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苦いコーヒー


 二人の様子を見ていられなくてメニューを取る。ふと気づいて、メニューを見たままユーヴェンに話しかけた。


「……ユーヴェン、何か頼む?」


 そうすると、こちらを向くユーヴェンに何故か安心感を覚える。……違う、きっとあの光景が初々しくて見ていられなかっただけだ。

 そう考え付くと、少し気持ちが落ち着いた。


「あ、じゃあアイスコーヒーで頼む」


 その声に笑って頷く。そしてカリナとスカーレットを見る。笑顔を向けていることに違和感はない。だから、違う。


「カリナとスカーレットは何か追加で頼む?私は次はコーヒーとケーキ頼もうと思ってるけど」


 微笑みながら話しかけると、カリナもこちらを向いて考えるように目を伏せてからぱっと顔を上げる。


「えっと……じゃあ、頼もうかな」


「私も何か甘いもの食べたいわね」


 カリナの言葉に頷くようにスカーレットも笑った。そうしてアリオンにも顔を向けて聞く。


「アリオンは?」


「俺は……そうだな、甘いもんとホットコーヒー頼もうかな」


 その言葉に頷いて、皆にメニューが見えるようにする。そして決まったら店員を呼んで頼む。

 うん、大丈夫。みんな不思議そうにしていない。だから私は平常を保てている。だから違う。


 私は何を否定しているのだろう。

 心の隅で沸いた疑問を、先程注文して運ばれた苦いコーヒーと共に流し込む。砂糖を入れないその苦味が全身に広がっていくような感覚がする。慣れない苦さを顔に出さないように飲み込んだ。


「あれ?お前もブラック?」


 アリオンが気づいて聞いてくる。それに私は軽く笑った。


「甘いものもある時は時々飲みたくなるのよねー」


 そう言って頼んだ林檎パイをフォークに刺して食べる。苦みが残っていた口内に煮た林檎の甘さとシナモンの独特な香りが広がった。


「へー、でも珍しいな。あんまり見ねぇかも」


 珍しげに見てくるアリオンに、時々しているように装ってにっと笑ってみせる。


「レアよ、レア」


 へー、と納得したようなアリオンに心の中で安堵した。

 カランと鳴る音と共に、ユーヴェンがアイスコーヒーのグラスを置いた。


「あー、生き返る」


 ほっとした様子で椅子にだらけるユーヴェンに、いつものようにを意識して返す。


「別に走ってこなくても大丈夫だったわよ。あんたいなくても楽しくやってたし」


 少しトゲがあるのはきっと……そうきっと、カリナを盗られた気がしているからだ。


「ゔっ……その言葉は刺さるんだけど、ローリー……」


 ユーヴェンが苦虫を噛み潰したような顔で言う。


「ふふ、ローリーもユーヴェンさんが疲れるだろうから言ってるんだよね」


 微笑みながら言うカリナの言葉に、もう一度苦いコーヒーを流し込んでから答える。


「別にそんなことないわよ」


 苦く笑ってみせる。それで対応に間違いはないはずだ。


「はは、優しいなローリー」


 からっと笑うユーヴェンに歯噛みする。


「あんた本人が言うのはむかつくわ」


 半眼で見ると、いつもの冗談だと思ったのだろう。笑ったまま返してくる。


「え!?酷くない!?」


「酷くないわね」


 いつもの感じだ。さっきの変な気分は無くなっている。やっぱり気のせいだった。

 誰にもバレないように息を吐いて安堵した。


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