―恐ろしい想像―
驚いているキャリーに笑いながら理由を告げる。
「お前に突っ掛かって困らせてた制裁がしたいんだとよ」
「まあ……ふふふ。いい友達を持ったわ」
キャリーは嬉しそうに笑う。
「ローリーもキャリーの事を大事に思ってるからな。たぶんメーベルさんも参加するんじゃねぇか?」
今日メーベルさんもカインに会ったし、カインの気持ちにも気づいていそうだった。
だからきっと今頃カインがなぜキャリーに突っ掛かっていたかを聞いて……メーベルさんもローリーと同じように怒っていることだろう。
メーベルさんが参加すると聞いた途端、キャリーは眉を下げた。
「…………え……カイン……大丈夫かしら……?」
「お前も止めんなよ、ローリーに止められたくねぇなら」
何を心配しているのかは知らないが、止めるのは良くないと思って心配そうにしているキャリーに忠告しておく。
キャリーはうっと呻いて息を吐いた。
「わ、わかってるわよ……。ただカリナって……その……ちょっと……過激、なのよね……」
「過激……?」
キャリーが言いにくそうに言った言葉に眉を寄せる。
ひとつ息を吐いたキャリーはすっと目を逸らす。
「……カリナ……魔法制御が抜群にうまくて……その……魔法で人ひとりがギリギリ収まるぐらいの檻を作るとか……よくしてたから……」
「…………」
――……よく?魔法の檻……?
なんだか物騒な単語が聞こえたが気のせいだろうか。
キャリーは目を伏せながら続ける。
「カリナとっても可愛いから変質者につけ狙われる事とかもあってね……。そんな時、私が守って変質者を叩きのめしてたんだけど……捕まえておくのは魔法制御がうまいカリナがやってたのよ。捕縛の魔法で捕まえておくんだけど……更に動けないように魔法で檻を作っててね……。犯人がその檻に当たるとすごい顔をするのよ。声が聞こえないように音を遮断してたから叫び声まではわかんないんだけど……そしてそれをすぐに遠隔で治癒して……にっこりと笑うの……。変質者が悪いのはわかってるし、許せないのは私も同じだったから賛同してたんだけど……。……もしカインにそれをするのなら……ちょっと……大丈夫かと心配に……」
なるほど。確かにメーベルさんの容姿は整っているから変な輩に目をつけられやすかったのだろう。やっぱり王都の治安をもっとよくしないと。
ローリーも美人で可愛いから学園では変な奴に声を掛けられたし。ローリーの家への道までは基本ローリーの小さい頃からの知り合いばかりなのか、通るとローリーはよく挨拶されていた。だから別れ道で別れても安心だったのだ。……たぶんあれもローリーの父母やリックさんの根回しによるものなのだろう。商人気質な両親は根回しも大事にしているとローリーが言っていた。
流石にナンパされたから心配で送るようにはなったが……まあ、なるべく一緒にいたい気持ちもあったから送るのは嬉しい。
それはそうとカインの事を考える。
――…………メーベルさんもカインの理由に怒ってんだろうな……。
ユーヴェンに怒っていたメーベルさんは正直怖かった。
「…………。……流石に……キャリーの幼馴染ってわかってるし……大丈夫、だろ……。……たぶん」
全く自信はないが一応そう答える。
「…………たぶんをつけないでよ……」
不安そうに突っ込んだキャリーからそっと目を外すと、ちょうど疲れた様子のカインが俺達の所に戻って来た。
「はあ……疲れた……」
そう溜め息を吐きながら呟くカインを憐憫の目で見る。
……ローリーとメーベルさんの制裁を受けて生き残れるんだろうか、こいつ。
カインは俯いていた顔を上げると、俺とキャリーを交互に見て眉を顰めた。
「……なんだその目」
どうやらキャリーも同じような目で見ていたらしい。
俺は眉を下げながらカインに希望を告げておく。
「いや……カインが生き残れればいいなって思ってな……」
「ええ……無事に生還してね、カイン……」
キャリーも心配そうにカインに声を掛けた。
……無事でいられるかはわからない。
「は?なんで俺そんなに心配されてんだ?これからなんかあるのか?」
困惑しているカインからすっと目を逸らした。
「スカーレットもアリオンも無言で目を逸らすな!怖えだろうが!!一体何があるんだよ!?」
顔を寄せて叫んだカインが痛ましくて目を伏せた。
これからカインに降される制裁が恐ろしいだなんてとてもじゃないが言えない。
ちらっとキャリーを見ると首を横に振られた。やはり言わない方がいいようだ。
「それよりシオンはどうしたんだ?」
続けない方がいい話を断ち切って気になっていた事を聞くとカインはまた叫ぶ。
「何事もなかったように別の話すんな!言う気ねぇんだな!?ちくしょう!…………はあ。シオンは便所」
叫ぶだけ叫んだカインは諦めたように大きな溜め息を吐いた。
そんなカインに苦笑交じりに問い掛ける。
「大丈夫だったか、カイン?」
シオンの質問攻めは疲れるのだ。よくやられていたからわかる。
「……お前わかってたなら止めろよ……」
ジロリと睨まれたので首を振って拒否する。
「俺に矛先向くからちょっと……」
「俺は生贄かよ!ちくしょう!!」
三度目の叫びに思わず笑うと、カインは髪を掻き乱す。
そんなカインをキャリーは不思議そうに見ていた。
もう一度大きく息を吐いたカインは今度は俺に聞いてくる。その目は胡乱だ。
「なんかお前の叫び声が聞こえたり怒ってるような声が聞こえてきてたけど、スカーレットと何話してたんだ?」
怪しむような目で見てくるカインに肩を竦める。どうやらキャリーと二人で話していたことが気になるようだ。
カインとシオンの内緒話……という名のカインの恋愛話をしていたから遠めの所にいたが、ずっとこちらを見ていたらしい。
にっこりと笑ったキャリーが答える。
「ブライトが叫んだのは耐えなさいって話をしたからね」
「キャリー……」
その話を広めるのはやめてほしい。……まあカインは少し知っているからいいが。
「……あー……お前大変だな、アリオン……」
「ぐ……」
ぽんと肩を叩かれ労られて思わず呻く。
――耐えるに決まってっけど……まだ何をするかわかんねぇ怖さがあんだよなぁ……。
いや、流石にはっきりと注意したのだ。今回のは……俺が薄着で抱き着かれると考えてしまうと言ったから、鎖帷子を着ている俺なら問題ないと判断しただけで他にはしてこないだろう……たぶん。
「あら、カインなにかわかるの?」
キャリーが首を傾げながら聞くと一緒に少し間を空ける。無言で隣を叩いたキャリーに、カインは嬉しそうにニヤついている。……別に顔を隠さなくてもいいと思うが。
カインはキャリーの隣に座りながら答える。
「ガールドさんがアリオンを男だって認識が薄いって事は知ってる」
カインが言った事に俺は頭を抱えた。今の悩みは違ってきている。
キャリーは楽しそうに笑った。
「そうなのね。今はちゃんと認識したわよ」
「え、そうなのか?ならなんで……」
カインが俺を見てくるので気まずく目を泳がせる。
「それでもブライトには無防備なのよ、ローリー」
続いたキャリーの言葉に今度はカインが目を逸らした。
「…………アリオン、頑張れ……」
重い沈黙の後に肩を叩かれてぐっと顔を歪める。
「……耐える以外の方法はねぇのか!」
「ないわ、残念ながら」
すかさず言ったキャリーの言葉をフォローするように、カインが俺の肩を叩いた。
俺に向けるカインの淡い紫色の目には、憐憫の感情が浮かんでいた。
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