―キャリーとカインの家族―
不思議に思っているとカインはがしがしと頭を掻いた。
「あー……そういやお前の兄貴今何してんだ?」
何故か話を変えていた。……あの話はキャリーがノリノリ過ぎて怖かったからだろうか。
キャリーは大きく溜め息を吐いて顔を悔しそうに歪めた。
「魔法師団にいるわよ。戦闘職で」
その言葉に目を見開いた。
「うっわ、マジか……」
カインの驚嘆した声に、俺も同意する。
「すっげぇな。魔法師団の戦闘職って魔力も技術も飛び抜けてねぇとなれねぇだろ……」
魔法師団の戦闘職は誰にでも門戸を開いている騎士とは違い、厳しい試験がある。
それに魔法師団の戦闘職は治安を守る騎士とは違い、魔物の討伐を目的としている。騎士も魔物と戦うが、それは大規模魔法を展開しにくい場所や逃げてきた魔物を倒す為が多い。魔物討伐の遠征でも騎士はそういった事をしたり、魔法戦闘士の魔法展開中の護衛をするのが騎士の役割だ。
魔法師団の戦闘職は魔物を相手にする為、魔法の展開速度が重要になる。だから魔法を手で描くのではなく、魔力を放出しながら宙に何も使わずに描いていくのだ。
魔法師団には他にも職があり、それぞれ難しい試験があるが、一番厳しい採用基準なのは戦闘職だと言われている。それは宙に魔法を描く事が必須技能になるかららしい。
正直そんな芸当、どうやっているのか想像もできない。
――キャリーのお兄さんすげぇんだな……。
しかし全くひとつも敬われていそうにない。キャリーの話を聞くと仕方がないとは思うが。
「そうなのよ、兄貴は昔から魔力があって魔法も大得意でね……今や魔法師団の魔法騎士よ。私が剣で斬りかかってたから剣も使えちゃうし、近接戦闘の反応がすごくよくなっちゃったのよね……。本当にむかつくわ……!!」
「うっわ、すげぇエリートじゃねぇか……」
魔法師団の戦闘職でも剣が使えたり近接戦闘の手段がある魔法戦闘士は魔法騎士になれる。そして魔法騎士であれば騎士の護衛も少なくてすむので上級職である。
しかしそれにも実技有りの試験があったはずだ。
……たぶん兄妹喧嘩とメーベルさん達との攻防で鍛えられたのがわかってしまった。
――キャリー本気で斬りかかってたんだろうな……。
そしてキャリー自身も身体強化も魔法も剣も兄との攻防でうまくなったのだろう。
理解できるだけにキャリーが苛つくのもわかってしまう。決して前向きではない兄との攻防で力がついたと認めるのは癪に障るに決まっている。
苦笑しているとカインが首を掻きながら眉を寄せて疑うように聞いた。
「……剣で斬りかかってたって……お前まさか店の剣を……」
「店の剣?」
カインの言葉に首を傾げると、キャリーが答える。
「ああ、私の家武器屋なのよ」
「へえー。……使ってたのか?」
納得したら確かに気になって俺も聞くと、キャリーは首を振った。
「流石に違うわ。父が私用にってくれた剣よ」
「はは、まあそうだよな」
いくらなんでも売り物の剣を使ったりはしないだろう。
カインはほっとしたように呟く。
「ならよかった……。うちから仕入れた剣をどんな事に使ってんだと思っちまった……」
「ちゃんと綺麗に手入れしてしっかり販売してるわよ」
――うちから?
