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―酔ったローリー―

アリオン視点です。


「はあ……やっぱ無理だったか……」


 溜め息とともに呟いて、目の前のローリーを見る。その顔はほんのり赤く染まった程度だが、カウンターに突っ伏しかかっている。

 今回はカクテルだからか、前よりも酔いが回るのが早い。しかももうぐでんぐでんだ。


「えへへー」


 無邪気に笑いながら飲んでいたグラスを回している。飲もうとして中身が既にないことに気づくと、俺のグラスを狙ってきたのでローリーの手が届かない所に持ち上げる。


「おい、ローリー。飲み過ぎだ」


 そう声をかけると、頬を膨らまして不満そうな顔をする。そんな顔をしても可愛いとしか思えないが、流石にこれ以上飲ます訳にはいかない。


「えー、おいしいんだもんー」


 膨れた顔のまま訴えてくるローリーに苦笑する。その口調は酔ったからか少し幼く感じる。


「それは作りがいがありますが、そろそろやめたほうがよろしいですよ、ガールドさん」


 マスターも俺の困った様子を察してか助け舟を出してくれる。


「むー、マスターまでー」


 ローリーは口を尖らせて不満を漏らす。


「マスター、水お願いします」


「はい。こちらです」


 マスターに頼むとすぐに出てくる。準備していたなら早く出して欲しい気もするが、俺はマスターに試されているような気がするので苦笑いのまま受け取った。


「もう、のんじゃだめ?」


 じっと俺を見上げながら眉を下げて潤んだ瞳で言ってくるローリーが可愛くて、少しだけ決意がぐらつく。

 手で顔を覆ってあまり見ないようにしながら、溜め息を吐いて答える。


「……はあ。だめだ、ローリー」


「むー。だってねー、きょうはなんかいろんなことがあったんだもん。のまなきゃやってられないもん」


 ねだってもダメな事を察したのだろう、今度は言葉で説得しようとしているみたいだ。

 ローリーが傷ついたことはわかってはいるつもりだが、それでも許可は出せない。ローリーの頭をあやすようにポンと優しく撫でる。少し高い体温とさらりとしたローリーの髪の感触にすぐに手を離したが、ローリーは少し目を細めて笑っていた。

 心臓が、早鐘を打つ。


「……お前の気持ちはわかったけど、もう飲むのはだめだ。気持ち悪くなるの嫌だろ。ほら、水飲め」


 水をローリーの前に出して、ちゃんと目を合わせながら言う。酔っていてもローリーなら、俺が心配していることくらいわかるだろう。

 ローリーは綺麗な碧天の瞳を揺らしている。そして揺れが収まると、仕方ないように笑った。


 この笑顔をこのまま眺めていたいなんて気持ちにどうして俺は今まで気づかずにいられたのか、今考えると不思議でならない。


「んー、いやー。わかった。おみずのむ」


 そう言って俺から水を受け取って、ぐいっと飲み始める。しかしその飲み方は雑で口の端から水を零している。


「お前、んな飲み方すんな」


 ばっと水を取り上げて、まだ使ってないタオルを出して口元を拭く。騎士の訓練等で汗をかくので余分にいつも持っている。

 滴る水が口の端から零れていたローリーを、一瞬だったけど目に焼き付けてしまった。どうしてそういう所に目がいくんだ。しかもローリーは俺が口元を拭いているのを大人しく受け入れているので、正直気が気でないのだが。


「ほら、ゆっくり飲め」


 口元を手早く拭き終えると、俺がグラスを支えてローリーに少しずつ水を飲ましていく。ローリーの唇が濡れて光り、喉がこくりと嚥下するのが見えて、ほんのり赤く緩んだ顔と相まってとても扇情的に思えてしまった。

 俺も喉を鳴らしてしまいそうになるのを必死で抑える。


「ん、アリオンありがと」


 へにゃりと笑うローリーに心臓が跳ねる。思わず目を逸らした。


「あー、別にいいよ。飲めっつったのは俺だし」


 首を掻きながら答えると、少しだけ不満そうな声が返ってくる。


「でももうのんじゃだめって」


 俺は水のことを言ったつもりだったが、お酒の話に戻っている。話が飛び方が完全に酔っ払いだ。


「そりゃ、お酒はな。もうだいぶ飲んだろ?これ以上は流石にだめだからな」


 苦笑いしながら返すと、ローリーも仕方なさそうに頷く。


「むー、わかったわよう」


 カウンターに突っ伏した、その少し悲し気な横顔に思わず手を伸ばす。さっきのことを思い出して俺が頭を優しく撫でると、ローリーはさっきと同じように気持ちよさそうに目を細めた。さらりと流れる亜麻色の髪を整えるように、ゆっくりローリーの頭を撫でる。


「話ならいくらでも聞いてやるから」


 目を細めたローリーをじっと見つめながら言う。ローリーは俺の言葉に一度目を瞑ると、ふるふると首を振った。


「……いくらアリオンでもいえないもん」


 ローリーが首を振ったことで一度離れた手を、もう一度ローリーの頭に置くとまた受け入れるように目を細めた。


「……そうか。なら聞かねーから。でも一人で落ち込むなよ」


 頭を撫でながら、ズルズルとカウンターに体重を預けていくローリーに頼む。落ち込んだローリーを一人にしておきたくない。

 ローリーはそんな俺の服の端っこを掴んだ。


「……アリオンのこと、しんじてないわけじゃないのよ。アリオンのことはちゃんとしんじてるの。ただ……くちにだしたくないだけなの」


 情けない顔でもしていたのだろうか。

 俺を気遣うローリーを、とても愛しいと思う。零れた笑みを抑えないまま返す。


「ん、そうか。わかった。ありがとな」


 ローリーの温かさと髪の柔らかさを感じながら、ローリーの頭を撫で続ける。


「ふふ。うん、そうなの……そう……」


 俺の返事に安心したように笑ったが、なんだか語尾が怪しい。思わず撫でていた手を止めた。


「ローリー?お前寝るなよ?」


 すでにうとうとと目を閉じたり開けたりしているローリーに注意するが、これはダメそうな雰囲気だ。


「ねない……わ……」


 そう呟いたと思ったらすーすーと寝息を立て始めた。


「……寝たな」


 やばい、潰してしまった。そう思うが、一緒に怒られてやると言った以上は仕方ない。それに今日はローリーの気が済むまで飲ましてやりたかった。最後は流石に止めてしまったが。

 以前潰した時のリックさんに説教された光景を思い出しながら苦笑した。


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