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―気づいた想い―


 見覚えのある髪色に、ローリーが上の渡り廊下に居るのだろうかと考える。ローリーの様子も気になっていたので声をかけようと思い、上の廊下が覗ける位置に移る。

 そこでローリーの横顔を見た俺は、言葉を失った。


 ――ローリーが、泣いている。


 心臓が掴まれたように苦しくなる。ローリーが泣いている所なんて見たことがなかった。激しい心臓の音が耳の中でこだまする。

 どうして泣いているのか。泣かないで欲しい。ローリーには笑顔でいて欲しい。


 ――その為なら、なんだってしてやる。


 ローリーの視線は廊下の奥を見ていた。下からではその視線の先を確かめる事はできない。ぐっと歯を食いしばる。

 誰かがいたのだろうか。泣いているのはそいつのせいなのだろうか。何も推し量れない事が悔しい。手に力を込めた。


 ローリーは俺が見ているなんて気づいていない。泣いていることを見られたのは嫌かもしれないと考えると、声をかけることもできなかった。見守りながら、何もできない歯がゆさに唇を噛んだ。


 ローリーは不自然には見えないように気を遣ったような仕草で目元を拭うと、空を見上げた。


 何かを抑えつけるように目を瞑って、そしてゆっくりと碧天のような碧の目を開く。その碧色の瞳に空を映すローリーは、とても綺麗だった。


 俺の心臓がローリーの涙を見た時とは違う鼓動を刻む。


 亜麻色の髪が風に吹かれてふわりと広がり、一瞬ローリーの顔を覆い隠す。風が収まると、もうローリーは空ではなく前を向いていた。

 ローリーの横顔は凛としていて、さっき泣いていた事など微塵も感じさせない。その姿がとても美しくて。


 ――綺麗だ。


 何の抵抗もなく、そう思った。


 ――抱き締めたい。


 ふっと浮かんだ、それまで抱いた事がなかったはずの感情に心の中で狼狽える。

 狼狽えながらも、綺麗なローリーから目は外せない。


 ローリーは凛とした表情のまま、真っ直ぐ前を向いて渡り廊下を歩いて行った。

 後姿までもが綺麗で美しく、俺の胸を焦がす。ローリーの姿が見えなくなるまで見送って、俺はいつの間にか止めていた息を吐く。


 手で口元を覆う。触れた顔が熱い。心臓の音は速く、暫く収まりそうにない。


 この感情は、なんだ。俺は、ローリーの事は綺麗だとずっと思っていたはずだ。でも、さっきの感情は。苦しくなるような、焦がれるような、まるで俺がローリーの事を。


 ――好き、だと。


 頭の中で考えたその単語に、息を飲んだ。


 ――好き?俺が、ローリーを?


 『誤解する人の気持ちがわかった気がする』


 『好きな人への接し方と捉えられても文句言えないわよ』


 この間のメーベルさんとキャリーに言われた言葉が頭を過ぎる。

 ドクドクと心臓がうるさい。


 俺はずっとローリーの事が大切で。それは友人だからだと思っていて。

 ローリーが笑っているのが好きで。それも友人だからだと考えていて。

 ローリーは可愛くて綺麗だって、ずっと思っていて。それは……友人、だったから……。

 ……それで、そんなローリーが


 ――愛しい、と。


 かっと顔に血が集まるのを感じた。俺はずっと、そう思っていたのか。


 なんで、今まで気づかなかったんだ。

 俺は、俺は。


 ――ローリーが、好きだ。


 あの横顔を見た瞬間に沸いた焦がれる感情の答えが、胸の中にストンと落ちた。


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