面倒事
夕日が噴水の水を照らして眩しく光っている。少し肌寒くなってきた気候に気づいてあとどれくらいでアリオンは来るだろうかと噴水広場のベンチに座って考えながら、お昼の事を思い出す。
今日の昼休み時間内ではカリナは緊急用伝達魔法を成功させる事ができなかった。でもだいぶコツは掴めたようで、あと少しのように思える。私はちゃんと2回目は成功させたが、やっぱり時々は組み上げていないと感覚を忘れてしまう。本当にいい機会だったと思う。
今日はとても疲れた日だった。どん底まで落ち込んで、救い上げられた。今こうして普通に落ち着いていることが奇跡のようにも思える。
気づいてしまった気持ちはもう戻せないけれど。私はどうしたいのだろう。
ユーヴェンとカリナが惹かれあっているのなら……私は、どうしたらいいのだろう。
胸がぎゅっと苦しくなる。正解なんて分かりきっているのに、まだ割り切れない。
噴水を眺めながらそんなことを考えていたから、接近する人影に気づかなかった。
「ねえ、お姉さん。一人なら俺達と遊ばない?」
見るからにチャラそうな暗い茶髪と明るい緑の髪の男二人がすぐ目の前まで来ていた。
――今日はこんな光景をよく目にする日ね……。
実際2回目なのだが、1日に2回ともなれば多いだろう。現実逃避するようにそんな事を思う。
しかしやってしまった。いつもはこういった輩がいればその場から離れているのに、今回は気づかなかった。
思わず溜め息を吐く。
「えー、溜め息なんて吐かないでよ。きっと俺達と遊ぶの楽しいよ」
ニコニコと胡散臭い笑顔を浮かべるチャラ男達。こんな奴らと遊んだって価値観が違うから絶対楽しくはならないだろう。どうやってかわすか考えながら、まずは穏便にと断りの言葉を口にする。
「ごめんなさい。友人と待ち合わせだから一人じゃないの。だから遊ばないわ」
「お姉さんのお友達も来るの?ならお友達も一緒でいいよ!」
そう言われてしまうか。最初から男だと言えばよかった。
「あら、そうなの。じゃあ彼にもあなた達のこと言わないとね」
呼び方で男だと匂わせると露骨に嫌な顔をする男達。
「えー、男なの、友達。男はいいよ。お姉さんだけ一緒に遊ぼう。さっきからずっといるよね?待ちぼうけくらわせる男なんてほっとこうよ」
見られていたとは……なんだか気が悪い。それに好きで待っているのに酷い言い草だ。大体アリオンは騎士の仕事を真面目にやっているから遅いのだ。こんな奴らに文句を言われる筋合いはない。
むっとしながら冷たく返事をする。
「行かないわ」
「そんなこと言わずにさー」
めげないチャラ男達だ。面倒だから……走って逃げようか。そうだ、カリナが言っていたように走って逃げよう。
そう思って立ち上がろうとすると、何を勘違いしたのか近づいてくる。
「あ、わかってくれた?じゃあ遊びに行こうよ」
二人で進行方向を妨げるように立たれてしまった。しまった、と思う。手を取ろうとしてきたので振り払った。
目つきを鋭くしてはっきりと告げる。
「行きません」
「はは、強情だなー」
周りの人が心配そうに見ている。こんな所で事を荒立てないようにと思っていたが、無理そうだ。周りの人に助けを求めてしまおう。大きく声をあげようと思ったその時。
「何してる?」
怒気を孕んだ聞きなれている声と共に、私の目の前に見慣れた橙色に近い茶髪と大きな背中が現れた。
「俺の連れなんだけど。何の用だよ?」
アリオンの鍛えられたしっかりとしている背中に、とてもほっとした。
同時に、カリナも助けられた時はこうやって安堵したんだろうかと考えて、すぐに助けられなくて申し訳なくて、ユーヴェンが助けてくれてよかったと、そう思った。
そして私の時はアリオンが助けてくれるのか。優しくて頼りになる友人だと改めて思って、笑みが零れた。




