衝撃の事実
バツが悪そうな顔をしているユーヴェンに問い掛ける。
「アリオンの気持ち……学園中に……バレバレ……だったの……?」
「おう」
ユーヴェンは苦笑しながら頷いた。
…………やっぱり私ってただの鈍感なんじゃないのだろうか……。
……これ考えるのやめよう……。負けた気がする……。
「…………なんか……不思議と敵意も何もなく、アリオンの事をどう思ってるか、って聞かれること多かったけど……もしかして、それ……?」
私はよくアリオンの事を聞かれていた。
敵意とかあったのも多かったけれど、不思議とキラキラした瞳で「ブライトさんの事をどう思っていますか?」と聞かれる事もあった。それは学年が上がるにつれて増えていったように思う。……大体「友達よ」と言うと、質問に勢い込んでいたその人達は途端に大人しくなって「いきなりごめんなさい」と引き下がって行った。アリオンの事を好きなら普通はもっとはしゃぐはずなので不思議には思っていたのだ。
――……あれが……応援隊の人……?
その質問は色んな人達にされていたように思う。……学園中という言葉が真実味を増してしまった。
「たぶん。アリオンとローリーの距離がいつ縮むか……楽しみ?にしてたみたいだから……。二人が一緒にいるのが人気だったみたいでさ……一回俺に少しだけ離れてくれませんか、ちょっとだけでも二人の世界を見たいんです……って頼む人がいてさ……。あんまり必死に頼むから少しだけって思って俺席外したんだよ。そしたらどこに居たのか沢山の人が遠目からお前等二人を眺めててさ……。結局戻れなくなってお前等が俺を探しに来たなぁ……」
「ちょっと何やってんのよ、ユーヴェン!!そんなの頷かないでよ!」
「いやあ……つい……」
ユーヴェンに思わず怒る。
――こいつ情報与えてないって言ってたのに、ある意味エサみたいなもの与えてるじゃない!
怒りに震えていると縮こまりながら「ごめんなさい」と言ってきた。それに睨んで返す。
「その……一回だけだから……」
「……まああんたが学園内で急にいなくなったの……覚えてる限りじゃ一回ぐらいね……」
「だろ!?」
ユーヴェンとは学園内ではほとんど一緒だった。たぶんアリオンが……過保護でお節介のアリオンがユーヴェンに学園内では私と一緒にいるよう厳命していたんだろう。それを考えるとむっとしてしまう。
アリオンは時々……何かをする為にいなくなっていたけれど。昨日や今日知ったアリオンの行動に胸がくすぐられる。
ーーアリオンってば……本当に……わ、私の事……で、溺愛……してるんだから……。
考えただけでも顔から火が出そうになった。
そんな気分を落ち着けようとユーヴェンをジト目で見て忠告しておこうと口を開いた。
「……休日に遊んでる時はいつの間にかよくいなくなってたけどね。まあ背の高いアリオンがちょっと見回したら近くにはいるけど」
ユーヴェンは学園内だとだいぶ気をつけていたが、遊びに王都に出ると絶対にアリオンが私といるからか……むしろ最初から遅刻してくるのが当たり前だったのでその辺りの意識で学園内とは違ったのか……面白い物とかを見つけるとふらっといなくなっていたのだ。
私が後ろを振り向くといないからアリオンの裾を引っ張って知らせると、アリオンは溜め息を吐きながらキョロキョロと見回して見つけていた。そこまで大きくない私はいつもアリオンの側で見つけるのを待っていた。
流石にそうやって逸れる時は人混みの中なので、私はいつもアリオンの裾を持っていて。
『あー……いた』
見つけて声を上げたアリオンに「近く?」と聞いて。
『おう。ちょっと戻るぞ。人混み突っ切るから俺の服離さねぇよう気をつけろよ』
そしていつものように私を気にしてくれるので、私はわかった、と頷いた。
『ん』
優しく笑ったアリオンは人混みを突っ切ると言っていたのに、私は人の流れを感じることなくアリオンの後ろを歩いていた。それはきっと、守ってくれていたからだ。
そうしてユーヴェンの所に行くと、アリオンはユーヴェンの頭を最初にどついて「勝手にいなくなるな」と怒っていた。そこで私もアリオンの後ろから顔を出してアリオンと一緒にユーヴェンを責めるのだ。
そんな日々が日常だった。それがとても懐かしい。
私の言葉に目を泳がせたユーヴェンは申し訳なさそうに返した。
