三人での飲み会
休憩の終わりがけに今日ご飯でも食べて帰ろーぜ!というユーヴェンの一言から――恐らく目がキラキラしていたので結果を聞きたいのだろう――ご飯を食べに行く事になった。
もう仕事は終わったが、カリナと話していた為少し遅くなった。気持ち早目に廊下を歩く。
カリナにユーヴェンを紹介するにあたって、カリナの事情を言ってもいいか確認したのだ。恐らく言っておいた方がユーヴェンもいきなり距離をつめるなんて事はしないだろう。彼には今日アリオンにしていたように距離感が近すぎるところがある。
あの時のアリオンは学園時代の噂を思い出したのか顔が真っ青だった。ユーヴェンは気にもせず満面の笑顔だったが。思い出してつい笑ってしまう。
ついでにアリオンにも話していいか確認してきたので、この三人でのご飯の話題にしていいだろう。私が信頼してる友人なら、という事で許してくれた。
あの二人なら話してもカリナを傷つけるような真似は絶対にしない。そう言い切ると、カリナは笑っていい友達なんだね、と言ってくれた。
やはりいつかアリオンも紹介しよう。いい友人のカリナにいい友人のアリオンとして。
***
「かんぱーい!」
ユーヴェンの弾んだその声に合わせて私とアリオンも冷えたエールをぶつけあう。運ばれてきた香草をつけて焼かれた大きな肉を取り分けて、エールと一緒に食べる。
今日入ったという野生のワイバーンの肉だと馴染みの店員が言っていた。魔獣の肉は仕留めた時でないと入らない為珍しい。良いものが入ってる時に来てよかったと思いながらナイフで切った大きめの肉にかぶりつく。
ワイバーンの肉はしっかりと引き締まった赤身で、歯応えがあり、かぶりつくと同時に出た肉汁が溢れる。
慌てて手を添えて滴り落ちないよう拭うと、口の中に頬張った肉を味わう。野生の魔獣ならではの獣臭さがハーブによってうまく中和されて、塩加減もちょうどよくまぶされた黒胡椒のピリッとした刺激がいいアクセントになっている。
「美味しいー!」
思わず出た声に同じように肉を食べていたユーヴェンとアリオンが頷く。
「いい時に来たよな!」
「おお、言い出したお前に感謝だよ」
「そこは同意ね」
「だろ!」
ユーヴェンは満面の笑顔で親指を立てた。だが何かを思い出したかのように視線を私に向ける。
恐らく紹介の件だろう。そんなに気になるのか……そう思いながらも何か言うかと思ったら言わずに肉を食べている。不思議に思ったが、そのまま仕事の愚痴やどこの食べ物が美味しい、あそこの品物が面白い等、他愛のない話をしながら食事とお酒を楽しむ。ユーヴェンから何か言うだろうと思っていたから当てが外れた気分で、どう切り出すか考えていた。
程よく食べた所でアリオンがトイレに行くと言って席を立った。
「なあ、ローリー」
そう声を掛けてきたユーヴェンは、思ったより近い距離にいた。こういうところが距離感が近いというのだ。
「なに?」
その距離には慣れているのでそのまま聞き返す。カリナにはもう少し距離をもって接して欲しい、そう思いながら。
「あのさ……紹介の事、アリオンにはあんまり言わない方がいいのか?」
不安そうに聞いてきたユーヴェンに自分の中で納得がいった。昼間のやり取りを聞いて考えたのだろう、私があまり言おうとしていなかったからこの飲み会の席でも言い出そうとしなかったのだ。
やっぱり私が言い出すべきだったな、そう思いながら返事をする。
「別に大丈夫よ。ちゃんと話す許可は取ってきたから。アリオンが戻ってきたら、話しましょ」
そう言うと目を輝かせてわかった、と頷いた。恐らくアリオンに誤魔化すとかしたくなかったのだろう。
アリオンならわかってくれると思うが、それでも一番仲が良い相手には言いたかったんじゃないのだろうか。……昼までは黙っていたみたいだが。
ふっと笑う。
こういったのがユーヴェンの憎めないところだ。