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好きな人を友人に紹介しました  作者: 天満月 六花


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ほどく手


 そうやって話していると第一訓練場内に一人の騎士が走ってきた。そして兄を見つけると声を張り上げて呼ぶ。


「ガールド隊長!」


「どうした?」


 騎士のその声にさっきまでの明るい表情をおさめて真剣な顔をする。


「訓練中に申し訳ありません!グランドン隊長がガールド隊長に至急来てほしいとのことです!」


「そうか、わかった。すぐに行く」


 兄は騎士の言葉にすぐに頷くと、私とアリオンの方を向く。その表情はいつもの兄だ。


「ちょっと行かないといけなくなったから、アリオンくん稽古はまたね。あとローリーを魔道具部署まで送っていってくれる?ローリー、折角会えたのに残念だけど、また家でね」


 兄はアリオンに私の事を頼んでから、残念そうに言う。


 ――それにしても王宮内なのにアリオンに送らせるなんて過保護だなぁ。


 そう思って苦笑しながら頷いた。


「はい!稽古ありがとうございました!」


 アリオンが兄に向かって頭を下げる。アリオンも兄を慕っているのか、とても礼儀正しい。


「わかった。またね、お兄ちゃん」


 私は兄を見送る言葉を口にして手を振る。


「うん、じゃあね」


 兄は笑ってそう言うとまたもやくしゃっと私の頭を撫でてから、早歩きで騎士の所へと向かった。


 また頭を撫でられたから、髪が乱れてしまった。


「もー、お兄ちゃんは……」


 何度言ってもやめてくれない兄の仕草に頬を膨らましたまま、手探りで髪を直していく。


「ローリー、そこ、まだ跳ねてるぞ」


 アリオンが指を指してくる。鏡がないので分からない。


「え、どこ?」


 アリオンが指を指した方を整えていく。


「もうちょい右……いや、そっちじゃねー」


 アリオンの指示を聞くけれど、なかなか分からない。少し面倒くさくなってきた。


「わかんないから、アリオン直してよ」


 アリオンなら見えているからわかるだろうし、私が直すよりも早そうだ。


「はあ!?お、お前なぁ……」


 私の言葉を聞くとアリオンは目を見開く。私が面倒くさがったから呆れて驚いたのだろうか。

 断られるかと思って、アリオンを覗き込みながら聞く。


「駄目?」


「っ……!……あー……ったく……。……駄目じゃねーよ。……直してやるから、ちょっとじっとしてろ」


 アリオンは一度目を逸らしてから大きく溜め息を吐くと、観念したように言う。


 そして言われた通りじっとしていると、アリオンが私の髪の毛に手を伸ばした。私よりも頭のひとつ分くらい大きいアリオンは背伸びをすることもなく私の頭を覗く。頭の上の少し後ろの髪をつついたと思ったら呟く。


「あー……これ、絡まってんのか……。ほどくからちょっと待ってろ」


 アリオンの大きな指が私の頭の上で動いているのがわかる。きっと痛くないように慎重にほどいてくれているのだろう。その優しさが嬉しくて思わず笑顔になる。


「ふふ、アリオンは頼りになるわね」


「……お前、俺がなんでも言うこと聞くと思うなよ……」


 少し苦々しく言うアリオンに少し考える。


 そんなことを言われても、アリオンはなんでも言うこと聞いてくれそうなくらい優しいからそう思ってしまうのも不可抗力ではないかと思う。


「…………思ってないわよ?」


 しばし考えて一応否定の言葉を出す。


「間があるんだよ、間が!」


 アリオンは指を動かして髪の毛を優しくほどきながら責めるように言う。そんな風に声を荒げながらも、私の髪を優しく扱っているのは変わらないから、おかしくて笑ってしまう。


「ふふふ、冗談よ」


 私がそう言うと、アリオンは大きな溜め息を吐いた。


「ほら、直ったぞ」


 そう言うと、私の髪を手で軽く梳いて整えてくれる。


「ありがと、アリオン」


 そうにっこり笑って言うと、アリオンは手で顔を抑えながら呟く。


「こんなとこ誰かに見られたらまた噂が広まるだけだぞ……」


「別にいいって言ってるじゃない」


 アリオンの言葉に呆れたように返す。

 確かにそうかもしれないけれど、気にしなくていいと言っているのにまだ噂を気にするアリオンは心配性だ。そもそもそのままにしているのはフューリーさんに噂を知ってもらう為なのに。


「だからってな……」


 私に反論しようとしていたアリオンの言葉がピタッと止まる。


 第一訓練場の入口辺りを見ているので、私も見る。するとそこには私も一度見たことがある人が居た。さっき思い浮かべたばかりの人なのですぐに思い出した。


「あれ、フューリーさんじゃない?」


 フューリーさんも朝練に来ているなんて真面目なんだなぁと思って見ていると、なぜか先程から一歩も動いていない。なんだかこちらを凝視している。


「……そうだな……」


 アリオンが何かを諦めたような相槌を打つ。そこではっと気づいた。

 さっきのはアリオンが言っていたように噂が広がってもおかしくないやり取りだった。もしかしてフューリーさんはそれを見て気まずくなっているのではないだろうか。

 そうだとしたら、あとひと押しで私が彼女だと思ってもらえるかもしれない。


「アリオン、頭撫でて!」


 すぐに思いついたことをアリオンにねだる。


「はあ!?お、おま、何言って……!?……あ!ローリーお前まさか!」


 アリオンは大げさに驚いてから、すぐに思い当たったように眉を寄せて私を見てくる。その顔は私の思いつきをどうにか否定しようとしていそうだ。


「いいじゃない、チャンスよ、チャンス!」


 そう言ってアリオンの袖を引っ張る。


 ――さっきのでも彼女っぽいなら、きっと頭を撫でられたらもっと彼女認定されるんじゃないかしら!


「俺はお前に言われたからわざわざ否定しに回らねぇけど、わざわざ広めるつもりもねーよ!」


 空いているもう片方の手で頭を抱えるようにしながら否定するアリオン。

 アリオンは私の手を振り払わずに、ただ動かさないように力を入れている。袖を引っ張っても手は動いてくれない。


「駄目なの?」


「だからお前は……!なんでも言うこと聞くと思うなよ!やらねーからな!」


 少し落ち込みながらアリオンに聞くけれど、アリオンは頷いてくれない。

 ついにはそっぽを向いてしまった。


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