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兄とアリオン


「あれ?お兄ちゃん、今日は早く出るの?」


 ご飯を食べた後、昨日お風呂に入ってないのでさっとシャワーを浴びてリビングに戻ると、まだ6時40分過ぎだというのに準備を終えた兄が居た。

 普段の就業時間は8時半からなのでずいぶんと早い。


「ああ、少し早目に出ようと思ってね。ローリーが起きてこなかったら、出る直前に起こそうと思っていたんだ」


 笑いながら返す兄は、早く出るというのに妙に機嫌がいい。いつも早く出る時は面倒そうにしているのに。


「そっか」


 不思議に思いながら相槌を打った。


「じゃあ僕は出るから、ローリーはしっかり準備しなさい。お弁当は机の上に作ってあるから。あ、今日アリオンくんに会ったらちゃんとお礼を言っておくんだよ」


 兄の言葉にしっかり頷く。


「うん、わかってる」


「よし、いい子だね」


 私の返答に満足そうに頷くと、頭を撫でてくる。


「もー、別に頭撫でなくていいわよ。もういい大人なんだから」


 恥ずかしくなって、頭を引っ込めると手でもう撫でられないようにガードする。

 兄は楽しそうに笑っている。


「僕にとってローリーはいつでも可愛い妹だよ」


 笑んで言われるその言葉は昨日アリオンが言ってたことと同じだ。兄にとってはいつまでたっても妹なのだろうけど、流石に恥ずかしい。


「はいはい」


 呆れて適当に返事をすると、兄はそれにも優しく笑う。


「じゃあ、行くよ」


「うん、いってらっしゃい」


 手を振りながらの言葉に私も同じようにして返した。


 ――昨日は私が酔い潰れて帰ってきたのに、今日は妙にご機嫌よね……。


 アリオンを怒ってもないと言っていたし、何かいいことでもあったんだろうか。それとアリオンと思っていたより仲良さそうなのも不思議だ。


 兄が撫でた頭を整えながら、昨日のことを思い出す。

 アリオンも頭を撫でてくれた。それになんだか安心して眠ってしまったけれど……。

 やっぱりアリオンは私を妹扱いしてるんだろうなと思って苦笑した。アリオンの過保護は兄の過保護に似ている。でも、アリオンには色々と感謝してるから何かお礼をしないと。


 ふと、先程兄が言っていたお弁当を見る。


 ――いいことを思いついたわ。


 もしかしたら私の疑問も解けるかもしれない。解けなくても、きっとアリオンが喜んでくれるだろうから問題ない。


 ――すぐに準備しなくちゃ。


 私も機嫌良く鼻歌を歌いながら準備をし始めた。


 ***


 ガキィッ!ガキンッ!


 刃を潰した鉄剣がぶつかり合う音が聞こえる。兄とアリオンは何度か剣戟を交わしてから、一度離れる。


「ほら、まだ甘いよ!」


 兄がアリオンに向かって走る。アリオンは迎え討とうと剣を構えるが、それよりも先に兄はアリオンの懐に潜り込む。

 そして兄は勢いそのままにアリオンに体当たりして、足をかけて倒す。


「ぐっ……!」


 ドサリと倒れたアリオンはすぐに起き上がろうとするが、その前に首元に剣を向けられた。


「はい、終わり!」


 にっこり笑って言う兄は息も切らしていない。対するアリオンは離れている場所から見ていても息が切れているのがわかった。


「はい……」


 アリオンの消沈した声が聞こえる。兄はからっと笑いながら、剣をアリオンの首元からどける。


「まだまだ甘いねー。もっと早く反応しないと駄目だよ?魔物も治安維持も相対するのは意思を持った生き物なんだから、決まった騎士の動きだけ練習してちゃ駄目だっていつも言ってるよね?」


 アリオンは兄の言葉を聞きながら立ち上がると、息を整えながら返事をしていた。


「はい、すみません……」


 ――やっぱりそうだった。


 第一訓練場の柱の陰から兄とアリオンが戦っているのを見た私はそう思った。

 昨日アリオンがしごかれたと言っていたから、少し気になっていたのだ。もしかしたらアリオンに兄が稽古をつけているのはもっと多いんじゃないかと。先程の様子と言葉から、兄はかなりの頻度でアリオンに稽古をつけているんだろう。

 兄が機嫌良くてアリオンと仲が良さそうだったのも、いつもアリオンに稽古をつけているからだ。たぶんあの様子と今日の上機嫌からすると、兄はアリオンを気に入っていて稽古をつけているんだとは思うけれど。

 それでも昨日私を酔い潰した報復もあるのではないかと勘繰ってしまう。しかしアリオンも稽古つけてもらえることには感謝してたし、あんまり突っ込めない。そう思って柱の陰から見守るだけにしている。


「そんなんじゃ駄目だねー。あげるって言えないよ」


 兄がなんだか意地が悪そうな声で言った言葉に疑問が浮かぶ。


 ――あげる?何の話?


「……!?な、何言ってるんですか!?それ、それはまず、その、本人の、気持ち、が、一番大事じゃないですか!?まだ、俺は何も……!!」


 アリオンが兄の言葉に驚いたように返事をしている。なんでか知らないけれど噛み嚙みで、言葉の強弱もまちまちだからうまく聞き取れない。どんな顔をしているかも遠くて見えなかった。


 ――何が一番大事だって言ったんだろ……?


 首を傾げながら考えるが、流石に聞き取れた単語が一部だけだったので推測もできない。


「ふーん。その様子じゃちょっとは覚悟ついた?」


 兄は心底楽しそうに言うと、剣を再び構えた。


「!!」


 兄に一拍遅れてアリオンも剣を構えて、再び戦おうとしていた。


「ほら、次行くよ!」


「は、はい!」


 掛け声にアリオンが応じて兄が走り出した時、ふと兄と私の目が合った。


「あれ、ローリー?」


「え!?」


 兄の呟きにアリオンが反応してこちらを向こうとした瞬間、兄は剣でアリオンの足元を払って浮かし、綺麗に倒して首元に剣を当てた。


「思わぬ出来事があっても、余所見はしちゃ駄目だね」


 兄はにっこりと笑って言う。全く兄は容赦ない。自分が私の名前を呟いたからなのに。

 私は溜め息を吐いてから、兄とアリオンの下へと歩いて向かった。


昨日は更新できずすみません。

今日はその分、遅くなるかもしれませんがもう1ページ更新しようと思っています。

読んでいただきありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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