―共通の怒り―
キャリーは俺のその様子がおかしいらしく、けらけらと笑っている。
「ローリーってば本当に無防備ねー。あんたにだけ」
「俺にだけを強調して言ってくんな!」
睨むようにキャリーを見るが、ニヤけた笑い顔は引っ込むことはない。
「ふふ、面白いもの。それにしても……ローリーっていつそういう事知ったのかしら……。ローリーがカリナと仲良くなったの就職してから結構すぐだったから、就職してからではないと思うのよね。だってローリーがカリナを守ってくれてたからその時点でわかっていたはずだもの……。そうしたら学園の時かもっと前かになるけど……ガールド隊長が溺愛してるんだから学園入る前ではないでしょ?やっぱり学園の時?でもブライト達が過保護に守ってたっていうのに……」
キャリーが悩みながら出した疑問にギリッと歯を鳴らした。ローリーが吹き込まれた事を思い出すだけで反射的に苛つく。
俺の様子に目を見開いたキャリーを見て、しまったと思ってパッと顔を背ける。
――まずった。思わず苛立ちが表に出ちまった。
そのままキャリーは一段低い声で俺に問い掛けてきた。
「ねえブライト、やっぱりおかしいわよね?今日聞いた話からすると、あんたとユーヴェンさんはローリーの側から離れることはほとんどなかったみたいだし、二人がいない時は必ずクラスメイトがいたってケープが言っていたわ。クラスの女の子とも仲直りしてからは仲がよかったみたいだし、ローリーが無防備過ぎるから教えた可能性も考えてたけど……その顔、違うんでしょう?」
キャリーの言葉に大きく息を吐く。苛立ちは収まっていない。
鋭くなっているだろう目をキャリーにそのまま向けた。
「ローリーに教えた馬鹿な男がいたのね?」
キャリーは確信したように怒りを目に宿している。
苛立ちを抑える為に息を長く吐き出す。
「はあー……。……ああ、いたよ。馬鹿な奴が二人。俺もこないだ知ったばかりだけどな……」
ぐしゃぐしゃと自分の橙色の髪を掻き乱す。マイクとカールの事を思い出すと腹の底から怒りが湧いてくる。
顔を歪ませて吐き捨てた俺の言葉にキャリーは怒気を纏わせて唸るように言った。
「へえー……。ローリーに男が女性の胸触りたいとか考えてるっていう事を教えたのね、そいつら……!」
キャリーの言葉に噎せる。
「キャリー、お前ちょっと恥じらい持てよ!口に出すな!」
――口に出されるとローリーに耳元で言われた内容思い出しちまうじゃねぇか!
それにキャリーも女なのに仮にも男の前でそんな話をするのはどうなんだ。カインはキャリーをしっかりしてると評していたはずだが、本当なんだろうか。
騎士団が男が多い環境だから毒されている気がする。
――……あとでカインに言っとくか……。
「はい?言われた事知らない訳じゃないんでしょ?」
怪訝な顔で問われるので溜め息を吐きながら頷く。
「そりゃ……知ってるに決まってんだろ。……ローリーに教えられた」
思い出して羞恥と怒りが両方湧いてくる。けれど今は怒りの方が強い。
思わず作った拳の内側では爪が深く手のひらに食い込んでいく。
キャリーは怒りに満ちた声で聞いてくる。
「……私、さっきの以外は知らないんだけど……ローリー、どれぐらい……教えられてたの?」
「……殺してやりたくなるぐれぇだよ……!!」
キャリーの問いに抑えきれない殺気が溢れ出した。
あの時ローリーにマイクとカールの両親の話を出されなければ確実に息の根を止めに行っていた。
――あの野郎共……!!
いくらローリーが無防備だったからと言っても、あいつらはあきらかに言い過ぎていた。
「へえ…………。……ブライト、そいつらってやっていいの?」
氷点下のキャリーの眼差しに自分の心を宥めていく。俺がここまで怒っていてはキャリーがそう言うのも当然だろう。
俺はキャリーの問いに首を振った。
「……流石に親御さんが悲しむから駄目だ。一応俺もローリーも親御さん知ってっからな……」
マイクとカールの両親には俺やローリー、ユーヴェンや他のクラスメイトもよくしてもらった。マイクはパン屋の息子でカールは食堂の息子だから食べに来いとよく誘われて行っていたのだ。
キャリーは納得いかなそうに眉を顰めたが、一度目を伏せて息を整えた。
「はあ……仕方ないわね……。親御さんを知っていたらやりにくいわ……」
「ああ……。……一応な、あいつらも無防備なローリーを心配したんだ。……昼間、メーベルさんが最低な奴の指を俺が折ろうとしたって話をしてただろ?そん時にな……たぶん男に対して無防備過ぎたローリーに俺とユーヴェン以外は信用すんなって言ったんだと思うんだが……」
マイクとカールの両親を直接知らないキャリーに一応フォローしておくが、あいつらをフォローしているという自分に苛立ってくる。
――なんで俺があいつらのフォローをしなきゃなんねぇんだ……!いや、これはマイクとカールのご両親の為だ……!
