気づいた想い
――ああ、どうして気づかなかったんだろう。
「いいわ、行く」
そう言ったのは、気づいたから。二人にしたくない、この想いに。
――そしてそのまま気づかずに諦めてしまいたいと思っていた、想いに。
「助かるよ、ローリー!ありがとな!」
屈託のない笑顔で嬉しそうに言うユーヴェン。私は、感謝されるような気持ちで言ったんじゃないのに。
――私は、馬鹿だ。
「はいはい」
ぐちゃぐちゃな心を抑えながら自分の行動を思い返して、必死に『いつも通り』を手繰り寄せる。
――私は
「じゃあ、頼むなローリー!俺仕事戻るわ!またな!」
そう『いつものように』笑って手を振るユーヴェンに、私も『いつものように』笑ってみせながら、手を振り返す。
――ユーヴェンが
「ええ、また」
もう背中を見せているユーヴェンに、『いつものように』届くかわからないぐらいの声で返す。
――好きだ。
どうして、気づいてしまったんだろう。
ユーヴェンの遠ざかっていく背中を見送りながら、今気づいた想いに愕然とする。
ユーヴェンがふと振り返る。その事に心臓が跳ねた。無邪気な笑顔で手を振るユーヴェンに、私もまた小さく振り返す。
わかってる。それはユーヴェンの恋を応援しているはずの私に対する感謝の気持ちだということくらい。わかっている。
なのに笑顔を向けられることが嬉しくて、でもそれはカリナを想っているからなのが悲しくて。
こんな気持ちなのに、うまく笑えているのだろうか。気にはなるが、ここに鏡はない。
なんで、気づかなかったんだろう。
カリナが聞いてきていた。アリオンも聞いてきていた。なのに、それを見ないふりしたのは私だ。
自分の情けなさに、静かに俯いた。
私はどうしようもない程馬鹿で、惨めだ。
気がつけば頬に一筋の涙が流れていた。はっとして、顔を上げて前を見る。そこにはもうユーヴェンの後姿は見当たらなかった。
安堵したと同時に虚しさが胸を焼く。
――私は、この気持ちに気づいてほしくなかった。でも、気づいてほしかった。
矛盾している心が軋む。
ぐっと唇を噛み締めて、声を出さないようにしながら上を向いた。こんなどうしようもない馬鹿な涙を、止めるように。下を向いて更に惨めな気持ちにならないよう、もっと涙を零してしまわないよう。
少し視線を逸らすと、空が見える。
晴れ渡った青空はとても綺麗で、澄んでいる。
私のぐちゃぐちゃな心とかけ離れた空に、少しだけ慰められた気がした。
さっきの二人を思い出す。とてもお似合いで、眩しかった二人。
――私は、この想いを諦めないといけない。
空を見上げながら出した答えが、私の胸の中に重く落ちた。




