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好きな人を友人に紹介しました  作者: 天満月 六花


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349/359

―弾む心―


「ハーフィリズ師団長」


 温度の入っていない低い声でハーフィリズ師団長を呼んだリックさんに、呼ばれた本人は軽く振り向いた。


「いやあ、腕を上げたなガールド!ここまで気づかなかったぞ!」


「お話にとても夢中だったようで……楽に後ろをとれましたよ?」


 ハーフィリズ師団長の軽口にリックさんは冷淡に返す。


「それよりもハーフィリズ師団長、今何を……ブライトに吹き込んでいたんです?」


「……あー……」


 目を明後日の方向に逸らしたハーフィリズ師団長にリックさんは詰め寄る。


 二人の様子に身を縮めていると、ウィースデン総団長と目が合った。総団長は苦笑して首を振る。どうしようもないということだろう。


「人の昔話を勝手にするなって……言わなければわかりませんか?」


「ガールド……そんなに怒るな……な?」


 詰め寄ったリックさんを宥めるようにしながら、ハーフィリズ師団長は一歩後ろに下がった。


 更に詰め寄ったリックさんは口角を上げる。


「ハーフィリズ師団長、久々に手合わせをお願いします。僕が満足するまでたっぷりと」


 リックさんの言葉に少し心が浮き立つ。


 ――リックさんとハーフィリズ師団長の手合わせ……!見てぇ!!


 思わず目を輝かせてしまうが、ハーフィリズ師団長は悩むような顔をしてウィースデン総団長を見た。


「……ゼクセン……」


 助けを求めるように名前を呼んだハーフィリズ師団長に、総団長は呆れた感じの目を向ける。


「お前が悪いから私は知らん。大体話に夢中になり過ぎだ、ライオット。途中から内容が丸聞こえだったぞ。お陰でガールドの意識がそちらに逸れてしまっていた」


 その総団長の言葉にリックさんの方が先に反応する。


「総団長、説諭を受けている最中に意識を逸らしてしまい申し訳ありません……」


「いや、あんな話をされていたら気になって当然だろう。なあ、ライオット」


 頭を下げ謝ったリックさんに総団長は軽く手を振るが、ハーフィリズ師団長には咎めるように声をかけた。


「ぐっ……悪かったよ……」


 バツが悪そうに謝ったハーフィリズ師団長だが、少し口を尖らせて拗ねた顔をしている。

 その様子を目に留めたリックさんは総団長に頭を下げてからハーフィリズ師団長に向き合った。口端をひきつらせたハーフィリズ師団長にリックさんはにっこりと笑った。 


「ハーフィリズ師団長、まさか僕との手合わせを嫌とは言いませんよね?人の話を勝手にしておいて」


 リックさんの言葉に肩を落としたハーフィリズ師団長は大きく溜め息を吐いた。


「……はあ、わかったよ……。お前と手合わせすると長引くから書類仕事が……」


「それは終わってから頑張ってください。ハーフィリズ師団長ならすぐ終わるでしょう?」


 どうやらハーフィリズ師団長は書類仕事ができなくなるのを気にしていたらしい。


「俺が書類仕事得意じゃないのを知っているくせに……」


 ジロッとした目で見たハーフィリズ師団長にリックさんはさらに笑みを深めた。


「できているので問題ありませんよ」


 ぐっと苦い顔をしたハーフィリズ師団長だが、諦めたように表情を緩めた。


「はー……仕方ない、やるかー」


 ぐるぐると肩を回しながら応じるハーフィリズ師団長にリックさんは満足そうに笑う。


「ではよろしくお願いします」


 その二人の会話にワクワクする。二人の手合わせは見学してもいいんだろうかと考えていると、リックさんが俺の方を向いた。


「アリオンくん」


「は、はい!」


 名前を呼ばれて肩が跳ねる。見学してもいいか聞こうと迷っていたので驚いてしまった。


「見学してく?」


 その言葉に勢いよく頷く。


「はい!あ……シオン……ケープ達もいたら呼んでもいいですか?」


 折角ならシオン達も見学したいだろうと聞いてみる。するとリックさんはハーフィリズ師団長を見た。


「ハーフィリズ師団長、どうです?」


「別に構わないぞ。見学したい奴はいくらでも来ればいい」


「僕も誰でも連れてきて構わないよ」


 ハーフィリズ師団長とリックさんに見学の許可をもらって思わず顔を明るくする。


「ありがとうございます!俺ちょっと言ってきます!」


 総団長とハーフィリズ師団長、リックさんに礼をしてから懐中時計を取り出す。時間を見てまだ晩飯を食べている頃だろうかと当たりをつけて早く教えてやろうと走り出そうとした。

