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ユーヴェンの説明


 不貞腐れた私の背中をカリナが優しく撫でてくれる。私の複雑な胸中をおもんばかってくれたのだろう。

 そんなカリナにありがとうと笑って気を引き締めてからユーヴェンに向き直る。


「ユーヴェン、続きを教えて」


「おう。リックさんがシュタフェール第二副師団長に進言しに行って......アリオンはリックさんの指示で師団長を呼びに行ったから間のことはわかんないって言ってたんだけど」


 それにふむと頷く。いくら見逃せないことをしているとはいえ相手は上官でシュタフェール侯爵家だ。できるなら進言は上官で侯爵家以上の方がいいだろう。


 ――お兄ちゃんってばムカついてるからって自分で言いに行ったのね......!


 兄ならばわかっていたはずだ。自分で進言しに行くことがどれだけ危険を伴うか。


 ――......『今』だから、自分で言いに行ったのね。


 今年度から魔導統轄長にエルヴィス第三王子殿下が就任なされた。魔道具部署も魔導部門に属している。つまり兄の妹である私は王子殿下の庇護下にあるのだ。

 いくら侯爵家とはいえ王子殿下が統轄されている部門の者に手を出せばただでは済まない。以前の魔導統轄長も侯爵家の方で簡単に手を出せる状況ではないものの、やはり王子殿下の威光とは比べものにならない。

 妹の私に万が一にも危険がないよう考えた上での進言だ。


 ――まったくお兄ちゃんは……!


 恐ろしいほど考えているからこそ文句を言いたくなる。


「それでアリオンは誰を呼びに行ったの?」


 アリオンなら呼びに行くのも師団長であれば誰でもいいとは考えないはずだ。たぶんそれも加味して兄はアリオンに呼びに行かせている。


「あー……アリオンはハーフィリズ侯爵家の第一師団長を呼びに行こうと思ったらしいんだけど……」


 シュタフェール侯爵家と同格の侯爵家で兄の直接の上官だ。人選はちょうどいいと思うが何故か歯切れの悪い言い方のユーヴェンに不安になる。


「いなかったの……?」


 それなら誰を呼んだのだろうか。


 眉を下げて聞くとユーヴェンは首を振る。


「いや、いたんだけどウィースデン総団長もいたらしくてさ」


「ウィースデン総団長!?」


「わあ……騎士団の一番偉い人がいたんだね……」


 私とカリナの驚きの声にユーヴェンは苦笑した。


「アリオンもビビったって言ってたよ」


「それはビビるわよ……」


「だよね……」


 カリナと目を合わせて頷き合う。

 見習い騎士であるアリオンではあまり総団長と会う機会も少ないだろうし、驚くのは当たり前だ。


「だから総団長とハーフィリズ師団長と一緒に問題があった第二訓練場に向かったって言ってた」


 ……その二人と一緒に行くアリオンは緊張しただろうと思いを馳せる。


 ――アリオン、ウィースデン総団長に憧れているしなおさら緊張してそうだわ。


 騎士団の叙任式は毎年一緒に行っていた。綺麗に統率された騎士団は壮観で、毎年演武や試合が行われている。

 そこでの演武でウィースデン総団長のことをとてもキラキラした目でアリオンは見ていたのだ。そう考えると頬が緩む。


「ふふ、アリオン総団長に憧れてるから驚いたけど喜んでそうね」


「ああ。なんか褒められたみたいでさ、すっげえ喜んでた」


「そうなの?すごいじゃない!」


 アリオンの様子を聞いて思わず笑みが漏れる。


 ――流石アリオンね!


 やはりアリオンは総団長に褒められるほど頑張っているのだ。


「ふふふ、よかったね」


 カリナも喜んでくれて嬉しくなって……ハッとする。


 ――今は違うわ!兄のことを聞かないと!


