二人の友人
「え!ローリー紹介って言った!?」
私の零した言葉を耳聡く聞いたのはユーヴェンだ。キラキラとした目でこちらを見てくる。まだ何も言っていないのにそんな顔をしないで欲しい。
思わず顔を引き攣らせると、アリオンも不思議そうに聞いてくる。
「紹介?何の話だ?」
その言葉を聞いて固まったのはユーヴェンだった。あれだけキラキラしていたのに今はおやつを取り上げられた犬のようにしょんぼりしている。……犬に例えるのをそろそろ止めよう、今度からそうとしか見られなくなりそうだ。
それはそれとして、仲が良いのにアリオンにも紹介の事は言っていなかったのか。まあいつも一緒にいるわけじゃないけど……ユーヴェンは正直な性格だから嬉しかったら言っていそうなのに。
さて、どうしようか……。正直アリオンをカリナに紹介する気は今のところない。アリオンの女性に対する接し方は特殊な為、紹介するにしてもユーヴェンに慣れてからの方がいいと思っている。それに好意を持っている男性に慣れる、という点でもアリオンがカリナをどう思っているか……そもそも会ったことがあるのかも不明の為、違う。たとえカリナに好意を持っていたとしても、紹介するのはユーヴェンの方がいいと思ってるし聞けない。
そう言えばアリオンのいい人の話とかも聞いたこと無いな……。いや、今まではユーヴェンの話も聞いたことがなかったのだが。
じっとユーヴェンとアリオンを見比べる。ユーヴェンは硬質な金の髪を清潔感のある短髪にし、前髪は上げてセットしている。榛色の大きくて少し垂れている目は、人懐っこい性格を表しているように輝いている。
アリオンは襟足まであるさらりとした橙色に近い茶髪を流しているが、訓練後だからか汗で濡れている。灰褐色の瞳は切れ長で、綺麗に通った鼻梁も男の色気があるように思える。
二人共身長も高く体格もいいが、アリオンの方が騎士の為しっかりと鍛えられている。
……私の友人達ってかっこいいわね!改めて!と、友人自慢に近い思考に陥った。
しかし……見た目から考えても紹介するのはやはりユーヴェンだと思う。アリオンは少し綺麗すぎて男の色気もあるし……ユーヴェンなら人懐っこい性格も見た目に表れているし、カリナも話しやすいと思う。うん、やはり良い選択だった、そう思う。
……本当に、そうだろうか。
「ローリー、別に言わなくていいからあんま考え込むなよ」
「え?」
アリオンの言葉にいつの間にか考え込んで俯きがちだった顔を上げる。それと同時に私の手元からクッキーを摘んでいく。
「お前がはっきりダメとか言わないって事は、ユーヴェンとお前だけの事じゃないんだろ?紹介って言葉からしてそうだしな。んで、何か事情があるから俺にその事自体を言うか迷ってる。なら別に言わなくていい。ただの雑談だったし気にしてねぇよ」
サクッと音を立てながら美味しそうにクッキーを食べていく。その言葉に私は安堵して笑った。
「そういうとこはあんた男前よね」
「ふっ、もっと褒めろ」
「今ので打ち止めね」
そうやって笑っていたが、ユーヴェンがなんだか静かだ。そちらの方に目を向けると、いきなりアリオンに抱き着いた。
「アリオン、すげぇいいやつー!ごめん、俺お前が男前だから紹介の事言って、もしその子に興味持たれたら嫌だと思って言いたくなかっただけなんだ!」
「やめろ!わかったから抱き着くな!男に抱き着かれる趣味はねぇ!また変な噂が立つだろ!」
抱き着いてくるユーヴェンをアリオンが必死に剥がそうとしている。なるほど、だからアリオンにも言っていなかったのか。カリナの事、結構本気らしい。
なんだか複雑な気もする。これまでそういった話もしてなかったし、友人が取られる気でもしているんだろうか。でも不要な心配だ。カリナもユーヴェンも私を蔑ろにすることはないだろう。
それより早くユーヴェンを止めよう。アリオンが心配していることは実際に学園時代流れた噂だから……。
思い出して笑いながら、休憩時間が終わるわよ、と声を掛けた。