 だが、制服のボタンに懐中時計を変に引っ掛けてしまい手から懐中時計が滑り落ちた。


「おわっ」


 驚きながらもなんとか懐中時計と弾みで出たチェーンを掴む。

 ほっとしながらローリーがくれた碧天色の魔石と懐中時計を眺める。


 ――よかった。傷ついてねぇな。


 懐中時計には保護の魔法が掛かっているから落としても平気だが、魔石には保護の魔法は掛かっていない。

 魔石は硬度が高い上に魔力が入ると堅牢性が上がるので傷つく事もほぼないのだが、ローリーにもらった魔石を地面に落としたくはない。


 ――やっぱ持ち歩くの危険か……?でもローリーがいつも身に着けててくれると嬉しいって言ってたからなぁ……。


 あの時のローリーはとても可愛かったと思いながら、碧天の魔石を撫でる。

 ローリーの綺麗で柔らかい魔力を感じて思わず頬を緩めた。


 ――落とさねぇよう気をつけるか。俺もいつも持ち歩きてぇしな。


 決意を新たにしていると、突然俺の肩をぐっと掴まれた。その痛みにハッと気づく。

 今ここに居るのは総団長とハーフィリズ師団長と……リックさんだ。そして俺は、この魔石の事を……リックさんには言っていない。


 俺は冷や汗を垂らしながら恐る恐る振り向いた。


「アリオンくん……それ、何かなぁ?」


 恐ろしい程完璧な笑顔を浮かべたリックさんがそこに居た。


「あー……その……ローリーにもらい、ました……」


「へえ……。それで?」


 促してくるリックさんの声には温度がない。肝を冷やしながら口を開いた。


「…………ローリーにも、お、俺の色のネックレスを……渡しました……」


「で?」


「……お互いの、魔力を……入れてます……」


「それ……どういう意味か、分かってるよねぇ?」


 その唸るような声に息を飲みながら答える。


「こ、恋人同士……という感じの、意味ですね……」


 俺の言葉に笑顔のまま頷いたリックさんは、俺の肩に置いていた手に更に力を込めた。


「それで?ローリーと君は?」


「まだ恋人同士ではありません!」


 ビシッと背筋を伸ばしながら答える。


「でもこれを互いに着けてたら?」


「こ、恋人同士に……見えます……」


 リックさんの問いにやはり恋人同士のようなやりとりをしているローリーとの関係にむず痒くなってきた。


 ――ローリーも恋人同士みたいって嬉しそうに笑うんだもんなぁ……!可愛すぎる!


 心の内で悶えているとリックさんは先程よりも冷えた笑顔で俺に問いかけた。


「なら?」


 リックさんのその問い掛けに俺はぐっと口をつぐむ。


「アリオンくん?」


 答えない俺に詰め寄るリックさんを真っ直ぐに見据える。そして大きく息を吸ってから口を開いた。


「お、俺はローリーを誰にも譲る気はないですし、ローリーにいつも身に着けててほしいと言われたのでいくらリックさんに言われてもこれは外せません!俺が外してしまったらローリーが悲しみます!」


 目を見開いたリックさんに更に告げる。


「俺は何よりもローリーを一番大切にしたいので、ローリーとの約束を破ることはできません!」


 叫ぶように言った俺の宣言をリックさんはどう受け取ったのだろうか。


 ――でもローリーに『いつも身に付けててくれると嬉しいな』って言われて俺はいつも身につけるって応えたんだ。それを破ることは絶対にしたくねぇ。


 灰褐色の瞳に決意を秘めてリックさんを見返していると、リックさんは眉間に深い皺をつくる。そして一瞬下を向いたと思うと、次の瞬間には青い瞳が俺を強く貫いた。


「あー、もー!わかったよ!僕だってローリーを悲しませたくなんかないからね!その代わり!君には明日の朝5時から僕の八つ当たりに付き合ってもらうよ!!」


「!!はい、わかりました!」


 リックさんの言葉に目を輝かせながら頷く。それは明日の稽古を受けたら許してくれるということだ。


 リックさんは俺の様子を苦々しい顔で見ると、肩を掴んでいた手を離す。


「わかったなら早く見学者を呼んできなさい。僕とハーフィリズ師団長の手合わせを見学するんでしょ」


「はい!ありがとうございます!」


 そう言ってくれたリックさんに深く礼をする。


 弾む心の中にローリーへの愛しさを混じらせて眩く光る星空を見上げる。早く会いたい想いを星に託しながら、ローリーの愛しい笑顔を脳裏に思い描いた。



読んで頂きありがとうございます。

更新が遅くなってしまい申し訳ありません。

少しプライベートで色々とあり遅くなりました。

そしてアリオン視点が少し長くなりましたが次からはローリー視点に戻ります。と言ってもちょっとすると事件解決の為、またアリオン視点に戻ると思いますが……。

早く更新できるよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします。


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