「カインの家は何してるんだ?鍛冶屋か?」
聞くとすかさずキャリーが自慢気に答えた。
「いいえ、カインはとある商会の一人息子」
その言葉に目を丸くしてカインを見た。
「ええ!?お坊ちゃんなのか、お前!」
「お坊ちゃんってなぁ……。小せえ商会だよ。スカーレットの親父さんとは騎士団時代からの付き合いだって言ってたか」
「二人の父親騎士だったのか」
またも新たな情報にわくわくする。父親が騎士だったという事は色んな話を聞いてそうだ。
「ええ、そうよ。だからか私もカインも騎士に興味持っちゃったのよね」
「おう。うちは親父が立ち上げた商会でな。騎士時代に武器や防具と戦闘用魔道具とか……色んなものにハマってやり始めたんだと。親父が選んだ武器や防具、魔道具なんかを色んな所から仕入れてる。そういうの特化の商会だな」
「カインのお父さんの目利きは確かなのよ。だからうちの父も信頼してて、多くの武器とかをカインのお父さんの商会から仕入れて販売してるわ」
キャリーとカインが楽しそうに話す内容は初めて聞くものばかりだ。そういえばカインとキャリーと仲良くなったのは最近だからそんな話を聞いた事もなかった。
「なるほどなー。だからカインはメーベルさんが知らねぇ幼馴染になったのか……」
父親の仕事関係の付き合いならメーベルさんと接することもなかっただろう。
「ええ、そうよ。うちの店は家じゃなくて別の所にあるし……武器屋には気性の荒い人が来ることも多いから、カリナを連れて行ったりはあまりしなかったもの」
それはそうなると思う。この前ローリーを連れて行った時だって、他の店とは違って離れないように買い物をした。
……ローリーが剣帯を三つも手に取ったのは驚いたが。
――んでそれをそのまんま買っちまうんだもんな……。
あれは相当怒っていた。
それでも今日リックさんに対して全く怒った様子を見せなかったのは、ローリーもリックさんに会えてなくて寂しかったんだろう。可愛い。
リックさんが剣帯の事を謝った時も「別にお兄ちゃんがこれから使うならいいわよ」と言っていた。ちょっと口を尖らせながら許すローリーはとっても可愛かった。
ちょっとでもローリーを思い出すと顔が緩みそうになるのには困ったものだ。
「へえー……。……でもキャリーの兄とカインはそこまで交流なかったのか?キャリーとお前は仲いいのに……。あっ……歳がすげぇ上とか?」
いや、そしたら尚更やばい奴になる気がする。小さい子に変な事教える輩なんて処刑ものだ。
そう考えて真顔になっていると、カインとキャリーは揃って首を振った。
「歳は俺らより二つ上……だったよな?俺は何度か会ったことあるぐらいなんだよ。……大体いつも兄貴はやらかして反省中だってスカーレットが言っててな……」
カインはキャリーに確認しながら話してから苦笑する。
確かに聞いた限り問題ばかりのキャリーの兄ならいつもそんな感じになっててもおかしくない。
「父の仕入れの仕事に付いていくのには大人しくしとかないと駄目だったからね。私はカインに会いたいから大人しくしてたもの」
「……ふぐっ……!」
軽くそんな事を笑顔で言ったキャリーにカインが小さく呻いた。
俺はそんなカインをジト目で見る。
にこにこと笑っているキャリーが続けた。
「可愛いカインと遊ぶのが楽しみだったのよね」
……またもや『可愛い』である。カインはそれを聞いて少し落ち着いたように息を吐く。
そして目を忙しなく動かして、口を開いた。
「……おう……。……あー…………お、お、俺も……た、楽しみ……だった、ぞ……」
カインの言葉に目を見開いた。
少しは素直になって言う気になったらしい。
――……もしかしてシオン……なんか言ったのか……?
シオンと二人で話してから急にコレである。疑いたくもなる。
キャリーは目を丸くしてから、顔を綻ばせた。
「あらそう?ふふふ、嬉しいわ」
「おー……そりゃ……色んな事して遊ぶの……楽しかった、からな……」
キャリーの笑顔をちらっと見てからそんな事を付け足す。……意気地なしめ。
「そうね」
そのままキャリーは笑っているが、俺は呆れた目でカインを見た。
――こいつなんで会うのが楽しみだったで止めとかねぇんだ……。
余計な付け足しなどいらなかっただろうと思うが、多少頑張っただけでも進歩なのだろうか。
道のりは遠そうだなと遠い目で俺はカインを見た。
更新遅くなってすみません。
日付を超えるどころか翌日の昼過ぎになってしまいました……。申し訳ないです。
今日の分も後で更新します!
これからもよろしくお願いします。