―共感する心―
「……なんなの、あんたのそのしつこさは」
キャリーがフューリーを睨みつける。……俺はローリーにあんな顔されたら心が折れそうなんだが、フューリーは好きな人からのあんな視線平気なんだろうか。
ちらりと引っ付いているローリーを見た。俺には目もくれずに二人の様子を興味深そうに見ている。俺の速い心音には気づいている様子はない。
この意識されていない状態はいいのか悪いのか、少し考えたがまだローリーへの想いに気づいただけで精一杯だ。それでも、こんなに近くで見るローリーも綺麗だと、そう思う。
「……気になっちゃ、悪いか」
少し怖気づいたように言うフューリー。先程の勢いがないことから、きっとキャリーの睨みつけは心にきたのだろう。
キャリーもフューリーの様子に勢いが削がれたのか、大きい溜め息を吐いた。
「はあ……。別にブライトのこと誤解してたのが解けたから、避けなくなっただけよ」
あんなに喧嘩腰だったのにちゃんとフューリーの問いに答えているキャリーに、昔馴染みだと言っていた事を思い出す。小さい頃は可愛かったと言っていたように昔は悪い関係ではなかったのだろう。
「誤解って……」
「そこまであんたに言う義理はない」
苛ついたように話を締め切るキャリー。だからといってさっさとその場を去らないキャリーに、昔のように戻りたいという気持ちが見えた気がした。
苛ついた声に怯んだフューリーだが、一つ息を飲んでから口を開いた。
「……ブライトのこと好きとか」
「はあ?」
キャリーが聞いたこともないような低音で聞き返す。
「いや、何でもない……」
その声に危機感を覚えたのか目を逸らしながら誤魔化そうとするフューリー。
フューリーの行動を歯牙にもかけず、キャリーはつかつかと近寄っていく。
キャリーが歩いた勢いそのままに胸ぐらを掴むと、フューリーが硬直した。一瞬の間の後、必死に距離をとろうとしている姿に先程の自分が重なる。
「な、なななな、なんだよ!?」
ついには目を瞑り吃りながら言うフューリーに、キャリーは舌打ちをしたかと思うとフューリーを押すように手を離した。フューリーの顔は真っ赤だ。
俺はその醜態に顔を覆いたくなる。ローリーは、俺の行動をフューリーと同じだと疑問に思ったりしないだろうか。そう不安になるが、ローリーはあの二人をじっと見つめたままだ。その表情からは何も読み取れない。
ほっとしたような残念なような、相反する気持ちが渦巻いた。
キャリーは冷たい目でフューリーを見たまま口を開いた。
「変な勘違いしないでくれる。ブライトを好きなわけないじゃない」
そう言って苛ついたように足音を響かせて去っていったキャリーをじっと見送りながら、フューリーは立ち尽くしていた。
「好きでは、ないか」
静かな中庭にフューリーが嬉しそうに呟いた声が響く。そうしてフューリーも心なしか軽い足取りで走り去っていった。
去ったのを見届けると、居た堪れなくなった俺はローリーから離れるように柱から出る。そして内心で頭を抱えた。
先程のやり取りとフューリーの行動に自分との共通点が多すぎて恥ずかしくなってくる。
――俺、フューリーのこと言えねぇ……。
そう考えながら、ふとローリーを見るとフューリーが去っていった方向を見ていた。
ローリーのその行動に、胸がざわつく。
「ローリー、何かあったか?」
まさかフューリーが気になったなんてことは……あいつも見た目はいいし。さっきのフューリーと同じ思考だと考えて、自分で自分に嫌気が差す。
俺の問いにちらりと視線を向けた後、またフューリーが去っていった方向を見る。
「あ、ううん。なんだろ、なんだか考えちゃって……ああなるのね、好きな人の前って」
ローリーの言葉にギクッとする。さっきの俺の行動を不審に思われただろうか。
誤魔化そうと必死に言葉を絞り出す。
「あー……そんなやつばかりではないと思うけどな?あいつは、まあ分かりやすい、よな」
誤魔化せた気は全くしない。だがローリーはそもそも気にしていなかったのだろう、俺の言葉に頷いて笑った。
「ふふ、そうね。なんか見てて可哀想になったわ」
そう言うローリーは、なんだか遠くを見ている。その目はここにいない誰かを見ているようで。
――嫌だ。
心が、軋む音を立てた。




