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―ローリーの癖―


 キャリーは深く溜め息を吐いた。


「あんたねぇ……そんな言い分が通用すると思ってんの?あんたを呼ぶ時にローリーが袖とか裾を掴むってのはなんなのよ?そんなの甘えてるとしか思えないんだけど」


 胡散臭い目で見てくるキャリーに頭を掻く。


「あれは……ローリーの癖みたいなもんだ。俺にリックさんを重ねてたからやってたんだろ」


 今日だってそう言っていた。


 ――リックさんみたいに見てたなら……多少は甘えられてたのは分かるが……。


 でも今の甘え方と比べると遠慮があった。


 ――今は遠慮なく甘えてきててすっげぇ可愛いんだよなぁ!


 ……まあ遠慮がなさ過ぎて困っているのも事実だが。


「癖ねぇ……。でもやってるの見た事なかったわよ?ローリーをブライトが迎えに来た時に服を掴んだのは見たけど……あれはローリー寝ぼけてたし……」


「学園卒業したぐらいからやめてたんだよ。たぶんローリーもリックさんに見られるのは駄目だと思ってたんじゃねぇか?リックさんのいる前じゃやってなかったからな」


 ――あれはちょっと寂しかったなぁ……。


 ローリーが俺を呼ぶ時に裾や袖を引っ張るのをやめたのに気づいたのは勤め始めてすぐの頃、昼休みにローリーに会った時だ。


 良く晴れた日、まだ勤め始めたばかりのローリーが気になって魔道具部署の方まで足を伸ばしていた。


 『アリオン!』


 まだ勤め始めたばかりだ。知っている俺の顔を見て安心したように笑ったローリーは俺の所に走ってきた。

 俺はローリーにご飯を食べたのか聞いて、これからだと言うローリーに一緒に食べるかと誘った。それに嬉しそうに頷いたローリーに笑うと、ローリーも嬉しそうに笑って口を開いた。


 『アリオン、あのね』


 そう言いながらいつものように俺の制服の裾を引っ張っろうとしたローリーは、引っ張る前にハッとしたように手を止めた。

 どうした?と聞くとふるふると首を振る。


 『……いいえ、なんでもないわ。これクッキー。ユーヴェンやアリオンに会えたら渡そうと思ってたのよ』


 持っていた袋の中からクッキーを入れた紙袋を取り出して俺に渡してくれた。ちょっとだけ寂しそうな顔と、さっきの行動。

 きっと就職したから裾や袖を引っ張って俺を呼ぶのを終わりにするつもりなのだろうと悟った。学園では見知ったクラスメイトがいつも俺達の周りにいたが、王宮では知らない人ばかりだ。


 学園にいた間ずっとしていたローリーのその行動が終わるのは寂しかったが、ずっとローリーの兄気分でいた俺にはいい薬なのかもしれないと思いながら、礼を言ってクッキーをローリーから受け取った。


 人混みを歩く時は裾を掴ませるが、それ以外では掴むようなことはなくなっていた。

 それは寂しかったが、これが大人になるという事だと自分に言い聞かせていた。


 けれどローリーは二人で飲みに行った時から思い出したかのように裾や袖をまた引っ張り始めた。

 もしかしたらローリーは就職してからずっと気を張っていて、飲みに行った後から少し気を緩めたのかもしれない。


 飲んでいる時に嬉しそうにしていたローリーを思い出す。


 ――俺が助けるって言ったの……すげぇ嬉しそうにしてたんだよな……。


 にこにこと笑っていたローリーに何度心を射抜かれた事か。


 キャリーは思い出して口元が緩みそうな俺を胡乱な目で眺めている。

 ……なんか俺の考えがバレていそうな気がする。


「今はまた戻ってるのね、そのにやけ顔……。まあローリーもガールド隊長が自分を溺愛してるから、そういうの見られないようにしてたのね。別部署とはいえ同じ王宮勤務だもの……」


 キャリーの言葉にさっと顔を逸らす。そんなににやけていただろうか。


 ローリーは俺達がリックさんに理不尽に怒られるのはいつも文句を言っていた。だからリックさんの前での俺達に対する態度はいつもと少し変えていたのだ。


 ……俺はローリーを見ながらエーフィもそんな事をしているかもしれないとちょっと考えた。しかしアレンを問い詰めたと知れたら、あとでエーフィが怒って暫く口をきいてくれなくなるに決まっていたので問い詰めた事はない。……俺だって妹のエーフィに嫌われるような事をするのは避けたかった。……それに一応アレンの事は生まれた時から知っているのだ。…………多少は信用している。


「子守唄は?」


「…………」


 すとんと落とされたキャリーからの問いに沈黙する。


 ――あれは……確かに……あ、甘えてた、のか……。


 なんだか昔からローリーが俺に甘えていたと言われるとむず痒い。


 今度はにやけないようにぐっと口元に力を入れていると、キャリーはにやっと笑った。


「へえー……してたのね、その反応。本当にローリーってばブライトに甘えてたのねー」


「……うっせえ」


 鋭く気づくキャリーを恨めしく見ると勝ち誇ったように笑って返してくる。


 ――こういうのには目敏いのになんでカインの好意にはひとっつも気づかねぇんだ、こいつ……。


 ……やっぱり数年にも渡ってカインが突っ掛かっていたからだろうか。キャリーは喧嘩している時も少しカインに歩み寄ろうとしている態度は見せていた。

 なのにカインがキャリーに俺のことが好きかどうか聞いた途端、キャリーの機嫌がすごく悪く……。


 ――……?あれ、なんでだ?


 カインに俺のことが好きかを聞かれてなぜ機嫌が悪くなるんだ。

 なんだかまるで……カインに俺を好きだと思われるのは許せない、みたいな感じにも今思い出すと思えてしまう。まあ許せないのは当たり前だとは思うんだが……それにしても胸ぐらを掴んで舌打ちしてまで怒ることだとは思えない。

 だってあの時、キャリーはカインに歩み寄るような態度だったのだ。その前の質問を答える時もカインのしつこさに苛ついてはいたが、あそこまで怒ってはいなかった。


 そう、なんだかまるで……好きな人に別な人を好きだと言われて怒ったような……。


 ――いや、まさかな。


 一瞬浮かんだ考えをすぐに否定する。

 キャリーのカインへの態度を見ているとそうとは思えないのだ。


 ――…………でも俺の目節穴だしなぁ……。


 どうせキャリーに聞くつもりもない。そういった役目はローリーやメーベルさんのものだろう。

 キャリーの心の内はわからないが、俺は不憫なカインを応援してやろうとは思っているのだ。だからその範囲でやっていこうと心に決める。


 ――まあいくら俺の目が節穴でも……ねぇだろうな……。


 昨日キャリーがカインの可愛さをとても楽しそうに語っていたことを思い出す。


 ……やっぱりカインは不憫だ。



更新が遅くなってすみません。


読んで頂けて嬉しいです。

これからもよろしくお願いします。


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