「あれは……ほら、面白いもん見つけたから……。お前等にも見せよーと思ったらいなくて……」
「それカリナといる時にやったら許さないわよ」
そう言って睨みつけると勢いよく首を振った。
「や、やらないって!俺カリナから目を離さないから!」
「!!」
カリナが私の後ろにサッと隠れた。ちらっと見えた耳は真っ赤だ。
「……はあ、ならいいわ」
返答は正直過ぎるが、そこまで言うのならカリナから目を離す事はないだろう。
ユーヴェンはもちろんだと言うように力強く頷いていた。
「……ローリー……」
カリナが少し恨めしそうに言ってきたのにふふっと笑う。
「カリナが一人になったら危ないもの。だからユーヴェンから離れちゃ駄目だからね。私の時はアリオンがいつもいたからいいの」
「……もう、わかってるよ……」
こんなに可愛いカリナを街中で一人にはできないのだ。
ユーヴェンは抜けている所はあるが、学園内ではいつも私と一緒にいたようにちゃんとすべきところはしっかりこなしていた。
最初からカリナから目を離すとは思っていないけれど、こう言っておけば更に効果があるだろうと思ったのだ。
カリナは頬を膨らませながらもまた話を戻した。
「…………とりあえず余計なお世話を焼く人がいなかった理由はわかった……。見守るを破ったら一切情報を与えられないっていう……その人達には死活問題の罰があったからなんだね……。……ユーヴェンに頼んだ人は大丈夫だったのかな……?」
――死活問題……私とアリオンの情報を与えられないのが……?
妙に恥ずかしくなってしまう。
「わかんないけど……。でもアリオンやローリーに言った訳じゃないし……色んな人が見てたから大丈夫なんじゃないか?」
「そうだね……。たくさんの人がみんなブライトさんとローリーが二人になるの気になってはいたんだろうから……大丈夫……かな?ふふ、なんかつい気になっちゃった……。それにしてもそれ……ずっとでしょ?長いね……」
「うん。まあ学園卒業しても二人共変わらないなんて……思ってたのかわかんないけど……」
二人の会話に大きく溜め息を吐いた。
「なんだか……知りたくなかった事実を知っちゃったわ……」
頭を抱えるとカリナが背中を擦ってくれる。
「まあ応援隊の人達も応援する為にアリオンやローリーの変な噂が回らないようにしてるみたいだし、そこまで悪い人達じゃないと思うぞ」
ユーヴェンが励ますように言った言葉に違和感を持って首を傾げた。
「……?……してるみたいって……なんか現在進行系ね……?」
私の返しにユーヴェンは目をパチリとさせた。
「え?今もいるはずだぞ。ローリーとアリオン、学園時代にはくっつかなかったから」
「…………はい?」
ユーヴェンの言葉に思考が止まる。
――今も、いる?
それはどういう事なのか、意味が理解できない。いや、理解しようとするのを頭が拒否していた。
そんな中でカリナがユーヴェンに問い掛ける。
「今もいるんだね……。……え、もしかして王宮で働いてる人にいるの……?」
カリナの問いにピタッと止まる。
――え、王宮……?
「あー……だって、親衛隊から数えたら応援隊の歴史は長いからさ……俺達の先輩も当然いる訳で……」
ユーヴェンの答えに信じられなくて大きく目を見開いてユーヴェンを見る。
ユーヴェンは困ったように笑って頬を掻いた。
「あ、そっか……。それで学園中まで広がって、なら……王宮に就職した人達の中にも居て当然だよね……」
「…………」
納得したカリナの同意に、一瞬気が遠くなって足がふらついてしまった。
「わっ、ローリー!?大丈夫!?」
驚いたカリナが支えてくれる。
私もなんとか倒れずに踏み留まった。
カリナもユーヴェンも心配そうな顔を私に向けていた。そんな二人にぽつりと言葉を零す。
「…………衝撃が大きいわ……」
まさか今もいるなんて思っていなかった。
――学園時代の出来事だろうと聞いていたのに……今も見守られているの?私とアリオン……。
アリオンと距離が縮まった事とかもしかしたら報告されているんだろうか。
――あうう……恥ずかしいわ……!
支えてくれているカリナにぎゅうっと抱き着くと、背中をポンポンと叩いてくれた。
読んで下さりありがとうございます。
昨日もう一話更新すると言っていた分です。
遅くなってしまい申し訳ないです。
今日は今日の分でまたあとで更新します。
よろしくお願いします。




