学園時代
アリオンは少し不貞腐れたように目を逸らしながら、うるさい、と言って頭を掻いた。照れているその仕草にくすくすと笑ってしまう。
同時にまだ気にしているのかな、と思って学園時代に思いを馳せる。
12歳から18歳までの6年間行く学園は国民全員に入学が義務付けられている。貴族と平民では幼い頃からの教育に差がでるので学園は平民が行く学科と貴族が行く学科と分けられているが、同じ学園内なので多少の交流はあった。
そして学科の中でも成績によるクラス分けによってレベルが違ってくる。平民の中には幼年学校に行っている者がいるので学園入学前に行われる実力テストで基礎学力を測り、その結果によってクラス分けがされるのだ。そこで私やユーヴェン、アリオンは同じクラスになった。
王都は広大で生徒数もかなり多くなるので王都の中でも区画が別れており、カリナやスカーレットと私達は違う学園だった。
行事も基本的には学科毎に行うが、毎年学園祭だけは貴族の方と合同で行うようになっている。
その時期に合わせて貴族の方との接し方などを学ぶ。皆なんとなくは知っているがここできちんと勉強するのだ。
王宮志望の私には願ってもない授業なのでしっかりとアピールをして学園祭の委員にもなった。
熱意と貴族への接し方がきちんとしていれば委員になるのは結構門戸が広い。平民と貴族との交流の場ともなっているからだろう。その分学園祭は役割も仕事も多く盛大なものになる。
そこで一年次から一緒になったのがユーヴェンだ。彼も王宮志望だったので委員になっていた。しかし一年次からなっているのは珍しいらしく、私達二人しかいなかった。
みんな進路を決めていても学園に慣れた二年次からというのが多いらしい。学園祭は毎年あるので6回もチャンスがあるのだ。それに毎年一年次で委員になるのは少なく、下手すればいない事もあると先輩が言っていた。だから余計に少なくなってしまうのだろう。もし一人になってしまったら、と考えると遠慮もしてしまう。特に学園祭は11月末に開かれるため9月に学園に入学してから3ヶ月もない。しかも準備が始まるのは10月の初めから……入学後1ヶ月というスピードだ。普通は新たな友人達に馴染むだけでも精一杯だ。
私とユーヴェンはチャンスがあるならそれを逃さない性格らしく、結果二人になった。
そういう事で同級生がお互いしかいないとなれば自然と話すことも多くなり、ユーヴェンとは気の置けない仲になった。そこからユーヴェンと仲のよかったアリオンとも仲が良くなったのだが……それで少し問題が起きた。
正直に言うと、ユーヴェンもアリオンもモテた。モテる二人と仲のいい女子。しかも委員で忙しくしていた為にそこまでクラスとは馴染んでいない。
それだけでも十分過ぎた。だがそれ以上に問題にされたのは……特に女子に人気があったアリオンの私に対する態度だ。
アリオンは女性に優しい。どう優しいかと言うと必ずレディファーストだし、物腰柔らかく丁寧に接する。
12歳の平民女子にはとても眩しく映るのだ。だからアリオンは学年で一番モテた。
なのに、だ。そのアリオンは私に対してはユーヴェンと同じ感じで接してくる。むしろレディファーストなどされたこともない。
そうすると『アリオンの特別』だと他の女子からは見えてしまった。ただ単にユーヴェンといっしょくたな扱いだっただけなのに!
まだ12歳の幼い私には女子からハブられることになってもどうしていいか分からなかった。それはアリオンも同じだったろう。
でも一人で過ごすことも嫌だった私はユーヴェンとアリオンと一緒に過ごすことになった。その関係で男友達が多くなり、更に女子から敬遠されてしまったが……。
クラスも学力順だ。数人変わることはあっても大きく変わることはなかった。
しかし数年同じ状態であれば慣れるのか三人の関係はただの友人だと分かったのか、何年も一緒だからかはたまたみんな大人になったからなのかわからないが、最後はクラス単位で仲良くなった。
その私がハブられていたのをアリオンは自分が原因だと思って今でも気にしている節がある。たぶん直接聞かれたんだろう、私にも直接聞かれた事はあったから。それでも誤解は解けなかったけど。
――最終的にはみんな仲良くなったし、気にしてないのにな。
流石にユーヴェンやアリオン程仲良く、とはもちろんいかなかったが。
思い返していると自然と苦笑が漏れた。
私は気にしていないのにアリオンが気にしているのは悪いな、そう思って口を開く。
「カリナもスカーレットもいい友達よ。二人共私がダメな事したら叱ってくれるし」
そう言ってにっと笑う。
アリオンは一瞬目を見開くと同じようににっと笑った。
「もう二人にも叱られてんのか」
「『にも』って何よ!あんたとは叱ったり叱られたりだからおあいこでしょ」
「叱ったことはあるんだから『にも』でいいだろ」
わあわあと言い合いながらおやつを一緒に摘んでいると、遠くに見知った顔を見つけた。




