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―信頼と報告―


 俺はなるべく顔の熱を冷まそうと頭を振っていると、ドサリとリックさんの方から音がする。

 リックさんはソファに脱力したようにもたれかかっていた。


「なんか拍子抜けしたなぁ……」


「えっと、すみません……?」


 気が抜けたように言ったリックさんに思わず謝ってしまうが、ジロッと見られる。

 リックさんは大きく息を吐くと、姿勢を直してまた口を開いた。


「はあ……。ま、君が酔い潰してローリーに悪いことしようとしたとか最初から思ってないから安心してよ。僕にわざわざ伝達魔法送って、しかもローリーを自分のコートで包んでわざわざ接触を減らして。どう思えって言うのさ」


 リックさんのその言葉になんとなく居心地が悪くなりながら返す。


「……いや、そりゃ酔い潰したのは俺ですから……リックさんに言わないと……。それに、なるべく接触を減らさないとローリーが嫌かもしれないじゃないですか……」


「ローリーは絶対気にしないだろうけどね。ま、それも信頼の賜物かな。君が変な事するわけないって思ってるから」


 そう言ってリックさんはコーヒーに手をかけて一度話を切った。俺もまだ温かさが残っているコーヒーを頂く。


「僕でも思ってないし」


 飲んでいる間にぽそりと何か言われた気がしたけれど、ぱっとリックさんを見るとコーヒーを飲んでいた。

 リックさんは飲み終わったコーヒーを置くと、また話し始める。


「ま、きっとローリーが飲みたい気分だったのを君が察して飲ませたんだろう?アリオンくん、ローリーに甘いから」


 呆れたような目で見ながら言ってくるリックさんから少し目を逸らす。確かにローリーにも甘いと言われたけれど、リックさんからも言われるとは思わなかった。


「あ……いや……。その、ローリーはちゃんと、あまり飲んじゃ駄目かもしれないと、気にしてましたよ。でも俺が気にせずに飲めって言って飲ましたので、俺のせいです」


 ローリーがあまり怒られないようにと、確かにローリーが気にしていた事を伝える。

 リックさんは頬杖をつきながら半眼で見てくる。


「……まあ、君はそう言うよねぇ」


「本当のことなので」


 多少ドギマギしながら答える。嘘ではなく本当の事なのだから大丈夫なはずだ。


「ま、これからも気をつけてくれるならいいよ。一応アリオンくんの事は信頼してあげてるから。それにローリーだって君達と飲んだりするの楽しみにしてるからね」


 手を軽く振りながら言うリックさん。俺があまり怒られなかったということはローリーに説教がいくことはないだろう。そのことに安心する。

 それに、リックさんに信頼されているのは素直に嬉しい。


「ありがとうございます!」


 頭を下げてお礼を言う。


「変な虫がつかないようにしてね」


 リックさんのその言葉にはっとして、言っておかないといけない今日の出来事を話し始める。


「あの、リックさん。実は今日、ローリーがナンパに遭ってしまって……。俺が仕事終わりに噴水広場前で待っててくれって言ったから……そこで待ってる時に……。俺が長いこと待たせてしまったせいです。そんな目にローリーを遭わせてしまってすみません」


 そう言ってまた頭を下げる。あの時の焦りと間に合った安心感とそんな目に合わせてしまった情けなさが蘇る。


「ローリーが?……珍しいね。あの子は結構回りの状況を見てるからそういったことは自分から避けるのに。まあ、その様子だとちゃんと間に合ったんだろう?それにアリオンくんが悪い訳じゃない。そういった輩が蔓延る巡回不足は騎士団自体の問題だ。君は王宮で待たせればよかったと思っているんだろうが……今は王宮にも問題があるからね」


 またもや溜め息を吐くリックさんは、王宮の問題でも苦労してるようだ。顔を上げて聞く。


「……あの二人の問題児ですか?」


「アリオンくんも知ってるんだね。そう、問題児がいるからね。今日はなんだかだいぶ反省してたように見えたけど、何度言っても抜け出すし。流石に次はないかな」


 ローリーから事の顛末は聞いているが、ユーヴェンがあんな口上をしたからか流石に反省しているようだ。貴族でも王宮内の風紀を乱す者は許されない。きちんと今回で反省していれば除隊まではないだろう。


「そうなんですか」


「一応貴族の方だったからね。多少は忖度してたんだよ?でもそろそろ無理かな。というかフィッチャー副師団長がそろそろ堪忍袋の緒が切れそう。家の方から言われて頑張って諭そうとしてたみたいなんだけどねぇ」


 フィッチャー副師団長の苦労を思うと居た堪れない気持ちになる。それでも聞いた情報は上官であるリックさんに報告しないといけない。


「……リックさん、実はあの二人が王宮内でナンパをしていたという情報を聞いたんですが……」


 そう言うとリックさんは頷いた。


「ああ、報告があったよ。本人達も今は一応反省してるように見えるし、幸い被害もなかったようだから様子見に落ち着いた」


 その言葉にほっと一安心する。流石にユーヴェンも騎士団の一員だ。あの場では報告はしないと言ったようだが、きちんとそういった事があったことは報告したようだ。まあ、ユーヴェンはあの問題児達相手でも嘘を吐く性格ではないから被害がないと報告したんだろうが。実際あいつが止めたからメーベルさんに被害がいく前だった。

 被害がないと報告すればこうして様子見で済まされることも分かってたんだろう。ユーヴェンは仕事に関しては抜け目がない。


「そうですか」


「でも今までの問題児ぶりを見てると安心はできないからね。王宮内で待たせない方がいいだろう。しかし外でもナンパかぁ……」


 巡回不足だと言っていたが、ただのナンパぐらいではなかなか巡回を増やすのも難しいだろう。リックさんの心情的にはしたいのだろうが。


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