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―総団長の洞察力―


「しかしガールドは......先に報告に来ればいいものを......。相手は腐ってもシュタフェール侯爵家だぞ......」


 溜め息を吐きながら言ったハーフィリズ師団長になんともいえない心地になる。


 ――リックさんはメーベル医務官のことでかなりシュタフェール副師団長への怒りが溜まってたからな……。


 直接言ってやりたいのもあって俺に報告を任せたのだから、ハーフィリズ師団長の言はもっともでもリックさんがそうすることはなかっただろう。


「はは、ガールドは昔からメーベルのこととなると見境なくなるからな」


 笑いながらそう言った総団長に咳き込みかけてぐっと我慢する。思わず総団長に視線を向けそうになったけれど、必死に前だけを向いておく。


 ――い、今の総団長の言葉どういうことだ!?


 まさか総団長はリックさんとメーベル医務官の関係をわかっていたりするんだろうか。


「は?お前はなにを言っているんだ?」


 内心焦っていると、ハーフィリズ師団長が呆れたように総団長に突っ込んだ。


「ん?違ったか?」


 ハーフィリズ師団長は大きく溜め息を吐いた。


「どう見てもガールドとメーベルは犬猿の仲だろう......。嫌味を互いに言い合っているあの姿を見てどうしてそんな言葉が出てくるんだ……。ガールドは意外と正義感が強いからな。それでだろう」


「ふむ、そうか」


 納得したように頷いた総団長にホッとする。


 ――リックさん気持ちは言うことにするって言ってたけど……まだバレていいのかわかんねぇからな……。


「ったく、お前は時々抜けたことを言うよな......」


「はは、そのようだ」


 ハーフィリズ師団長の言葉に笑う総団長を見て、二人は気の置けない仲なのだろうなと考える。

 そうして二人を見ていると、総団長がふとこちらを向いて気づかれない程度に身を屈めた。


「……これはまだ内緒のようだな、ブライト」


 その囁くように言われた言葉にひゅっと息を呑んだ。これは完全にわかっている。リックさんとメーベル医務官が犬猿の仲なんかではないことも、俺がそれを知っていることも。


 ――俺そんなにわかりやすかったか!?いや、リックさんとメーベル医務官のこともわかってたみてぇだし、俺ごときが総団長を誤魔化すなんて無理な話か!?


 心の中で激しく動揺していると、ハーフィリズ師団長が首を傾げながら言った。


「しかし......なんで犬猿の仲なのに医務室に行っていたんだ?ガールドはメーベルがいる時はほとんど医務室に行くような出来事を起こさないんだがな……。誰かが怪我をしたのか?」


「あっ……は、はい。自分が怪我をしました」


 動揺は続いているが、ハーフィリズ師団長にまで俺からバレる訳にはいかないと事実を答える。

 そうすると、二人とも不思議そうな顔をした。


「......応急処置だけでは治らなかった箇所を治療しに医務室に行ったのか?」


「でもそれでガールドが付き添うか?自分では治せないほど酷い怪我をしたのか?」


 どうやら総団長もハーフィリズ師団長も俺がよく治癒魔法を使っていることを知っているらしい。しっかりと認識されているのは嬉しい。


 ――いや、もしかしたら全員のこと覚えてんのかもしれねぇけど......!


「いえ......魔力がなくなって治せなくなりまして......」


 そう言うと二人とも心なし目を大きくしたような気がした。


「......ブライトの魔力が......なくなる?」


「ブライトの魔力量は......騎士団の中でも随一だった......はずなんだが......」


 ハーフィリズ師団長と総団長が困惑したように言った。


 ――俺ってそうだったのか……。


 初めて知った事実に目をパチパチさせる。だから俺のことを知っているのだろうかとも思ったけれど、リックさんが見習い騎士をさらっと言ったことを考えるとやっぱり全員知っていそうな気もする。


「ガールド隊長との稽古で......自分が未熟だったために魔力がなくなってしまいました......」


 リックさんとの模擬戦を思い出すと情けない気持ちが湧き上がってくる。


 ――俺の魔法がちゃんとしてたらもっと耐えれたはずなんだよな……。


「いやそれでもなかなかなくならない魔力量だろう……。一体ガールドはどうやってなくしたんだ……」


 俺が反省していると、総団長が眉を寄せながらそう言ったので答えるために口を開いた。


「あ、それは……リックさんが真剣を使っていて、俺は模擬剣だったので強度付与の魔法をずっとかけていたのと……リックさんに……あ、ガールド隊長に魔法と剣で休む間もなく攻められたのでそれを防ぐ為と怪我を治療するのにかなり魔法を使いました」


