思考停止と制裁
それに私は考えたのだ。
「騎士団と騎士団事務中に広がってるフューリーさんの気持ちよりはマシよ……」
「え?」
カリナが目を丸くして私を見た。
「ああ……」
ユーヴェンは苦笑いで頷く。フューリーさんの噂の件を思い出したのだろう。
「私達の学園の卒業生だけだし、多少広まっていたとしても……1000人以上に広まってるフューリーさんのあの所業よりは……まだ平気でしょ……」
そうだ。素直になれずにスカーレットに突っ掛かるというフューリーさんの幼年の子供みたいな態度で気持ちが広がったよりはマシだろう。
しかも騎士団と騎士団事務を合わせたら1000人超えだ。すごい範囲である。
――アリオンはずぅっと優しく大切にしてくれてたもん……。
……ちょっとフューリーさんの相手であるスカーレットが可哀想に思えてしまう。
――スカーレット、ごめんなさい……。
届かない謝罪を心の中で唱えた。
「え……ローリー……フューリーさんの気持ちって……そんな事になってるの……?」
カリナが驚いたように言うので頷く。
「ええ。カリナもすぐに気づいたでしょ?どうもフューリーさんが突っ掛かっていたのはね、スカーレットが好きなのに素直になれなかったから突っ掛かってたみたいで……」
大きく溜め息を吐く。素直になれないのは……ちょっとわからなくもないけれど……仲が良かったのに突っ掛かるのはやり過ぎである。スカーレットが悩んでいたのだ、それは許せるものではない。
カリナも私の言葉にすっと目を細めた。やっぱりカリナも許せないようだ。
「そうそう。カインはわかりやすくスカーレットさんの話には顔を赤くしてるから丸わかりだって同僚が言ってた」
「しかもフューリーさんがアリオンに突っ掛かってたのも、スカーレットをいつも女性にしてるようにアリオンが褒めちゃったからそれで敵視して突っ掛かってたみたいでね……」
アリオンを敵視するより先にやるべき事があったと思う。
「確かカインにアリオンが突っ掛かられるようになったぐらいから騎士団事務内でも広がり始めたみたいなんだよなー。アリオン騎士団事務の女性には優しく接するからさ、人気あるから話題になったって同僚が言ってた」
「人気……」
その言葉に少し不安になる。やっぱりかっこいいアリオンは人気があるのだ。
「ローリー、ブライトさんはローリーの事が大好きなんだから大丈夫だよ」
カリナの言葉にこそばゆくなりながら頷く。
「そうだよ、ローリー気にすんなって。アリオンは観賞用だって言ってたぞ。それにローリーの事も俺よく聞かれてたからさ……たぶんアリオンの気持ちバレてる……」
「……そう、なの……」
……あれ?それってもしかしてアリオンの気持ちって騎士団事務内にもバレているという事だろうか。
…………あんまり深く考えるのはよしておこう。
「ふゅ、フューリーさんの気持ちって……騎士団内でもすごく広がってるんでしょ?」
なんとか軌道修正を計る。
たぶんアリオンの気持ちがバレているのは騎士団内でも知り合いぐらいだ。恐らく。
ユーヴェンはコクリと頷く。
「おう。だってカインとスカーレットさんの喧嘩って毎回だから流石にみんな知ってるみたいでさ。よく話す正騎士の人に聞いたら上官も既に把握してるって言ってた。やっぱり任務組むにも相性があるから騎士同士の人間関係の把握も大事なんだってさ。カインとスカーレットさんって毎回会うたび喧嘩してた割には任務時だけはすっげぇ息が合ってたから配置が難しいって前言ってたなー。カインとスカーレットさん仲直りしたから、みんなほっとしてるんじゃないか?」
ユーヴェンの話に遠い目をする。上官にまで完全に把握されているとは少し不憫だ。自業自得だけれど。
――でも任務では息が合ってたなんて……流石昔馴染みだわ……。
……普段もそうしていればよかったのに、とは思ってしまうけれど。
「そうなんだ……。フューリーさんの気持ちって……本当に騎士団の人達に浸透しちゃってるんだね……。……でも学園を過ごした中の卒業生って……王宮だけにいる訳じゃないから……下手したらそれ以上いるんじゃ……」
カリナの同意から続いた言葉にピタリと止まる。
「カリナ!ローリーが止まった!」
「あっ!?ごめんね、ローリー!つい口から出ちゃった……!」
……学園の平民の一学年は大体20人前後のクラスが成績で分かれて8クラスあった。そうすると一学年160人前後……六学年で860……。三年次半ばで親衛隊が応援隊になったと言っていて……でももちろん全員が応援隊な訳はないはずだから……でも学園中の噂にはなってて……。それでいて新入生が入る毎にアリオンの事を説明されていて……?
思考を巡らすのを途中でやめた。考えるのが怖い。
「ローリー!アリオンお前を大事にしてただけだから!カインみたく幼年のガキみたいな態度を拡散された訳じゃないから!」
「そうだよ、ローリー!見守るだけだったみたいだし、フューリーさんみたく突っ掛かる子供みたいな愛情表現を見られてた訳じゃないよ!」
二人のフューリーさんの評価に顔を上げて苦笑した。
「……二人共フューリーさんに厳しいわね……」
二人のフューリーさんの厳しい言葉に色々と吹き飛んでしまった。厳しくなる気持ちはものすごくわかるけれど。
「まあカインはいい奴だとは思うけど、スカーレットさんへの態度だけは謎だったし。今はだいぶ改善したみたいだし、スカーレットさんが許してるみたいだから俺は何も言う事ないけど」
ユーヴェンもフューリーさんのスカーレットへの態度は思う事があったらしい。
確かにユーヴェンは素直過ぎるぐらい素直だからフューリーさんの素直じゃない態度はわからないのだろう。
カリナはにっこりと笑った。
「私はね、スカーレットにそんな理由で突っ掛かってたの聞いてちょっとイラッときてるんだぁ」
これはだいぶお怒りのようだ。カリナに深く頷いて同意する。
「まあ気持ちは分かるわ……。今度アリオンと一緒にフューリーさんに制裁しましょって言ってるんだけど、カリナも来る?」
「!うん、行く!」
パッと顔を輝かせるカリナに私も笑う。
「あ、ユーヴェンの制裁はどうしましょうか?」
「え」
ついでにユーヴェンへの制裁の件も聞くと、ユーヴェンの思ってもいなかったような声が漏れた。
私もカリナも気にすることなく話を続ける。
「流石に一緒にはできないね……。スカーレットにはフューリーさんの件言えないもん……」
難しい顔をするカリナに、私も頬に手をついて息を吐く。
ユーヴェンはなんともいえない顔で沈黙している。
「そうなのよね……」
「とりあえずみんなが落ち着いた頃に考えよ。二人の制裁内容も考えておかないとだし!」
「そうね、考えましょう」
「うん!」
にこにこと話している私達に、ユーヴェンが諦めたような声音で呟いた。
「……俺とカイン……どうなるんだろう……」
それはお楽しみである。
カリナと二人でふふっと笑い合った。
本日分です。
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