑いながら返す。
「遊んでないとあんたも気にするくせに」
そう言うとユーヴェンはぐっと黙った。やっぱりユーヴェンは素直で優しい。
「まあ、そりゃ気にするけど……」
少しむくれたように言うユーヴェンに思わず笑みが漏れた。
アリオンは困ったように笑っている。
「ま、俺らと遊ぶ時はそれで構わねぇよ。俺が早く行くし。ただ俺がいない時はやめろ」
そういえばそんな話だったことを思い出す。
「わかった。ちゃんと早く行くようにするよ」
「ならよし」
ユーヴェンが真っ直ぐ頷いた言葉に、アリオンが満足気に返す。
「……やっぱり過保護じゃない?」
思わず首を傾げながら突っ込んでしまう。
するとユーヴェンが眉を下げながら話し始めた。
「仕方ないって、ローリー。今まではローリーがそういうのちゃんと避けてたのに、昨日避けられなかったってことはローリーが思ってるより大きいよ。治安が悪くなってるのか、わかりにくい奴等が増えて避けにくくなってるのか」
「……昨日は、ちょっと考え事してて避けられなかっただけだから……」
それは私の反省点だ。いつもならちゃんと避けている。
でも、ユーヴェンに心配されているのは嬉しく感じた。アリオンも心配してくれているのに、ユーヴェンからとアリオンからでは受け取り方が違ってしまうことに罪悪感が湧く。
にやけそうになったり眉を下げそうになる顔を必死に取り繕っていると、アリオンが息を吐いてから言う。
「そもそもずっと気を張ってねぇと避けられねぇってのも問題だろ」
その言葉が突き刺さる。
「う……そうかも……」
確かに前だってぼーっとしている時はあったのに、そんなことはなかったように思う。でもタイミングの悪さもあったとは思うんだけど……否定する理由がなくなってしまった。
「ほら、過保護じゃねーよ」
私が黙ってしまったのを見て、アリオンがにっと笑って言ってくる。
「なんだかあんたたち二人に丸めこまれた気がする……」
どうも二人に思考を誘導されたような気がして思わず呟く。
「気のせいだろ」
「そうだよ、気のせい」
「……こういう時は恐ろしく息ぴったりよね、あんたたち」
アリオンとユーヴェンが同じように返答したのを半眼で見る。
「そうか?」
「そんなことないって」
「……」
やっぱり丸めこまれた気がする。
そう思うけれど、二人共私やカリナを心配してのことだ。その気持ちはしっかり受け取っておこう。
私は溜め息を一度吐くと心配性な友人たちを見て、二人の少し満足気な様子に自然と微笑んだ。




