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自分の気持ち


「あ、そうだアリオン。今度の休日の日って仕事?」


 カクテルを飲みながら、気になっていたことを聞く。するとアリオンは思い出すように上を見上げる。


「ん?あー……ちょうど合同演習の日、だな……」


 残念そうに言うアリオンに、合同演習は大変なのだろうかと考える。そして昼間のことを思い出しながら聞く。


「そっかぁ。……ねえ、もしかしてスカーレットも今同じ部隊?」


 何かしらの行事が入っているのであれば、昼間アリオンと一緒の休憩だったスカーレットも来れないかもしれないと考えた。


「ああ、そうだ。……もしかしてみんなで遊ぼうって話だったか?」


 アリオンが思い当たったように聞いてくる。少し眉を寄せている。


「ええ、今度の休日に皆で遊べたらって。そっか、アリオンとスカーレットは来れないのね」


 呟いて、カクテルを飲む。


 二人が来てくれたらいいと考えていただけに少し沈んだ気分になってしまう。


「あー……悪いな。行きてぇけど、流石に合同演習だから無理だ……」


 頭を軽く抑えながら言うアリオンはなんだか私よりも沈んでいるように思う。

 アリオンの事だから、断ったことを気にしているのだろうか。アリオンが気にしないように努めて笑って返す。


「ううん、仕方ないわよ」


「いや、ほんと……悪い」


 それでも眉を寄せて謝るアリオンに苦笑して、思わず心の内を漏らす。


「そんなに謝らなくていいわよ。仕事なんだから。ただ……そうね、あの二人の間に一人いるのはちょっとあてられそうだなーって思っただけよ。ふふ、二人なんだか最近いい雰囲気じゃない?」


 気にしてないように笑って、カクテルを流し込む。このカクテルは度数が高いらしく、喉が熱くなった。一口飲んだ後のカクテルの水面は揺れている。


「ローリー」


 アリオンに名前を呼ばれたので、ふとそちらを振り向く。アリオンは頬杖をつきながら、灰褐色の瞳を私に向けていた。


「うん?」


 その様子がなんだか真剣に見えて、首を傾げる。


「お前、別に行きたくない気分だったらやめていいんだからな」


 アリオンのその言葉にひゅっと喉が鳴った。

 アリオンは気づいているのだろうか。それともさっき弱音を言ってしまったから、それに対しての言葉なのか。それを聞く勇気はなくて、カクテルグラスをきゅっと握る。


「……でも……行くって言ったのに、悪いわ……」


 視線を落とし、彷徨わせながら答える。グラスを傾けた時に鳴る氷の音がアリオンの方からした。


「出かけたくねー気分の時もあんだろ。そん時は用事入ったとか体調悪いとか言っときゃいいんだよ。二人ともドタキャンしたぐらいじゃ怒らねーよ。万一理由が嘘だってバレたとしても、怒るより心配してくる質だろ」


 アリオンは何も気にしていないように軽く言う。


 ああ、そっか。アリオンの気遣いだ。私が弱音を吐いたから。……それに、アリオンは気づいたとしてもきっと私に言ってこない。私から言わない限り、アリオンは踏み込んでこない。


 ――そのアリオンの気遣いに、甘えよう。


「……そう、かも」


 重かった気持ちが、少しだけ浮上する。アリオンの言葉を噛み締めて、心に染みこませていく。


 ――二人揃っている所を、見なくてもいいのかもしれない。


「ま、どっちにしても休み明けに教えてくれよ。お前の話、聞きてーから」


 どっちを選んでも、アリオンは話を聞いてくれるつもりみたいだ。アリオンの優しさはいつも変わらず温かい。私は素直に頷いた。


「うん、わかった」


 顔を上げてアリオンを見ると、優しい眼差しでこちらを見ている。


 どうするか、考えてみよう。ユーヴェンには思わず行くと答えたし、カリナにも行くと言ってしまったけれど。私が気分が乗らないことを心配してくれているアリオンがいてくれるから。


「ん、じゃあ約束な」


 そう言って笑うアリオンに、私も笑い返す。


 だから、アリオンに聞いてみたくなった。


「うん。……ねえ、アリオン……二人、お似合いよね」


 私はどんな答えを望んでいるのだろう。アリオンは飲みながら眉をひそめて答える。


「……そうか?」


 疑問形の言葉に、私は更に言葉を重ねた。


 ――ああ、そうか。


「そうよ。二人とも似た者同士で、お似合いだわ」


 この前遊んだ時の光景と、今日の光景を思い浮かべる。そう、とてもお似合いだった。


 ――誰からみても敵わないと、思いたいんだ。


「……そうか」


 アリオンの肯定の言葉に、諦めと痛みと安心感が、心の中を巡る。


「うん、そうよ」


 頷いて、自分の心に言い聞かす。


 ――私が、私の気持ちを諦めるために。


 ユーヴェンとカリナの、ために。


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