表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きな人を友人に紹介しました  作者: 天満月 六花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/358

言えない答え


 二人の声が完全に聞こえなくなってから、私はのろのろと身を起こした。


「仕事、しないと」


 自分に言い聞かせるように呟いて立ち上がる。二人が通った廊下を歩く気にはなれなくて、階段を上った。


 ぐちゃぐちゃだ。わからない。わかりたくない。


 カリナを守りたかった。でも私じゃきっと守れなかった。ずっと守ってきたつもりだったのに、私は声もかけられなかった。それが悔しくて、情けない。


 ――でもユーヴェンならちゃんと守ってくれる。


 頭の中でぐるぐると考えが回っていく。


 ――ユーヴェンはカリナが好きなの?……カリナは?


 だから紹介したはずだ。だからもし、カリナがユーヴェンを好きになっても何の問題もない、はずだ。


 ――今更何を迷っているの?私は、何を思っていたの?


 わからない。わかりたくない。


 ぐるぐると考えても、ずっと頭の中はこんがらがっている。

 違う、仕事をしないと。ぶんぶんと頭を振って考えを振り払う。

 ようやく階段を登って、外廊下に繋がる扉を開ける。綺麗な空が見えた。晴れ渡った青い空が見える。自分のぐちゃぐちゃな心とは正反対だ。

 目を伏せて、先にある渡り廊下へと向かう。


 ふと、走る足音が聞こえてきた。誰かが来る。ちゃんと仕事の顔をしないと。そう思って頬を両手で叩く。大丈夫、普通の顔は作れているはずだ。

 そうして前を向いた時に見えた人物に、動きが止まった。


「あ!ローリー!」


 どうして、と思ってしまう。いや、失念していたが魔導具棟はここからなら近い。二人の声が聞こえなくなるまで待っていたのなら、それだけで魔導具棟はすぐそこだ。そしてカリナを送り届けたユーヴェンはその後走ってきたのだろう。ユーヴェンがこちら方向に用事があるのなら、出会う可能性はあった。


 普通にしなければ。バレないように深呼吸をする。


 ――私はどうして、こんな事をしているの?


 冷静な部分が頭の中で囁いた言葉に、すっと頭が冷えた。


「ユーヴェン、奇遇ね」


 そう笑いかけてみせる。


「ローリーも魔導具棟に用事か?」


「あら、よくわかったわね」


 平然とそう言ってみせる。


 カリナを守ろうとしなかったことも、ユーヴェンに悔しさを感じたことも、二人が楽しくしていて燻るような想いを抱いたことにも、全て蓋をして何もなかったかのように振る舞う自分に、じくじくと胸が痛む。


 ――ああ、本当に私は、ユーヴェンやカリナのようには、なれない。


 浮かんだのは、諦めの感情だろうか。


「あー……さっきカリナさんに偶然会ってさ、魔導具棟まで送ってきたんだ」


 そう笑って言うユーヴェン。さっきの騒動はきっと言わないだろう。


「そうなの。よかったじゃない」


 思っていることと正反対のことを笑って言う。


 ――正反対のこと?そんなの、まるで。


 考えては駄目だと警鐘が鳴っているのに、考えを振り払えない。

 今はユーヴェンに対して普通に接していないといけないのだ。


「へへ、ありがと。ローリーが紹介してくれたお陰だよ」


 へらっと気の抜けたように笑うユーヴェンに、心臓が締め付けられる。


「……別に、ユーヴェンなら紹介しなくても大丈夫だったような気がするけど」


 さっきの場面なんて正にそうだろう。ああして困っている人が居れば、知り合いかどうか関係なく助けるだろうから。そうして知り合えば、きっと紹介しなくてもカリナは心を許した気がする。


 ――それで、きっと……好きになる。


 自分の考えにじわりと嫌悪感が広がった。


「いや、やっぱりローリーいないと駄目だよ。さっきもまたみんなで遊ぼうって言われたし……たぶん二人きりとかは考えられてないと思う」


 その言葉に息をのんだ。心臓が激しく脈打って耳にこだまする。


 ――嫌だ。


「誘ったの?」


 ふっと何の感情も入れずに返した言葉にしまったと思う。だが、ユーヴェンは気にすることもなく言いにくそうに話し出す。


 ――嫌だ。


「あーいや、その、だな。この前楽しかったなって話してて、それでまた遊びたいなって話しててな……今度の休日とかどうかなーって、な?」


 ぎゅうっと心臓が締め付けられるように苦しい。でもそんなことは顔に出せるわけもない。


 ――聞きたくない。


「そんな言い方だったら、カリナも二人きりなんて考えないでしょ」


 こんなことは言いたいわけじゃないのに。でも、ユーヴェンに落ち込んで欲しくなくて。


 ――それは、友達、だから?


「あ、まあ……そうか。へへ。今度の休日、ローリーはどうだ?」


 聞かれて、ぐちゃぐちゃな心が軋む。


 ――行きたくない。


「ああ……どうだったかしら」


 心が悲鳴をあげている。


 ――それは、どうして?


「頼む!一緒に来てくれ!たぶん俺と二人じゃカリナさん来てくれないと思う!」


 ――やめて。私は、私を……


「……私は」


 ぐっと一度言いかけた言葉を飲み込む。言える訳ない。私が、紹介したのに。


 ――カリナじゃなくて、私を見て欲しい、だなんて。


 自分のぐちゃぐちゃな心が出した答えに、驚きではなく諦めの感情が浮かんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