辿り着いた答え
アリオンの事を思い返していると、ふと疑問が湧いた。
――お兄ちゃん......なんでアリオンに言ったのかしら……?
兄は思っていたよりもアリオンに気を許している。だから気が緩んだ時にポロッと零したのかもしれない。
けれど。
――お兄ちゃんなら……ポロッと零したのならそのまま誤魔化しそうなのだけれど……。多少は言うかもしれないけど、はっきりとは伝えない気がするのよね。
ユリアさんとの約束で守る為の嘘だ。知る人間は減らしたいに違いない。
アリオンも誤魔化されたならそれ以上は聞かないだろうし、誰かに言うこともないだろう。兄はそういったアリオンの性格もわかっていると思う。
――ユリアさんから聞かされたっていう方が説得力あるわ……。
もしかしたらそうなのかもしれない。アリオンは意外と顔に出やすいのでひょんなことから知った兄とユリアさんの関係をユリアさんに勘付かれた可能性はある。
――……でもお兄ちゃんは私に『アリオンくんにも言った』って言ってきたわ。
それは……何を、言ったのだろう。
兄はユリアさんから言ったのであればきちんと私にそう言うはずだ。あの場では名前をぼかしていたけれど、ぼかしたままでも言うことはできる。
――……それに……どうしてアリオンを連れて医務室へ行ったの……?
よく考えればアリオンを利用して医務室に行ったのもおかしい。だってアリオンが居たらただの恋人同士の会話しかできないはずだ。
――そうよ。アリオンが事情を知らなければ普通の会話しかできないじゃない。
なのに何故、連れて行ったのだろう。
――……さっきユーヴェンはユリアさんが『魔力回復薬で回復してた』って言っていたわね。それが規定量内だったって……。
もしも規定量内っていうのが、嘘だったら?
――お兄ちゃん、昔毎日のように魔力が減ってることがあったわ。
過保護な兄は学園に通う私の魔力を気にして毎日私に魔力を渡してくれていたのだ。
けれどある時から兄は、『今日は魔力をたくさん使ったから、ローリーの魔力をいっぱいにするまで渡してあげられないかもしれない』と申し訳なさそうにして魔力を渡すようになった。それなら渡さなくても大丈夫だと言っていたけれど、兄は少しでも魔力を渡すのはやめなかった。
そしてそれは……彼女ができたと報告した四年近く前に言わなくなった。だから兄はきっとその彼女に魔力を渡していたのだと思ったのを覚えている。
その報告の数カ月後、ユリアさんを紹介してくれた。ならば魔力を渡していた相手はユリアさんだ。
――昔から……魔力が減ることがあったユリアさんを知っているから、兄はなんとしてでも医務室に行って魔力を渡そうとしたのかしら……?
けれど何故魔力がそんなに減っていたのだろう。四年前には普通に戻っていたから、ユリアさんはそれ以降はそんなに魔力が減っていないということだ。
――ユリアさんが部署を変わったのは一年前よね……。
以前は騎士団医務室勤務だと聞いていた。だから騎士団医務室で四年以上前に何かがあったのだ。そして……今回の大量の怪我人が出てユリアさんの魔力が減ったのも、騎士団医務室で当直をしていた時。
――でも……お兄ちゃん、四年前以降は魔力減ってるって言ってないのよね……。
どうして四年も間が空いたのだろうか。一年前なら部署を異動したからわかる。
四年前に改善があったのは想像できるけれど、それならどうして今またユリアさんの魔力が減るなんてことが起きたのか。
ふと思い出す。
今年、大きな辞令が出たのは魔導部署だけではない。
確か騎士団も相談役が新しく就任されていた。
そして騎士団の相談役の前任は。
――シュタフェール侯爵だったわ……!
コクリと息を呑んだ。
今回の騒動はシュタフェール副師団長から起きている。相談役をしていた自身の父が辞めたから今回の事を起こしたとすれば……。
――四年前のユリアさんが魔力を減らしていたのもシュタフェール副師団長が原因ということね……!!
そしてシュタフェール侯爵家自体の問題ではなく、シュタフェール副師団長個人の問題でもあるということだ。
父親に勘付かれたくないから今まで大人しくしていたのではないか。
前年度までシュタフェール侯爵自身が相談役に就いていたのも、シュタフェール侯爵家の影響が強い騎士団の中で新たに総団長に就いたウィースデン総団長を支える為だったのは想像できる。
しかし長く居すぎるとそれは逆効果にもなり得る。だから四年で辞められたのだろう。
そしてそこからわかることは、シュタフェール侯爵は副師団長のしていることを容認するような人ではないということだ。
――でも......だからと言って証拠がなければ告げ口もできないし……難しいわ……!