 気が緩んだのかついいつもの口調が出てしまって慌てて直す。総団長達が気安く話してくれているからと言って、口調を乱すのはよくない。


「それでいて……自分の魔法はかなり雑でして……通常より発動に魔力を多く使うんです……。それで魔力がなくなってしまいました……」


 俺が最後まで説明を終えると、総団長は息を吐いた。


「ガールドは稽古に真剣を使ったのか……」


「……はあ、ガールドはまた無茶を......。いくらブライトを気に入っているからと言って真剣はないだろう、真剣は......」


 ハーフィリズ師団長は頭に手を当てながら首を振っている。


 なんだか二人とも難しい顔をしているので言ってしまってよかったのだろうかと考えていると、医務室で言われた事を思い出したのでそれも伝えてみる。


「その……見習い騎士の内に魔力回復薬を経験することが推奨されていると聞きました。その訓練も兼ねてのようです」


 俺がそう言うと、総団長とハーフィリズ師団長が揃ってこちらを向いた。


「......魔力回復薬?」


「......飲んだのか?」


「え、はい......」


 なんだか二人とも眉を寄せて苦い顔をしている。どうしたのだろうと不思議に思っていると、総団長が目を伏せて言った。


「そう、か......。ブライトの魔力量で飲んだのか......」


「......きつかっただろう......」


 ハーフィリズ師団長が気遣うように聞いてくる。


「それは......はい......」


 それに目をパチパチさせながら頷くと、総団長が苦笑した。


「はは、私達がどうしてこんな顔をしているかわからないだろう。すまないな。魔力回復薬には大変な思いをした記憶しかないんだ。それでいてブライトの魔力量だと貴族では魔法騎士や魔術師を目指す者が多くてな……。魔法騎士や魔術師だと魔力量がかなり多いから魔力回復薬は飲まないようにするのが基本になっているんだ。だからどのくらいきついのだろうと想像してしまった」


 その総団長の言葉に得心する。


 ――やっぱ俺ぐらいの魔力量だと魔法系の進路選ぶの多いよなぁ……。


 平民でもやっぱり魔力量が多いと魔法系の進路の選択肢が増えるので、俺も将来魔術師とかどうだ?とか色んな人に勧められた気がする。

 なので学園に行くまでは将来何になるかかなり迷っていたのだ。魔法は得意じゃないけれど、自分の魔力量を考えると魔法系の進路がいいのだろうかと。


 ――でも父さんが冒険者で剣使ってたから……剣術に興味あったんだよなぁ……。


 だから迷っていた。魔法系で剣を使うと言えば魔法騎士だが、それはかなりのエリートだ。しかも魔法の実力もかなりないといけない。それは厳しいような気がしたし……なぜかそこまで心惹かれなかった。


 そんな時にローリーが騎士の叙任式に連れていってくれた。ローリーが騎士になったリックさんを褒め称えているのを見て、綺麗に統率され青い騎士服を身に纏って国を守る誓いを立てるのを見て……俺もそうなりたいと強く思ったのだ。


 その憧れた騎士を束ねる総団長を目の前に初心を思い返して少し気恥ずかしくなりながら、先程体験した魔力回復薬の感想を口にする。


「そうですね……やはり魔力が身体に馴染むまでは立てませんでした。飲んだ途端膝をついてしまい......正直倒れないのがやっとでした。魔力の塊が……体内を暴れまわっているような感覚で脚にも腕にも力が入らなかったです。視界も……酩酊したような状態で、身体全体がきつくて脂汗が止まりませんでした。そのような状態だったので守護結界を張れたのも飲んでから1分以上は経過してしまって……しかも隙間なく張るのもすぐにはできず……まだ自分は未熟だと思い知りました」


 言い終わって総団長とハーフィリズ師団長の方を向くと、なんだか驚いたような顔で俺を見ていて首を傾げる。


「あいつどんな訓練を見習い騎士に課しているんだ......」


 ハーフィリズ師団長が辟易したような顔で言ったので目を丸くする。


「ブライト......初めてでそれはかなりできているからそこまで気に病む必要はないぞ」


「はい、ありがとうございます」


 総団長の言葉に頭を下げて礼を言う。


「しかしガールドはブライトに期待しているな。そこまで訓練しているとは......守護結界をどんな状況でも張れるようにするのは正騎士の訓練だ」


「そうなんですか?」


「そうだぞ。胸を張っておけ」


「はい……ありがとうございます……!」


 もう一度言ったお礼は、総団長に褒められた嬉しさとリックさんの期待に応えられそうな嬉しさが混じっていた。


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