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好きな人を友人に紹介しました  作者: 天満月 六花


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練習と気持ち


「よし……」


 ようやく術式を描き終える。うまくいっているように思う。ここから術式を纏め上げて魔法を完成させればいい。飛ぶように指示を出さなければその場に留まるので、そのまま魔法を解除するのが緊急用伝達魔法の練習の仕方だ。


 自分の名前をとりあえず書いておく。文章も長く送れるらしいが、何も書いてなくても位置座標を知らせてくれるので問題ないらしい。その場合はその位置座標に騎士が派遣されると聞いている。


 術式で文字を包むようにしていく。術式が複雑な分大きい為、魔力が零れないように慎重に包んでいく。あと少しで球体になる、そうしたら後は魔法として発動するだけ……そう考えて少し気を抜いてしまった。

 自分の中でパチンと弾けた感覚がした。


「あっ……」


 失敗してしまった。気を抜いたからだ。カリナに情けない顔をしながら向き直る。


「私も失敗しちゃったわ」


 そう言って苦く笑う。


「でもやっぱり、ローリーは私よりも組み上げる速度も速いし、かなり術式纏めてなかった?私は術式を纏めようとする時に失敗しちゃうし」


 カリナが苦笑交じりに言うので、私は頬を掻きながら答えた。


「まあ……ちょっと最後に気を抜いちゃったのよね」


 肩を竦めて舌を出すと、カリナが目をぱちくりとさせてから笑う。


「ふふ、やっぱり出来上がりかけてたんだね。でもこれ見るのも難しいね。手の動きで判断するの大変」


 腕を組みながら難しい顔をしているカリナに私も同意する。


「私もカリナの見てる時に思ったわ」


 カリナはうんうんと頷いてから、ふと気づいたように言う。


「でもローリーの纏め方は綺麗に端を揃えてるように見えたんだよね。そこなのかな?」


 カリナが首を傾げて聞いてくるので、さっきしたことを思い出しながら答えた。やはりカリナはよく見ている。


「そうなのかしら?確かに端を揃えるようにはしてるわね」


「そっか、じゃあ次はそこを気をつけてみようかな」


 私の答えに頷いて返すカリナ。どうにか結論は出たので、次に生かせそうだ。


「そうね、そうしてみましょ」


「うん、ありがと、ローリー」


 カリナが嬉しそうに笑ってお礼を言うので、私も笑って返した。


「どういたしまして。でも私も練習しなきゃダメね。緊急用伝達魔法なのに、緊急時に使えない組み上げ速度だわ……失敗しちゃうし」


 反省を込めながらそう言うと、カリナがぎょっとする。


「え!ローリーで遅かったら私もっと遅いよ?」


「でもいざという時に使えなかったらダメでしょ?」


「そうだけどー……そんなに速くできるかなあ」


 私の言葉に眉を下げながら不安そうにカリナが言う。それに対して笑顔を浮かべながら励ました。


「ふふ、頑張りましょ、カリナ。私も一緒に練習するわ」


 私の言葉に、観念したように頷いた。


「うん、わかった。一緒に頑張ろ」


 とは言え私だけでは心許ない気もするので、今日の予定を思い出して言っておく。


「今日アリオンと飲むから、コツでも聞いておくわ」


「そうなんだね!楽しんできて。ユーヴェンさんも一緒に行くの?」


 その言葉に少しドキッとしてしまう。

 きっと私達が三人で仲が良いから聞いただけなのに。


 気持ちを持ち直すように笑って返事をする。


「ありがと、カリナ。ユーヴェンは残業らしいわ。ユーヴェンも得意だから聞くのもいいんでしょうけど……なんだかこの前のスカーレットとアリオンの話を聞くと不安なのよね」


 伝達魔法の練習をしていた事を思い出しながら言う。

 少しユーヴェンに聞かない言い訳をしているみたいだ。


 会いたい気持ちもあるのに、それでもこの感情に振り回されないか怖い。


「あ、そういえば言ってたね。感覚的な説明だったって」


 思い出したのか、おかしそうに笑うカリナ。


 その笑顔が可愛くて、胸がざわついてしまった。やっぱり落ち着いたとはいえ、この感情はなくならない。


「ユーヴェンには教える事が多かったから知らなかったわ」


 それでも笑っていつも通りを装う。

 カリナの前で、私も笑っていたいから。


「ふふ、ローリーは教えるのうまいもんね。でも不思議だなあ。私を助けてくれた時は理路整然と話して相手を言い負かしちゃったのに」


「火事場の馬鹿力ってやつかしら?」


 不思議そうに言うカリナに軽口を叩く。


「ローリー、ユーヴェンさんに厳しいね」


 くすくすと笑いながら言うカリナに、私は聞いてみたくなった。


「……ねえ、カリナ」


「どうしたの、ローリー?」


「カリナはユーヴェンの事、どう思ってるの?」


 その言葉に目を瞬くカリナ。


 私は聞いて、どうするつもりなのだろう。


「紹介者としては、気になるじゃない?」


 思わず言い訳のような事を言ってしまう。


 カリナがどう答えるか気になって、心臓の鼓動が激しくなっていく。


「ああ、そっか……。んーとね、ユーヴェンさんはすごくいい人だと思うよ」


 カリナは私の言葉に納得したあと、笑って言う。


「うん」


「色んな話をしてくれるし、なんだか面白いところもあるし、優しいし」


 相槌を打つと、カリナはこれまでの事を思い出すように目を細めながら続ける。


「そうね」


「それに、そうだな。やっぱりさっき助けてくれた時は、かっこよかったよ」


 優しく、そしてとても可愛く笑うカリナ。


 その様子は、なんだか眩しくて目を閉じる。


「そう」


 優しく聞こえるように相槌を打って、目を開ける。


「うん。あ、ローリーが、いつも助けてくれる時もかっこいいからね!」


 カリナが慌てたように付け足す。


「ふふ、ありがとう」


「うん!」


 言ってくれたことは嬉しくて感謝の言葉を言うと、カリナは満面の笑顔で頷いた。


 そして、先程のカリナを思い浮かべる。心臓の鼓動は激しいままだ。


 ――きっとカリナも、ユーヴェンに惹かれ始めてる。


 また魔法の練習を始めるカリナを見ながら、痛んだ心をどうするか、迷っていた。


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