隠した心
ローリー視点に戻ります。
「ローリー、お昼になったよ」
カリナにそう声をかけられてはっとする。アリオンと別れて魔導具部署の事務室まで戻った後、時間も見ずに仕事に打ち込んでいたらしい。
仕事で疲れたように、一つ息を吐いてからカリナに向き直った。
「ありがとう、カリナ。気づかずに仕事してたわ」
苦笑交じりに言う。
普段通りに振る舞うことなど、簡単だ。心を見ないふりすればいい。
――それに、カリナは何も悪くない。
私が紹介したのだ。それを後悔していても、やり直すことなんてできない。
今日の仕事を乗り切ったら、アリオンと飲む約束をしているのだ。きっとお酒を飲めば少しは気晴らしになるだろう。ユーヴェンを呼ぶと言われた時は焦ったが、残業なら仕方がないし、ほっとした。
……それでも会いたい気持ちも存在するのが、始末に負えない。
「どういたしまして。難しい件でもあったの?」
「いえ、なかったんだけどね……。つい集中しちゃってたみたい」
カリナの問いかけにそう言って笑う。そう、私はいつもこんな感じだ。普段通りにできている。
――だから、私の心臓、静まって。
「じゃあお弁当食べよう、ローリー」
当たり前のように誘ってくるカリナ。当然だ。今日は私から約束している。
「ええ、食べましょ」
そう言ってお弁当を取って立ち上がる。
「今日はどこで食べる?」
「伝達魔法の練習をするなら人があまりいない場所がいいわね」
「んー、じゃあ事務棟の西の庭はどうかな?あそこなら広いし、中庭程人はいないよ」
「うん、いいと思うわ」
「ふふ、楽しみだなぁ。ローリー、よろしくね」
西の庭に向かって歩き出すカリナの後姿を見ながら私も歩き出した。
ぐっと唇を嚙み締めた。
カリナは悪くないはずなのに。
――どうして私は、カリナをちゃんと見れないの。
今はカリナを見ているふりをしているだけだ。笑って目を細めて、視線を誤魔化して。
自分の情けなさに手を強く握り締めた。掌に食い込んだ爪が痛い。
「あ、そういえばローリー」
くるりとこちらを向くカリナ。私はすべてを隠し、笑って答える。
「どうしたの、カリナ」
「さっき移動中にユーヴェンさんとたまたま会ったんだ。それで、今度の休日またみんなで遊ぼうって。ローリーは行ける?」
笑って言うカリナはユーヴェンが言っていた二人きりなど全く意識していないようだった。その事に安堵してしまう。カリナの中ではそういった対象ではないのかもしれない。
少しだけ、心が晴れる。
――自分から紹介したくせに恋を応援できないなんて、最低ね。
晴れた心の中に罪悪感が広がった。
「ええ、行けるわよ」
それでも何事もなかったかのように笑う私には、きっと恋なんて向いてない。
――だから、私が諦めるのが一番いい。
そう、自分に言い聞かす。
「やった!スカーレットとブライトさんはどうかなあ?」
「どうかしら?二人は騎士だからね。私達みたいに決まった休みではないから」
そんな風に言いながらも、本当は私も二人に来て欲しい。ユーヴェンとカリナが一緒にいる所に、私だけ居たくない。
先程の光景を思い出す。眩しかった、二人。
思い出すだけで胸が焼かれたように苦しい。
「そうだよね……。来てくれるといいなあ」
無邪気な笑顔のカリナに、私は精一杯笑い返した。




