魔法の練習
カリナが宙で指を動かして術式を描いているようだ。だが、途中で指が止まる。
恐らく失敗したのだろう。
「また失敗しちゃった……」
カリナが溜め息を吐きながら言う。私はその様子を見ながら首を傾げた。
あれからお昼ごはんを食べ終わり、朝から約束していた緊急伝達魔法の練習をしている。
カリナと話した事でなんだか落ち着くことができた。悩みは悩みのままだが、自分の気持ちが分かったら少しすっきりした気さえする。
憂鬱だと思っていた魔法の練習も、マイナスな感情はなかったかのようにいつも通りに行えた。
――カリナのお陰だわ。
そう思いながらも、そのカリナの為に先程の術式について考える。
緊急用伝達魔法は隠蔽用に透明化の術式が仕込まれているので、魔力を見えないように書くのが推奨されている。普段術式を描く時は自分や他人にも分かりやすいように魔力を光らせるのが一般的でありマナーでもあるので、これがなかなか難しい。
魔法を見る役を買って出たのはいいが、こちらも手の動きだけで判断しないといけないので、私も頭を悩ませていた。
「うーん、術式自体は組めているように思うのだけれど……。もしかしたら纏め上げ方があまり良くなくて、少し魔力が漏れているのかもしれないわね」
「纏め上げ方かぁ……」
カリナは少し難しい顔をしながら考えている。私もどう直したらいいかを考えてみる。
「うーん、一度私が組み上げてみるわね。……実を言うと私も自信ないんだけど」
苦笑しながら言う。思えば私も学園を卒業してから緊急用伝達魔法は組み上げていない。使わないのはいいことなのだが、いざという時に使えなくては意味がない。
今回は思い出すのにちょうどいい機会だ。
「そうなんだ。でも使わなかった、ってことはいいことだよね」
安心するように言ったカリナに、私も笑う。
「ええ。ありがとう、カリナ」
そう返事をしてから、魔力を指先に込め、魔力を光らせないように注意しながら術式を描いていく。
緊急用伝達魔法は騎士団の位置座標、伝達魔法を隠蔽するための透明化、更に自分の位置座標を伝える術式などが組み込まれた複合術式になっている。複合術式は別々の効果を持った術式を繋げている、難度が高く複雑な術式だ。だけどその分、一つの魔法で様々な事ができるようになっている。
私は普段は小鳥サイズで距離も短く文章も長く書けない伝達魔法しか作れない。
だが緊急用伝達魔法は個人の魔力量に作用されず、誰でも鷹サイズで尾が長い、緊急用伝達魔法専用の伝達魔法が作れるようになっている。尾が長いのはすぐに緊急用伝達魔法だと分かるようにとの事らしい。まず王城には保護結界が張ってあるので普通の伝達魔法は入れないのだが、念には念を入れてということだろう。
王城は保護結界内といっても広く、迷惑をかけない場所であればこうやって魔法の練習も可能だ。




