癖
私が笑っているのを横目で見ているアリオンはなんだか優しい表情だ。
――そんなに心配をかけたかしら?
不思議に思いながら、本当に送っていいのか聞いてみる。
「……急に飛ばしたらアリオンだって困らない?」
そんなことがないのが一番だが、助けを求めてもいいという言葉は、なんだかとても心強い。
「困らねーよ。お前が助けてほしいなら、いつだって行く」
迷いなく言い切ったアリオンに、いくらアリオンが私に過保護だからといっても照れてしまう。だからつい思ったことが口から飛び出す。
「……アリオンって、そんなだから私の事好きとか思われちゃうのよ」
「な!?おっ、すっ……ごほっ!」
アリオンが驚いたように大きな声を出し、その上むせる。その様子に私もびっくりする。
「え!急にどしたの?」
「いや、ちょっ……むせた……」
咳をしながら息を整えているアリオンが落ち着くように、背中を擦るといきなりで驚いたのか一瞬動きが止まる。だが咳がまだ止まっていなかったので、咳と一緒に動き出した。
「もー、気をつけなさいよ」
「わ、悪い……」
暫く擦っていると、深呼吸をするようにしてアリオンは咳を落ち着けていく。
「もう大丈夫だ。ありがとな。……なんか今日はこんなことばっかだな」
申し訳なさそうに笑ったアリオンに私はアリオンの背中から手を離すと笑って返す。
「ふふ、そうね。でも今日はアリオン助けてくれたし、それにこれからも助けてくれるんでしょ?」
アリオンが助けてくれると言ってくれた事が嬉しくて、何度も聞いてしまう。
「ああ、助けるよ」
そう言葉にするアリオンはとても頼もしい。
「ふふ、よろしくね」
私の言葉にアリオンは微笑んだ。
そういえばアリオンがむせたのはこんなところで長々と話してしまったせいだろうか。そろそろお店に行かないと。
そう思っていると、アリオンが言いにくそうに口を開いた。
「あのな、ローリーは、あー……俺に……その、俺が、お前の事……す、……想ってる、とか思われてるの……どうなんだよ?」
「うん?」
アリオンの妙に歯切れの悪い聞き方に首を傾げる。
「あー……いや、ほら……俺に、想われてる、とか……色んな人から思われて、嫌……とかねぇのかなって」
その言葉に目をぱちくりさせる。
「なんか言いにくそうにしてると思ったら、そんなこと気にしてたの?」
思わず溜め息を吐きながら言う。この前は私とアリオンが付き合ってる噂を気にしていたと思ったら、アリオンが私を好きという噂まで気にし始めたのか。
全くもって過保護だ。まるでお兄ちゃんみたいだと思ってしまう。私の兄も過保護気味だからどうしても重なる。アリオンも妹がいるから過保護気味になるのだろうかと考えた。
「そんなこと……ってなぁ……」
苦い表情で言うアリオンに、にっと笑って返す。
「そんなことよ。嫌な訳ないでしょ?アリオンはいい男だもの」
こんなに優しくて頼りになる男に想われているとの噂は光栄でしかないだろう。むしろなぜ噂相手が私なのか不思議な程だ。まあ、仲が良いからなのだけれど。
「……っ!あー……そうか。ん、ならいい」
目を逸らしてそう言ったアリオンは、恥ずかしそうに首を掻いている。恥ずかしい時のアリオンの癖だ。
「ふふ、アリオンは心配しすぎよ」
その仕草を楽しく思いながら、指摘せずに笑った。