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感じた鼓動


 ガラス張りの店内から様子を見ていると、ユーヴェンは店に入る前に少し深呼吸して息を整えているようだ。するとこちらに気づいて微笑んで手を降ってきた。そしてカランと音を立てて入ってくる。

 店員さんと二言三言交わした後、こちらに向かってくる。


「ごめん!遅くなった!」


 開口一番頭を下げて謝るユーヴェン。その様子を見てカリナが慌てたように立ち上がる。


「あ、えっと大丈夫だよ!迷子の子供さんのご両親は見つかったの?」


 心配そうな顔で聞いたカリナに、ユーヴェンは優しく微笑み返した。


「うん、結構親御さんから離れちゃってたみたいで時間はかかったけど見つかったよ」


 そう言ったユーヴェンにほっとしたように顔を緩めるカリナ。スカーレットもほっとした顔をしてから口を開く。


「なら、よかったじゃない。流石にその理由で遅れたからって怒らないわよ。ちゃんと連絡もあったのだし」


「うん、よかったよ」


 カリナとスカーレットが笑いながら言うと、ユーヴェンは嬉しそうに笑った。


「ありがとう。カリナさん、スカーレットさん」


 そう言われて照れたように笑う二人を眺めながら、私はさっき頼んでおいた水を渡す。


「ほら、水。飲んだら?」


「ありがとう、ローリー。アリオンとローリーもごめんな」


 私の声でこちらを向くと改めて謝るユーヴェンにアリオンと顔を見合わせて笑う。


「別にいいよ。慣れてるし、お前のそういう性格もわかってて友達やってんだしな」


「ふふ、そうね」


「ありがとう、俺もお前らが友達でよかったよ」


 真っ直ぐに嬉しそうな笑みで言ってくるユーヴェンに、恥ずかしくなり目を逸らす。こういう所が恥ずかしくなる原因よ……そう思いながらも頬が緩む。

 ユーヴェンは私とカリナが向かい合う間にあった、一つだけテーブルの短辺に面した椅子に座ると水を飲んで息を吐く。走ってきたからか、暑そうにシャツであおぐ。滴る汗が見えたところではっと気づき声をかけようとする。


「あ、ユーヴェンさん。よかったらこのハンカチ使ってないから汗拭くのに使って」


 私が声をかける前にカリナがハンカチを差し出した。汗に気づいたのはカリナが早かったようだ。少しだけ手持ち無沙汰な気分になり、それがなんだかおかしくて苦笑した。


「え、悪いしいいよ」


 カリナの申し出に慌てながら断るユーヴェン。こういった申し出は受け取っておけばいいのに。私だと汗くさいから拭けとハンカチを投げつけるから断る隙も与えないが、カリナはそんなことはしないだろうから仕方ない。


「でも……汗拭かないと風邪ひいちゃうよ?」


 心配そうに言うカリナに、ユーヴェンは眉を下げて困った顔をする。


「いや、でも……」


 あくまでも固持するユーヴェンに溜め息を吐く。そんなに断ってはカリナが可哀想だろう、そう思ってカリナに助言する。


「こういう時は無理矢理拭けばいいのよ、カリナ」


 カリナは大きな翠玉色の目を見開くと、少し考えてから身を乗り出してユーヴェンの額の汗を拭く。その行動に私は驚いたようで、心臓が跳ねた。


「え?えっと……こう?」


 そう私に問いかけながら聞くカリナに、言った癖に驚いたのかと自分で思いながら答える。


「……うん、そう」


 言うとカリナはほっとした顔をする。ユーヴェンは暫く固まって汗を拭かれていると、急に顔を真っ赤に染めた。その様子を見たカリナも自分のした事が恥ずかしくなってきたのか、頬を染めて拭くのをやめる。


「わ、わわわ悪いから!じ、自分で拭くよ!えっと、ハンカチ借りていいかな!?」


「う、うん」


 顔を真っ赤にしたまま吃って言ったユーヴェンにカリナも顔を赤くして小さく頷く。


 その二人の様子に、変な鼓動が鳴ったのを感じる。


「ありがとう……。あの、ちゃんと洗って返すよ」


 ユーヴェンの照れたように言った言葉がなぜだか耳に重く響いた。


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