失言
「ふふ、目聡いのよ」
そう言って笑うと、アリオンも楽しそうに笑う。
「ハンカチありがとな。でもお前に昼間借りたのがあるからいいよ。また洗って返す。しかし、こんなことなら王城で待っていてもらえばよかったな」
アリオンはそう言って昼間私が差し出したハンカチを取り出した。気にせずまた借りてもいいのだけれど、なんだかアリオンらしいと思う。
「ああ……。でも王城も変わらないかもしれないわよ?今日カリナが絡まれてたし」
気持ちが緩み、昼間の事を思い出しながら言った。あの出来事も少し胸は痛むが普通に言える。
その事に安堵した。
「は?そうなのか?」
驚いたように目を丸くしながら聞いてくるアリオン。
「ええ。確か……見習い騎士のべ、ベネ……フィッシャー?って人とカ……カール・バース?だったかしら?」
あの時ユーヴェンが言っていた名前を思い出しながら告げる。……正直合ってる気はしない。
だが、アリオンは合点がいったように声を上げる。
「ベネディト・フィッチャーとカーネル・バースか!」
「そう、その名前よ!アリオンも知ってるのね?」
うろ覚えだった名前がアリオンの言葉で思い出される。アリオンも知っているということは有名なのだろうか?
悪い方に有名だとしか思えない。あの子息達ではご家族も苦労されているだろうことがありありと想像できる。
「そりゃな。一応は同じ見習い騎士だし、それにあの貴族の子息達はサボリ魔で有名なんだよ。第三師団のフィリップ・フィッチャー副師団長も弟に手を焼かされて爆発寸前だとかの噂もあるし……。あー……今日変に訓練が中断されたのもしかしてあいつらのせいか……」
色々と出来事が繋がっていったのだろう、アリオンが納得したように頷く。
「そうなの?」
首を傾げて聞くと、アリオンは目を伏せてこくりと頷いた。
「ローリーに会った時、妙な時間に長い休憩言い渡されてたんだよ。メーベルさんは平気だったのか?」
こちらに目を向けて聞いてくる。ちゃんと助かった事を言ってなかったと慌てて頷く。
「ええ、大丈夫。ユーヴェンが現れてね、ちゃんと助けてたわ。それでユーヴェンが二人の名前を言い当てて撃退したのよ。ユーヴェンが名前を知ってたのも有名だったからなのかしら?」
不思議に思っていた事を聞いてみる。
「それもあるかも知れねぇけど、騎士団事務はなるべく騎士の顔を覚えておくように言われてるらしいからな。不正防止の為らしいが、何百人もいるのに大変な話だよ」
そういえば魔導具部署でも王宮魔道具師の顔と名前は覚えておくように言われている。だが、王宮魔導具師として勤める事ができるのは魔導具師としての能力が極めて高い人だけだ。その為二十数人しかいない。だから覚えるのはそこまで苦ではなかった。
貴族から平民まで様々な所から大規模に募集をしている騎士団とは規模が違う。まさか同じように顔を覚えているとは思わなかった。
「うわぁ、大変ね。……でもユーヴェン、相手の家のことまでペラペラ喋ってたわよ。バース卿に関しては別部署所属だったのに……」
そら恐ろしいがまさかそんな事まで騎士団事務員は覚えないといけないのだろうか。
「それはユーヴェンの趣味だな……って、その言い方お前もその場にいたのか?大丈夫だったのか?」
「あ」
アリオンの質問にしまった、と思った。
「ん?」
「えー……と」
さっきの話し方はその場に居たと白状したも同然だ。少し気持ちが緩み過ぎてしまった。
ちらりとアリオンを見るが、心配そうに眉を寄せている。
うん、心配させるのも悪いし全部白状してしまおう。アリオンなら黙っておいてくれるだろう。
「あのね、実は……」
そう言って話し始めた。




