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―リックさんの覚悟―


 二人分の足音が聞こえてくるが......なんだか歩調がおかしい。......怪我をしているのだろうか。

 リックさんを見ると眉を思いっきり寄せていた。......怖い雰囲気が漏れ出している。


 きっと怪我をするなら見習い騎士ではないかと思って前へ出て目をらす。俺の知った奴であれば話を聞きやすい。

 そうしていたら先に向こうが気づいたらしい。


「お!アリオン!……と、ガールド隊長!お疲れ様です!」


 同期の見習い騎士が二人こちらに向かってきていた。

 しかしその姿は痛々しいもので、一人は足を引きずってもう一人に支えられているし、その支えている方も何ヵ所も傷がある。


 俺は顔を顰めながら二人に挨拶を返すと、傷の程度を観察していく。パッと見た感じでは俺が治せなさそうな傷はない。


「お疲れ様。君達は……ジミー・コールとテッド・フォレスターだな。今は第三師団の一番隊に配属されていたね」


 足を引きずっている青髪で緑眼のジミーと、ジミーを支えている金髪で茶眼のテッドは自分達の名前を当てられたからか目を白黒させている。

 

 ......リックさんってもしかして全騎士覚えていたりするんだろうか。どうして見習い騎士である二人を見ただけで名前だけじゃなく今の所属を言えるんだ。


 ――リックさんやっぱすっげぇ......!


 そういえばローリーも人の顔を覚えるのは得意だ。ときどき街中を歩いている途中で、あの人アリオンを以前ナンパしてきた人だから気をつけましょ、とか言い出すのだ。


 ――そういやローリーをかくまってくれた商人のおっちゃんもすげぇ記憶力だったな......!


 商人には必須の能力なのかもしれない。まあローリーもリックさんも商人ではないのだが......商会に勤めている両親の影響もあるのだろうと思う。

 ......ローリーは顔を覚えるのは得意でも名前を覚えるのは少し苦手みたいだが。学園の時にその事を指摘すると、名前はごっちゃになっちゃうのよ!との言い分だった。少し頬を膨らませてむくれるローリーは可愛かったなぁ。............いや、ほんとになんで気づかなかったんだ、俺......。


「は、はい、そうです!」

「第三師団一番隊に配属されています!」


 所属を当てられた二人は目を丸くしながら返事をした。

 ......ジミーとテッドは俺になんで!?って感じの目を向けてくる。そんな目で見られても俺だってリックさんがなんで二人の名前や所属まで知ってるか知らない。


 リックさんはそれを無視して二人の傷に目をやる。


「その怪我はどうしたんだ?」


 二人は少し目を合わせたあと、テッドが言いにくそうに答えた。


「あ……その……訓練で……」


「そんな怪我をするほど自分達で?」


 この時間の訓練と言えば自主訓練だと思うが......自主訓練にしては怪我の程度が酷い。......まあ俺も自主訓練で怪我したんだが......それはリックさんに稽古をつけてもらったからだし......。


 そしてはっとする。もしかしてジミーとテッドもそうなのではないのだろうか。


 二人を見ると眉を下げたジミーが重そうに口を開いた。


「……いえ……その……シュタフェール第二副師団長に稽古をつけてもらってまして……。その最中に俺達が未熟で怪我を……」


 その名に目を見開く。第二師団の二人いる副師団長の一人、カストロ・シュタフェール副師団長。シュタフェール侯爵家の三男だ。

 シュタフェール侯爵家は多くの優秀な騎士を輩出している名門で、騎士団総団長になっている方も多い家門だ。ウィースデン総団長の前任の総団長もシュタフェール侯爵家の方だった。だから騎士の俺達にとってはシュタフェール侯爵家というだけで憧れの対象でもあって......。


 ――たまたま......なのか......?


 そしてはっとする。リックさんから恐ろしい冷気と怒りが流れてきている。


 ――まさかリックさんが言ってたのって……シュタフェール第二副師団長なのか!?マジかよ!?


 リックさんの言っていた諸々を思い出すと衝撃が大きい。


 ――憧れのシュタフェール侯爵家の方がそんな感じなのか……。


 ショックではある……が、聞いている内容はいくら名門の侯爵家の方と言えど許せるものではない。


 リックさんはカツ、と靴音を鳴らして二人の前へと進み出る。


「いや、副師団長ともあろうものが今の緊急事態の最中に負傷者を出すような稽古をする事が問題だ。今シュタフェール副師団長はどこにいる?」


 覚悟を決めたような強い意志を持った顔でリックさんはそう言った。俺はそれに息を呑む。

 ジミーとテッドも戸惑ったように目を彷徨わせている。


 それは......そうだろう。シュタフェール侯爵家の方に問題だと言っているのだ。

 いくら王宮内での身分差での贔屓ひいきは許されていないとはいえ、やはり遠慮してしまう心理はもちろんある。見習い騎士の同期の中でも平民と貴族で集団は分かれてしまっているのだ。気さくに話しかけてくれる方もいるが、俺達平民は貴族の方にどうしても萎縮いしゅくしてしまうところがある。一緒に任務をこなしていけば打ち解けていくかもしれないが、今はまだ訓練が多いために壁がある感じだ。

 ましてや相手は騎士団内に憧れる者が多いシュタフェール家である。


 ......騎士団内には実は派閥がある。今の総団長のウィースデン公爵家の派閥と多くの優秀な騎士を輩出してきたシュタフェール侯爵家の派閥。あまり平民が派閥等に関わることはないし、派閥を作りその派閥が必要以上の権力を持つのは王宮規範で禁則事項になっているので大っぴらにはなっていないが......。

 それでもそんな派閥を持っているシュタフェール家だ。正直関わらない方が身の為だと思うのも無理はない。

 メーベル医務官がリックさんを引き止めてた理由がよく分かる。


 ――それでもリックさんは......もう覚悟を決めちまったんだろうな......。


「どうした?シュタフェール副師団長の訓練は君達で終わりだったのか?どこでやっていた?」


 何も言わない二人にリックさんはもう一度聞く。ジミーとテッドは迷うようにしながらも口を開いた。


「……あ……俺達が去った時は......まだ続けていらっしゃいました」


「場所は……第二訓練場、です……」


「わかった」


 二人の言いにくそうな言葉に、はっきり頷いたリックさんは俺の方を向いた。


「ブライト。君はコールとフォレスターの応急処置をしてから医務室に送ってくれ。その後師団長室に行き、第二訓練場で問題有りと報告。対処に僕が行っていると伝えるように」


「はい、わかりました!」


 ......対処はあってるような気がするが、たぶん治療してから報告を後に回すのはリックさんがシュタフェール副師団長に直接言ってやりたいからだと思う。


 ――メーベル医務官の魔力を温存させたいってのもわかるけどな......。


 たぶん今こうしている時にも怪我人が増えていることだろう。


「僕はシュタフェール副師団長に進言してくる」


 リックさんは力強い...奥底に怒りを宿した紺碧の目を前に向けながら宣言した。


「......はい」


「それじゃ、よろしく」


 俺の返事を聞いたリックさんはカツカツと足早に歩いていく。その足取りにはひとつの迷いもなかった。



読んでいただきありがとうございます。

更新が遅くなってすみません。

それとアリオン視点がけっこう長めになってしまっています。もう暫くお付き合いください。

色々と書きたいことが増えて長くなってしまいました……。

そしてアリオン視点はけっこう設定をしっかり考えながら書かなければいけない事が多く、更新に時間がかかっております。

なるべく早く更新できるよう頑張っていきます。

これからも読んでいただけると幸いです。

よろしくお願いします。


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