キャリーも胡乱な目で俺を見ている。
「ふーん……。その最低な奴は何したのよ?」
「ローリーをわざと転ばせて助けるふりして胸を触ろうとしてたんだよ……!あの野郎には地獄を見せてやったけどな……!!もっと死ぬ程後悔させてやりたかった……!!」
ダンっと拳を自分の太腿に打ちつけて、思い出した怒りの手綱を取ろうとする。
あの頃は俺のできる事が少なくて直接は手を下してやれなかった。
「そんな奴が……!?」
キャリーも目を丸くしてギリッと歯を鳴らした。
「学園祭準備で俺とユーヴェンがいねぇ時にローリーに話し掛けてたみてぇでな。元々そんな事ばっかしてる野郎だったんだよ。そいつと同じクラスの人にその事を教えてもらって、ローリーに注意しようと思ったら……そいつがちょうどローリー転ばせてたんだよ!あのクソ野郎!!」
ドンッと訓練場の壁に拳を叩きつけた。
ローリーを怖がらせる訳にはいかなかったからローリーに説明した時はなるべく淡々と話すように気をつけていたが、正直あの出来事は思い出すだけで腸が煮えくり返る。
「とんだクソ野郎じゃない!!」
怒りを顕にするキャリーに腹の底から唸る。
「ああ……!!ローリーはユーヴェンが助けて無事だったけどな!許せるもんじゃなかった……!!」
「それでそんな輩が居たから……馬鹿な男二人がローリーに教えたの?」
顰めっ面でキャリーが聞いてくるので、大きく溜め息を吐きながら頷く。
「はあー……そうなんだよ。ユーヴェンがそのクソ野郎連れて行った俺を追って来てな。同じく学園祭委員してた馬鹿野郎二人にローリーを任せたんだ。そん時に言ったみてぇで……。…………正直その頃のローリーは…………なんだ、男子ともその……あんまり考えずに接していた……というか……」
眉をぐっと寄せながら苦々しく言う。
……まあ思い返してみるとあの頃のローリーは危なっかしい感じではあった。男子とも普通に距離を詰めて話していたのだ。たぶん俺達と一番仲が良かった弊害だ。
ローリー的には距離を空けていたのだろうが、俺達と距離が近いせいで感覚が狂っていたのか近かった。
俺の言葉にキャリーは天を仰ぐ。
「……ああ……あんた達がいつも近くに居て守ってたから……ローリー自身は注意してなかったのね……」
それには反省を込めて深く頷く。
「おう……。それは……俺の失態だと思ってる……。それでもあいつらがローリーに言った内容は言い過ぎだ……!ローリーに吹き込んだ事を死ぬまで後悔させてやる……!!」
しかも何年もローリーの胸の内に抱え込ませていた。それを加味すればあいつらの罪は重い。
キャリーはそんな俺にひとつも笑っていない笑みを向けた。
「それ、私も参加したいわ。あとカリナもね」
それに口端を上げてふっと笑う。
「わかった。参加させてやる。ただ……俺がいっぺんやってからだ。あの馬鹿共に俺がとことん思い知らせてからローリーに知らせる。そんでローリーが知ったら止めそうだからそん時は俺がどっかに連れて行っとく」
ローリーは意外と甘いのだ。この前もマイクとカールの事を庇っていた。
「わかった。それでいいわ。流石にあんたと一緒に制裁やるのをローリーに内緒って形はよくないものね」
キャリーは聞き分けよくそう言って頷いた。
その言葉にローリーの言っていた事を思い出す。
――……キャリーがそうやって気ぃ使ってるし……カインを制裁する事言っといた方がいいか……?
ローリーもキャリーに黙ってするつもりは多分ないだろう。……内容は言わないかもしれないし、キャリーを立ち会わせるつもりもないかもしれないが。……きっとローリーはカインの気持ちについても責めるつもりだろうし。
――まあ……先に言っといても構わねぇか……。
ローリーなら理由を言ったら納得するだろう。
「あー…………そういやローリー、カインに制裁したいって言ってたぞ」
「え?」
俺の言葉にキャリーは目を瞬かせた。
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