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好きな人を友人に紹介しました  作者: 天満月 六花


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いつもと違う感情


 朝の空気が寒気を含み始めたのを、頬をなでる風で感じる。

 あの日はあれから伝達魔法を飛ばし終えると、もう夕方になっていたため解散した。恐らく私の様子がおかしかったことはバレていないだろう。短い時間は誤魔化せていた自信がある。

 そう考えていたら渇いた笑いが漏れた。何を誤魔化す必要があったんだろう。そんな必要はないはずなのに。そう、何もないはずだ。


 休みの間ぐるぐると考えてしまっていたことを、振り払うように頭を振った。今日は仕事だ。足がいつもより重く感じるが、こんなことで休んではいられない。そう考えて重い足を進めていった。


 ***


「ローリー、おはよう」


 魔道具部署の事務室へ行くと、カリナは先に来ていた。カリナを見ただけで心臓が締め付けられるような感覚がする。

 そうとは知らないカリナは、私に気づくといつものように笑顔で挨拶をしてくれる。私はいつもと同じようにを心がけて返す。


「おはよう、カリナ。緊急用伝達魔法の練習は進んだ?」


 不審に思われないように、話が続きそうな話題を振る。


 ――違う。そんな事はしなくていいはずなのに。


「あ、うん……。でも少ししか進まなかったよ。緊急用伝達魔法の方が難しいんだね……」


 しょげながら言うカリナを可愛く思う。


 ――だから、こんな事を思わなくていいはずなのに。


「そうなのよ、緊急用伝達魔法は位置の指定と隠蔽用の術式も組み込まれてるからね。難易度が上がってるの」


「そうなんだ。隠蔽用かぁ……色んな緊急事態に備えてってこと?」


 首を傾げて聞くカリナに力が抜けて、思わず笑う。

 笑えてる。だから、大丈夫なはず。


 ――何が、大丈夫なの?


「たぶんそうね。また昼休みにでも練習する?」


 そう言うと、ぱあっと顔を明るくして頷くカリナはとても可愛い。その可愛さを羨ましく思った。


 ふと時計を見ると、始業時間が近い。カリナもそれに気づき、仕事頑張ろうね、と言ってから席へと戻る。

 私はカリナが席へ戻った事に安堵してしまった。それが更に自分の心臓を締め付ける。


 心が軋んでいく音が、この間よりも響いた気がした。


 ***


 魔道具師からの書類を受け取りに行く途中、長い廊下の先に長い黒髪が見えた。あれはカリナだ。カリナも同じような要件だろう。担当する魔道具師が違う為、向かう場所は別かもしれないが。

 そう考えながらだんだんと速度を落とす。いつもなら途中まででも一緒に行こうと言うはずなのに、それができない。

 強く唇を噛み締める。

 無視するようなことをしたい訳じゃないのに。今はなるべく一緒に居たくないと思ってしまう。


 ――それなのに、お昼休みは約束をしてしまったな。


 後悔するような感情を頭を振って追い出す。考えては駄目だ。……今は別の道を行こう。そう思って、階段へ向かおうと向きを変えた。


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