 ……アリオンの様子はまた詳しく聞こう。


「それでアリオンは訓練場に行って何を聞いたの?」


「あ、おう。訓練場に行ったら……見習い騎士相手に無茶な稽古をつけてたシュタフェール副師団長をリックさんが止めてたところだったらしい。それでリックさんが『温存すべき医療を使い倒しているのはいかがなものかと』ってシュタフェール副師団長に言って……」


 ――お兄ちゃん……ものすごい嫌味を込めているわね……。


 兄の怒りが聞いているだけでも伝わってくる。兄が大切にしているユリアさん相手だから当たり前ではあるけれど。


「そしたらシュタフェール副師団長がリックさんに…………」


 そこでピタリと止まるユーヴェン。何か言いにくいことでもあったのだろうか。

 ちらりとカリナを気にしたユーヴェンは、一度中空に目をやった。……もしかしてユリアさんを嫌いなのではとか聞かれたのだろうか。その言葉なら聞いたまま言えないのはわかる。


「あー……どうしてリックさんが医務室のことを気に掛けるのか……みたいなことを言ったらしいんだ」


「?そこは曖昧なんだね?」


 さっきまで詳しく語っていたユーヴェンの言葉に疑問を持ったカリナが首を傾げた。


「どうせユーヴェンのことだからど忘れしたのよ」


 呆れの溜め息を吐いてユーヴェンを見る。


 ――まったく……もう少し整理してから喋りなさいよね。


 そうした呆れを含んだ視線を理解したかはわからないけれど、ユーヴェンは私の言葉にコクコクと頷いた。


「そ、そうなんだ!で!そこでリックさんがメーベル医務官への気持ちを宣言したんだってさ!メーベル医務官を愛しく想っているから、迷惑をかけるのは見過ごせないって!」


「わあ!リックさん、お姉ちゃんに負担かかってるの見過ごせなかったんだね!お姉ちゃんのことを考えてくれてるの嬉しいなぁ」


 ユーヴェンの勢いに任せての誤魔化しをカリナはキラキラとした目で受け入れた。……カリナがユリアさんの恋バナに関しては盲目で助かった。


「お兄ちゃん……そんな所で宣言したのね……」


 ならば今日の噂の出回り方も納得がいく。恐らくシュタフェール副師団長が無茶な稽古をつけていた見習い騎士が何人もいたのだろう。怪我人がいたらアリオンが応急処置をしているかもしれない。アリオンが応急処置をすればユリアさんの魔力減少は少量で済む。

 その場に何人もいて、ユーヴェンの言う通り『隠蔽するつもりはない』のだから緘口令も敷かれなかった。そして訓練場の中央で宣言するという『演出』で、誰かに言いたくなるような舞台を整えた。

 兄の思惑通り、すごい速さで噂は王宮中に広がっている。まったく私の兄ながら恐ろしい。


「らしい。俺も聞いた時はびっくりしたよ……」


 そう言ったユーヴェンをジト目で見る。


 ――アリオンもユーヴェンも……私にお兄ちゃんとユリアさんが仲が悪いみたいな噂隠してたわね……。


 兄と私の友人であるカリナの姉のユリアさんが仲が悪いなんてことを言いにくいのはわかる。けれどそんなことをされるとまだまだ私に言ってないことがあるのではないかと疑ってしまうではないか。


 ――……今度またアリオンを問い詰めようかしら……。


 また耳元で教えてと頼んだら教えてくれるだろうか。


 ――…………あの時のアリオン、顔を真っ赤にして可愛かったわ……。


 また見たいと思うのは意地悪なのかもしれない。


 ――でもアリオンのどんな顔でも見たいもの……。


 アリオンを思い返して、少し頬を染めた。



読んで頂きありがとうございます。

すみません、更新が遅くなりました……。

いつもお盆とお正月付近は忙しく、やっと書く時間を取れたのが昨日の夕方でした。

昨日はこの小説を投稿し始めてからちょうど二年だったので更新したかったのですが間に合いませんでした……。

また昨年と同じように二周年記念の短編書きたいと思ってます。

少し遅くなりますが、書けたらまた後書きで報告します。


これからも読んで頂けると嬉しいです。

よろしくお願いします。


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