忠犬?
「ローリー!!」
声を掛けようと思ったら向こうから弾んだ声で手を振りながらアピールしてくる。
金の髪を嬉しそうに跳ねさせながらこちらに来るユーヴェンの様子はまるで犬のようだ。いつもはこんな事はないので面を食らっていると、アリオンと目が合った。
あいつお前の忠犬か?とでも言いたげな胡乱な目に私はぶんぶんと鳴るくらいに首を振った。
必死に否定しながら何故か考える。
もしかして紹介するって言ったから?でもまだ紹介するかどうかの返事もしてないのに?
そう考えながら首を振っていると、ユーヴェンが私達のベンチまで来た。
思いっきり走ってきたのか、少し息が乱れている。その様子がまさしく犬のようで……。
「ローリー……お前いつユーヴェンを躾けたんだよ……」
「さっき思いっきり否定の為に首を振ってたのに、それを無視して引くのはひどくない!?私だって躾けた覚えなんてないわよ!?」
ドン引きした様子で少し距離を開けたアリオンについ大きめの声で言い返す。中庭にいた人達がこちらを見た。
しまった、そう思い口を手で覆う。内容までは聞こえてないと信じたい。アリオンは何が面白かったのか腹を抱えて笑っている。いや、何が面白かったのかはわかっているけど。
そもそもユーヴェンのせいよ!そう思いながらユーヴェンを睨む。
ユーヴェンはきょとんとした顔で首を傾げた。
いい年した体格もいい男がそんな事しても可愛くないわよ!そう思いながらも毒気が抜かれて怒る気も失せた。
大きく溜息をついた後、ユーヴェンにおやつを差し出す。アリオンと二人で食べていたのでだいぶ減っていた。
「ありがと、ローリー」
ユーヴェンはそう言いながらおやつを摘む。なんだかこうして見ると本当に……。
「犬に餌付けしてるみたいだな」
アリオンが笑いを噛み殺しながら私が思った事をそのまま言う。
「あんたにも同じ事してるんだから、餌付けね。美味しかったかしら、アリオン?」
にっこりと笑ってお菓子をアリオンに差し出す。今日のおやつは節約の為に自分で作ってきたクッキーだ。
昔からアリオンはクッキーが大好きだ。クッキーの時はいつもより多めに食べるから分かりやすい。
自分の不利を悟ったのだろう、悔しそうな顔をした後手を上げた。そしてクッキーを取る。
「俺の負け。美味いよ、ローリー」
勝った!そう思って満面の笑顔を浮かべる。
……あれ?これは一体何の勝負をしてたのかしら?
「何の勝負してたんだ?」
そもそもの原因となったユーヴェンが不思議そうに聞いてくる。
そうだ、なんでユーヴェンがまるで犬……じゃなくてあんなに嬉しそうに来たのか、だ。
まさか紹介が決まったと思ってきたのかしら……それはなんだか……。……実際に決まっているのだから、別にいい、と思うんだけど、なんだろう。
「なんでもねー。それよりなんでお前はそんなにいぬ……いや、嬉しそうなんだ?」
少し思考を巡らせている間にアリオンが聞いてくれる。しかし本音がそのまま出ているので、思わず笑ってしまう。
「犬?居たのか?」
自分の事だとは思わなかったのだろう、キョロキョロと辺りを見回している。
「本当に紹介しても大丈夫なのかしら……」
その様子に不安を覚えた私はポツリと呟いた。