気遣いと照れ
「伝達魔法って覚えること多いね……」
「理論を聞いてると頭が沸騰しそう……」
私が覚えている限りでルールと理論を話してみたが、二人とも頭を抱えている。
「便利な分大変なのよ。とりあえず話しただけだからあとでちゃんとした本でも買いに行きましょ」
軽く話しておこうと思っただけなのによく聞いてくれたからつい話し過ぎてしまった。少し反省していると、アリオンから感心したような声で言われる。
「よく覚えてるよな、ローリー」
「アリオン、あんたも使ってるんだから覚えてるはずでしょ?」
ジト目でアリオンを見ると、肩を竦められる。
「俺はやっちゃいけないこととかは頭に入ってるけどお前程覚えてねえよ。それに理論まではなんとなくしか頭に入ってねーし」
そう言ってアリオンが苦笑すると、カリナとスカーレットは安心したように笑った。
「そうなんだ、少し安心したかも」
「ローリー程覚えなくっても、まあダメなこと覚えときゃ大丈夫だよ」
カリナにそう返すアリオンに少し悔しくなって小さな声で反論する。
「う……でも基礎があってこそでしょう?教えてるんだからちゃんと言っとかなきゃ」
その小さな声にカリナもスカーレットも優しく笑ってくれる。
「わかってるわよ、ローリー。ありがとね」
「うん、助かってるよ。ありがとう」
「カリナ、スカーレット……ありがとう。でも、アリオンの言う通り、ダメなことを覚えておいてくれたらいいわ」
そう言って笑うと、カリナはふるふると首を振った。
「ううん、ローリーの教えてくれたことだもん。なるべく覚えられるように頑張るね!」
「カリナ……」
「そうね、私も頑張るわ」
「スカーレット……」
二人の優しい言葉に思わず涙ぐむ。そうすると、なんだか横から視線を感じたのでアリオンの方を向く。少し苦笑気味なアリオンに、ふっと笑ってみせる。
「……お前勝ち誇った顔すんなよ、台無しだな」
呆れた顔で言うので睨んで返した。するとカリナがくすくす笑う。
「ふふ、ブライトさんもありがとう。そんなに気負わなくていいって教えてくれたんだよね」
カリナの真っ直ぐな言葉にアリオンは驚いたように目を見開く。
「……どういたしまして」
視線を逸らしながら頬をかいて言うアリオンに、私はニヤッと笑った。
「あれー?アリオン照れてるんじゃなーい?」
「うっせぇ。それよりユーヴェンはいつ来るんだよ」
あからさまに話を逸らされて口を尖らすが、確かにそろそろ来ていてもおかしくないため話にのる。
「そういえば遅いわね」
「何かあったのかな」
カリナの心配そうな声に、優しく笑って返す。
「たぶん大丈夫だとは思うわよ。また何かに巻き込まれたとは言えないのがユーヴェンだけど……」
苦笑交じりに言っていると、アリオンが外を見て笑う。
「なんて噂してたら来たな」
アリオンの見ている方向を見ると、ユーヴェンが走っているのが見える。
「ああ、あの金髪の人かしら?」
「走ってきてるね」
カリナとスカーレットも気づいたらしい。カリナは少し心配そうな声だ。だから安心させるように笑う。
「いつものことよ。すみません、連れがもうすぐ来ますので水をひとつ持ってきておいてもらえますか」
店員さんを呼び止めて水を先にもらっておけるようにしておいた。
走ってきたのならきっと喉が渇いているだろうから。