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初めてのお店


 黒が基調の落ち着いたこじんまりとした店内。カウンターの中にいる老年のこの店のマスターだろう人は清潔感のある落ち着いたシャツ姿で眼鏡をかけている。にっこり笑っていらっしゃいませと言ったマスターはとても優しげな雰囲気だ。

 ペコリと頭を下げながら長細い店の中を進んでいく。


「へぇー、落ち着いてる感じのお店ね」


 アリオンに連れてきてもらった中央公園の近くのひっそりとした場所にあったお店。今まで来たことがないお店なので思わずキョロキョロと見てしまう。お客さんも今は一組しか見当たらない。


「だろ?最近見つけてな。時々来てるんだ。料理もうまいんだぜ」


 アリオンが得意気な顔で言う。いい店を見つけられて嬉しそうだ。


「ふふ、それは楽しみね」


「カウンターでいいか?」


「ええ」


 そう返すとアリオンがカウンターの中にいるマスターに声をかけた。


「マスター、奥のカウンター空いてます?」


「ええ、空いていますよ。ブライトさん、今日はお連れ様がいらっしゃるんですね」


 そう言ったマスターは柔和な微笑みを浮かべている。


「はい、ここいい店だからこいつにも教えたくなりまして」


 くしゃっと笑いながら言うアリオンは楽しげだ。その顔でアリオンが心を開いているのが伺える。


「そうですか。ありがとうございます」


「いえ、いつもマスターがよくしてくれるからですよ」


「そう言って頂けるのは幸いです」


 嬉しそうに笑うマスターもアリオンの事をよく思っていそうだ。


「仲が良いのね」


 一番奥の席をアリオンが勧めてくるのでそこに座ってから言うと、私の隣の席に座りながらアリオンは楽しそうに笑った。


「マスターすげえんだよ。1回来ただけでも顔覚えてるし話した内容も覚えてんだ」


「へぇー!すごい!」


 思わず感嘆の声をあげると、マスターに柔らかい微笑みを向けられる。


「ふふ、記憶力はいい方でして。ブライトさんのお連れ様は何というお名前なんですか?」


「あ、ローリー・ガールドです!」


 ぺこりと頭を下げながら挨拶する。すると優しい微笑みのまま頷かれた。


「これはご丁寧にありがとうごさいます、ガールドさん。私はこの店の店主のフュルド・リューズと申します。皆様からはマスターと呼ばれておりますので、どうかそうお呼びください。良ければこちら、初めて来て頂いた記念にどうぞ。白身魚のムースです」


 いつの間に用意していたのか、可愛らしいパフェグラスに白いムースが半球状に盛り付けられている料理が目の前に置かれた。上にはジュレのようなものとハーブがのっていて彩りもよく、とても美味しそうだ。


「わ!美味しそう!」


 思ったことを漏らすとマスターは嬉しそうに微笑んだ。


「いいんですか、マスター」


 アリオンもマスターに驚いたように聞いている。するとマスターはお茶目にウインクする。


「ええ。ガールドさんのような可愛らしい方にはまた来てほしいですからね」


 その言葉に思わず笑ってしまう。アリオンは苦笑いだ。


「ふふ、お上手ですね。素敵な老紳士のマスターにそんな風に言われると、また来なきゃなあって思っちゃいますよ」


「ええ、ぜひ来てくださいね」


「はい」


 そう答えるとアリオンが困ったように口を出してくる。


「気に入ったようなら良かったけど、一人では来るなよ。帰り道とか危ねえから」


 アリオンの水を差す言葉にむっとした顔で返す。


「もー、アリオンってば心配性なんだから」


 さっき絡まれたから心配するのだろうが、そう何度も絡まれないはずだ。……まあ、流石に一人では来ないとは思う。たぶん。


「そうですねぇ。この店の中での安全は私が保証しますが、帰り道までは私も仕事があるので送れませんからね……」


 マスターからのアリオンの援護射撃にやっぱり夜道は危ないかと考える。


「ほら」


 アリオンが意外と心配そうに私を見てくるので、ちゃんと頷く。私だって危ないことはしたくないし、心配もかけたくない。


「仕方ないわねぇ。わかったわよ、一人じゃ来ない」


 素直に頷けないのは、アリオンだったらわかってくれるだろう。

 アリオンは私の言葉に安心したように笑った。


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