貴族の方を告発するなんて、きちんとした証拠がなければ言った方が危ない。
それでもユリアさんの魔力が減って、魔力回復薬を規定量以上飲もうとしていたなら兄は無視できないだろう。これからまた、そんな危険な状態になるのを兄は見過ごせない。
――だからユリアさんを好きだと宣言したのね……。
そうすれば兄がユリアさんに纏わりついても好きだからと言い訳ができる。直接兄がユリアさんを守れるのだ。
幸いにも公爵家嫡男であるウィースデン総団長が兄とシュタフェール副師団長を執り成してくれた。シュタフェール副師団長も暫くは好き勝手できないだろう。
ほっと息をついて……眉を寄せる。
――アリオン……聞いてたんだわ……!
兄は恐らくアリオンにユリアさんの事情を話したのだ。そうでなければ兄はアリオンを利用しない。
だって兄はわかっていたはずだ。医務室に怪我人が多い時点でシュタフェール副師団長が関わっている危険があると。
そんな危険があるところに連れて行くということはアリオンに協力を頼んでいたのだ。だから兄は『協力者』としてアリオンを医務室へ連れて行った。
そうすれば兄はアリオンが居ても何も気にすることなくユリアさんを気遣える。そうして医務室を出た後、兄はシュタフェール副師団長が原因だと知った時に迷わず進言に向かったのだ。
――アリオンが知らなかったならお兄ちゃんは自分で師団長を呼びに行ったはずよ……!
アリオンがユリアさんの件を知らないのなら、いくらアリオンが聡いと思っていても師団長をアリオンに呼びに行かせるはずがない。
――間違えたら大変だもの!だからアリオンが全てを理解してるってわかっていない限り任せないわ!
兄はとても慎重なのだ。だから『協力者』としてアリオンを認めていないと指示して師団長を呼びに行かせる事もしないはずだ。
だからそうしている時点で、兄とアリオンはユリアさんの件に関して協力関係を築いているということだ。
――お兄ちゃんもアリオンも……!私に黙って色々画策して……!!
辿り着いた答えに心の中で悪態をつく。
――今度絶対に問い詰めてやるんだから!!
私が思っているよりも信頼関係を築いている兄とアリオンにむっとしながら決意する。
「ローリー?」
考え込んでいるとひょいっとカリナに顔を覗かれた。
「わっ、カリナ!」
驚いて叫ぶとカリナは心配そうに眉を下げる。
「ローリー大丈夫?何回かローリー呼んだんだけど聞こえてないみたいだったから......」
そう言われて目を瞬かせる。
呼ばれていることに全く気づいていなかった。
「ごめんね、カリナ。ちょっと考え事していたわ......」
カリナの声に気づかないほど考え込んでいたことを反省しながら謝ると、カリナは安心したように笑った。
「ううん、いいの」
その言葉にほっとして微笑むと、カリナは私とユーヴェンに視線を走らせてからにっこりと笑った。
「それよりもね、二人とも私に何を隠してるの?」
可愛らしい笑みを浮かべたままのカリナの問いに、私とユーヴェンはひゅっと息を呑んだ。
読んでいただきありがとうございます。
前の後書きで言っていた短編ですが、今掲載している『初めて会った君』の続きを書いています。
なので『初めて会った君』の短編設定をやめて更新しようと思っています。
実はこの『好きな人を友人に紹介しました』の本編内ではローリーとアリオンの過去をちょっとしか登場させていないのですが、過去話を大まかに書いてから本編に反映させているので……過去話が溜まっていまして。
本編では過去を詳しく書くつもりはないので、本編が終わってから番外編のような感じで書くつもりでした。
ですが、思っていたよりも本編がだいぶ長くなっていまして……いつ過去話を載せられるようになるのかわからないので、『初めて会った君』の続きで過去話を掲載していこうと考えた次第です。
そしてぼちぼち『初めて会った君』でローリーとアリオンの過去の話を更新していこうと思います。
本編の更新や他の小説の更新もあるので更新はかなり遅いと思いますが、楽しんで頂ければ幸いです。
『初めて会った君』の続きは今日の18時にはあげたいと思っていますので、よろしくお願いします。
後書きが長くなってしまいすみません。
これからも読んでもらえると嬉しいです。
※追記
短編の続きではなく、新たに連載版として初めて会った君―連載版―を投稿しました。
よろしくお願いします。




